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誰かであり、誰でもない───「しまなみ誰そ彼」

「たすく、お前ホモ動画見てたん? お前、そうなん?」

夏休み前、クラスメイトに問い詰められる少年・要 介(かなめ・たすく)。
彼には想いを寄せる同性の同級生がいた。

「バカじゃねーのホモなんて。きもいわそんなの。」

「「違う」って言えばいいだけなのに、
自分が一番言われて傷付く言葉を使ってまで、
その秘密を守ろうとした。」

「しまなみ誰そ彼」1話

「しまなみ誰そ彼」/鎌谷 悠希

ゲイ。レズビアン。トランスジェンダー。アセクシャル。クエスチョニング。
「性的少数者」と呼ばれる人々にも様々な呼称がある。
呼称がある事に対して安心感を覚える人もいれば、
そのカテゴリに当て嵌まらない、当て嵌めたくない人もいる。

「しまなみ誰そ彼」は、広島・尾道を舞台に、
「誰かさん」の「談話室」に集う、様々な人達の世間や自分との関わりが描かれています。

───
異性装をする小学生の男の子・美空 秋治。
しかし、男性を好きなわけでも、女性になりたいわけでもない。

「たすくさん。
僕は僕のためにこの服を着るんです。
僕が着たいから着るんです。」

「しまなみ誰そ彼」6話

性的少数者同士だから分かり合える。
なんて事はありません。

たすく少年は秋治くんを分りたい、
自分が「そう」かもしれないと思った時に居て欲しかった理解者になりたい、と思うも、
なぜ秋治くんが女装をするのか分からず、衝突し、
秋治くんは談話室を訪れなくなります。

───
空き家再生活動を行う「猫集会」の代表・大地さんはレズビアンの女性で、
話の流れで地域振興課の職員にカムアウトしてしまい、
「猫集会」は「そういう人たち」の集まり、などと思われる。

「ここが出会いの場みたいになると、ヘンな噂立てる人もいますからね…」
「ビアンやゲイは四六時中、恋愛とやらしいこと考えて歩き回ってるゾンビじゃないですよ」

「しまなみ誰そ彼」8話

───
左官職人の内海さんは、女性から男性になったトランスジェンダーだった。
「猫集会」の活動で女性だった時代を知る同級生・小山さんと再会する。
小山さんは「絶対の好意」で性的少数者へ寄り添おうとする。

「娘の同級生にもね、そういう子がいたら声かけてねって教えてるの。
(中略)みんなが性的少数者のこと、理解する機会をどんどん作っていきたいって思ってるの。」
「なんで自分の娘や家族が「そういう人」かもしれない可能性を考えないんだ」

「しまなみ誰そ彼」14話

「小山さん。
俺は確かに女の体で生まれて今、男として生きてる。
こどもの頃は何もわからなくてただ不安で怖かったよ。
でも別にそれをアイデンティティにしてるわけじゃないし、
俺のことを全人類に丸ごと理解してほしいわけじゃないんだ。」
「でも、知らせることを諦めたら結局、
皆わかり合えないじゃない!
私は夏美ちゃんのような人達が誤解されてほしくない!
同性愛の人とは違うんだから、」
(中略)
「そうやって友人を傷つけられてまで、
俺だけをわかってもらいたいとは思わない。
俺を、みんなを、馬鹿にしないでくれ」

「しまなみ誰そ彼」14話


たすく少年が想いを寄せる同級生・椿 冬馬は自分が、「猫集会」のみんなが何か分からず苛立つ。
クラシック音楽を流す「チャイコさん」には闘病しているパートナーがいる。
「談話室」オーナーの「誰かさん」は、…。

自分が何者かわかっているひとも、わからないひとも、
決められないひとも、決める必要のないひとも。
様々な人が集う「談話室」。


LGBTQ+とは?
多様性とは?
自分も「そう」かもしれない。
「そういう人」の事は怖い。
なんだかよくわからない。
そんな方に一度読んでもらいたい作品です。

登場人物がニックネームで呼び合うのが、
なんだか児童文学のようでとっつきやすいな、と個人的に思っています。
けど、内容はグッと心にくることばかり。

「僕は同性愛者ですが、それを知ったあなたは僕のことをどう思うんですか。
僕のことを…どうしますか?」

「しまなみ誰そ彼」19話

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