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ショートショート「感情のゴミクズ」

 観賞後の映画館。僕は映画館で働いているアルバイトだ。今世間で流行っている「桜を見て、あの頃の君を思い出す」が終わったみたいだ。原作は累計100万部を越えた傑作らしい。涙ぐんでいるカップルたちが去っていくのを尻目に、僕は春のシアターの掃除を始めた。いわゆるお涙ちょうだい系だったからか、ティッシュがたくさん落ちている。汚いな。僕にはあいにく変わった趣味は無いし、ただただ不快でしかない。マナーを守ろう、って映画館のゆるキャラも注意しているじゃないか。僕はため息をつきながら床に落ちた、冷たく乾いたティッシュを拾った。すると、たちまち映僕のシワの少ない脳みそに映像が飛び込んできた!


 春の公園、大通りを行き交う人たちは皆、春にときめいている。眠気を覚えるほどのポカポカとした陽気、キラキラと輝く満開の桜。去ってしまった彼女を想い、一筋の涙を流す青年。別の道を歩んだヒロインを諦めきれないながらにも、彼の目はまっすぐだ。どうやら前に進む気持ちになったのだろう。


 なんと、僕はこの瞬間超能力に目覚めてしまったらしい。サイコメトリーってやつだ。そしてなんて素敵な映像だったんだ。僕は丁寧で柔らかい質感で撮られた映像、儚くて美しい物語に涙が出た。この感動を共感し、僕はふと思った。確かに自分の出したゴミを放置して帰るのは良くないことで、マナーが悪い。しかし、ゴミの数だけその映画に感動した証でもあったのだ。その事に気づいた僕はちょっとだけ温かい気持ちになった。


 そして映画の余韻が冷めぬうちに感動を求めて次のティッシュを持ったところ、また頭に映像が流れこんできた。お客さんがタンを吐いてポイ捨てした映像が流れ込んできた。うわっ、最悪。前言撤回である。



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