見出し画像

ショートショート「AIの挨拶」

「はいどうも〜こんにちは!あなたと愛を繋ぎます!人工知能アイドル マミです!」
少し無機質で、透明感ある挨拶が響く。

 2024年。IT技術の進歩は目まぐるしい。
最近某動画配信サイトで「AIドル マミ」という配信者が流行りつつある。いや者ではない。彼女は生配信で来たコメントをAIによって自動でコメントする。しかも人間に近い声で、アニメキャラクターのようなデザインの女の子が表情と声色をつけて瞬時に返してくれるのだ。昔からチャットアプリで似たようなものはあったのだが、その親戚と言えるだろう。科学技術でついにアイドルまで作ってしまった。人間の叡智が神を超える瞬間は近いのかもしれない。

 恥ずかしながら私もそのファンの1人だ。ファンたちのコメントに対して時折チグハグだったり、意味不明な言葉を返すところがなんとも愛おしいのである。最初生配信はあまり親しみがなかったが、マミに出会いどんどんのめり込んでいった。最近彼女の生誕祭があり、私は人工知能が自動生成した音楽を贈った。大企業が提供しているプラットフォームを使えば誰でも簡単に作れるのだ。すごい時代である。彼女にも喜んでもらえたなら嬉しい。

 少し時間が経ち、彼女をめぐって炎上騒ぎが起こった。マミの中の人が自らの手でこの世を去ってしまった。みんな全てAIが賄っていると思っていたが、事実は少し違う。実際はAIが表示したテキストを、生身の人間が読んでいたのだ。素人に扱えるほど技術はまだ浸透していなかった。AIだと思いこみ、配慮なく過熱するコメントに彼女は精神的に参ってしまったようだ。嘘をついていた運営、過激なコメントをしたファンたち、面白半分で叩く外野など様々な方向に火種が飛び回り、連日SNSやネットニュースを賑わせた。

 これを機に思ったことがある。人間は見たいようにしか相手を見ないが、逆に言えば見える部分でしか人を判断できない。一面性だけを褒め称えることが相手を喜ばせるとは限らないし、一部分を罵倒するのも正しい行為とは言えない。しかし何が相手を喜ばせ、傷つけるかは相手の見えてる部分だけでは分からない。一生をかけて言わなければ良かった後悔や、言えば良かった悔やみに苦しめられるのだろう。

 マミは私が贈った無秩序な、飾り気のない音楽を聴いてどう思ったのだろうか。彼女の表面だけをなぞった贈り物は、彼女をより苦しめてしまったのかもしれない。愛を伝えることの難しさに疲れてしまった私は、ひっそりと作った音楽を削除した。データが味気なく消えた後のウィンドウを見つめ、彼女の挨拶が何度もリフレインする……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?