見出し画像

ショートショート「衝突記念日」

本格的に冷え込み始めた10月23日。科学者A氏から緊急で発表があった。

「私たちの星にとんでもなく大きい隕石が、ものすごいスピードで迫ってきています。いやそれだけではありません。どうやらこの星もその隕石に引き寄せられている。衝突予定時刻は来月の下旬ごろだと予想できます。この惑星は終わりです。」

この発表は我々を騒然とさせた。このままではどうやっても我々の世界は終わってしまう、とニュースは連日我々を煽り立てる。もちろん世間は大混乱に陥った。

世界が絶望に包まれる中、A氏からまた新たな発表があった。隕石から電波を受信し、向こうも知的生命体のいる星だとわかったのだ。向こう星の代表からこのようなメッセージがあった。

「お互いの星でとても強力で柔軟性のあるバリアーを張り合えば、なんとか壊滅的なダメージを防げるかもしれません。なんとか二つの星の力を合わせ苦難を回避しましょう。」

来る衝突の日。我々の星と未知の惑星の叡智の結晶により、衝突こそしたもののお互いの星が壊れてしまうことは避けられた。特にそのまま崩れ落ちることもなく数字の8のような形のまま僕たちの星はくっついている。まるでメビウスの輪みたいだ。

もちろんノーダメージでは済まなかった。衝突によってたくさんの犠牲が出たし、何より星も文化も見た目も違う生命体との共存はなかなか難航している。

それでもなぜか悪い気持ちじゃない、というのが世間の考えだ。見た目も価値観も全然違うけれど、似ている部分もある。これからも苦労することも多いだろうけどお互い支え合っていければいいのだろう。新たな生活が待っていることが楽しみでしょうがない。初めてキスをした時のような胸の高鳴りが、明日へ響き渡る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?