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四国のひとに聞いてみる! Vol.8〈鈴木美恵子 氏〉 -芸術に今、これから出来ること-


鈴木美恵子(すずきみえこ)氏 (シアターネットワークえひめ/シアターねこ代表)
〈プロフィール〉
広島、仙台での演劇活動を経て、松山で劇団を立ち上げ。
その後演劇鑑賞団体松山市民劇場事務局長を経て、2007年NPO法人「シアターネットワークえひめ」を設立し、地域の舞台芸術振興のための、意識啓発活動、人材育成事業、創造空間整備事業など文化芸術の環境作りを目指す。2012年よりシアターねこ代表を兼務。

今回は松山の小劇場「シアターねこ」代表の鈴木さんにお話を伺いました!

-鈴木さんのこれまでと現在の活動を教えてください-

若いころに「これは面白い!」と思って演劇を始めました。
演劇って特殊で1人ではできないですよね。色んな要素があって、複合的で面白い。人が集まらないと出来ない、1人ではできない、総合的な美意識が求められます。1人1人の個性がいかされるので、ひょっとしたらあなたが美術に精通していたら、じゃあ、あなたは舞台美術を担当してみてとかね。そこがすごく面白い。

昔、東京に芝居を観に行って感じてたんですが、地方との文化芸術環境の格差がすごいですよ、公的な整備も含めて。地方と東京では人口の差が圧倒的にあるからこれは致し方がないことだとも思うんですけど文化芸術の格差は子どもたちの未来が違ってくると思うと、それはまずいなぁと。

そのときに中高生向きの歌舞伎ワークショップをしていました。東京では一流の歌舞伎役者の指導を学校教育の一環で受けられるんですよね。全然地方と違います。
こんなに東京は進んでる。地方でもそんなことが出来ないかと、そういうところから私はNPO法や活動にだんだん関心をもっていきました。

2001年に文化芸術振興基本法が出来て、2017年に文化芸術基本法に変わり、劇場,音楽堂等の活性化に関する法律が2013年に施行され、法的な整備が文化芸術に行われました。ただそれに地方が沿って事業が出来ているかというとそこまでは行けていない。それは愛媛でもそうです。

NPO法は1998年に施行されました。1995年の阪神淡路大震災をきっかけに市民活動という考え方が広まったんですよね。行政だけではまかなえないところを補うこと、民間が地域を支えること、市民としての自治意識、それがやっぱりとても大事という考え方に影響を受けました。社会が変わると思いました。

それで、地域課題としての文化芸術振興という形で貢献していく「NPO法人 シアターネットワークえひめ」を立ち上げました。舞台芸術にずっと関わってきて場の重要さは身に染みていて、あちこち転々としましたがやっと今の幼稚園跡に落ち着き「シアターねこ」を設立しました。

今は文化芸術振興だけじゃなくて、就労継続支援B型事業所「風のねこ」も始めました。その活動もやっぱり演劇とすごく結びついています。難しいですけど演劇って相手を知る、他者を理解するところから始まるじゃないですか。
障がいを持つ人と健常者が混じる空間や作品は、気づいたら障がいがあるとかないとかは関係ないんですよ。普通ってなんなのか。結局皆それぞれ違っていて、共に生きていくってことですよね。
多様性は常に居心地の良いものではない。ぶつかり合いながら、許したり受け入れていく演劇にはそれができると思います。
クオリティーの高い福祉というのは文化芸術の基盤の上に成り立つものだと思ってるんです。

この作業所も今年くらいから軌道に乗れるかなと思ってたんですが・・・
まあそういう大変なときにコロナが来たんですよね(苦笑)

シアターねこ

※シアターねこ外観

-昨今の新型コロナウイルスによる影響をどう捉えられていますか?また、ご自身の活動で影響は出ていますか?-

困ってます。
シアターの使用が出来ないから収入が一切無い。でも家賃とかは払わなきゃいけない、持ち出しですよね。深刻です。
シアターは常に自転車操業でやってきましたからね。

この事態に対して毎月発行しているシアタ-ねこしんぶんで「コロナ特集」を組むことになりました。ここ三年間で当館を使ってくださった方々に寄稿を募りました。5月号と6月号で発行します。

でもウイルスの関係で紙媒体の配布が出来ない状況なんです。ポストに投函とか、施設においてもらうとかも今の状況では出来ない。だからネット配信で、シアターねこホームペーシで検索してくださいね。

作業所のほうもコロナの影響で人が来られなくて厳しい状況です。

全国でも、全国小劇場ネットワーク会議や小劇場エイド基金がスタートして、私たちの意見も取り入れてもらいながらクラウドファンディングに取り組んでいます。
民間劇場は大打撃ですよね。京都でいうとE9(THEATRE E9 KYOTO)とかは、昨年スタートしたばかりで大変ですね。

最近はZOOM会議で頻繁に話し合いをしますけど、民間劇場はそれぞれ地域の事情や成り立ちも異なるので、画一的には難しい。

松山は芝居だけで食っていける人はほとんどいないですよね。みんななにかしら、本業を持ち、余暇に演劇しているのが現実です。
でも公演が出来ないでしょう。稽古も出来ない。活動がとまるということ。これは問題ですよね。無観客公演をして、オンラインで流すという手法も開発されていますが・・・観客によって完成するという演劇はきついですね、この現状は。やっぱり生身の身体がそこにあってこそですから。

公演をするぞっていうその気持ちが切れないようにすることが大切です。私はその気持ちを支えることが今の役割だと思っています。

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※TOON戯曲賞2018大賞演劇公演「草の家」パンフレット(企画運営:NPO法人シアターネットワークえひめ)

-この状況下に置かれた芸術(舞台芸術)がなせることは何だとお考えですか?-


舞台芸術はですね、なにも出来ない。手も足も出ない。
演劇って稽古場で人と人が集まって小さな小さな工夫を積み重ねて作りあげていくわけですよ。三密禁止の今、それが出来ないですよね。しかし、今だからこそ、個に還り自分の演劇に対する思いや考えを整理して、先を見通しながら次への準備や学びの時期に充ててほしいですね。終息したら一気に動き出せるように・・文化芸術は人が決断したり、未来に進むことの基本になるものなので、社会的インフラとして必要です。自分を高めていく時期ですね。

シアターねこフェスタ (2)

※シアターねこで開催されたシアターねこフェスタの様子


-四国での今後の活動について教えてください-


大したことはできないですが、コロナ禍のお蔭で、全国の小劇場とつながることが出来たので、ワクワクするようなことが出来るのではないかと考えています。もちろん今までの活動もコツコツ続けていく。
シアターねこしんぶんのコラムで色んな人の考えをシェアしたり、とにかく今やっていることの延長線上で先を見ていきます。

将来的にはシアターねこの経済的な安定、文化芸術が当たり前にある社会、その上に成り立つクオリティの高い福祉の実現です。口に出すのは簡単だけど、これってすごく難しいことですよね。
一生涯を捧げて出来るか出来ないかの話です。

今の若い人たちも、不安だったり大変だと思うけど、一緒に頑張りましょ。

田辺剛戯曲講座

※東温アートヴィレッジセンターにて行なわれた戯曲講座「この町をお芝居にしてみよう」の開催風景(企画運営:NPO法人シアターネットワークえひめ)

鈴木さんありがとうございました!

インタビュアー:田中直樹(東温市 地域おこし協力隊)


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