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ショートショート「ご利用は計画的に」



 わたしは小さなお店を切り盛りしているしがない経営者である。ある日、いつも使っているカード会社から新しいクレジットカードの紹介を受けた。


「このカードはただのクレジットカードではございません。このカードを使っていただくと、使った額に応じて幸福が舞い降りるのです。この幸福は決してお金では買えません。」


 とてもじゃないが信じられない。そんなものがあるなら誰もが使いたいだろう。しかし、わたしは同時にギクッとした。経営者としてそれなりに成功を収め、いわゆる小金持ちのわたしは、お金で手に入る幸せの限界に薄々気づいていた。


「信じられないという顔をしてらっしゃいますね。では実際に試してみましょう。欲しいものをこちらの通販で買ってみてください。今回の代金はいりません。」


 ためしに、気になっていたプロテインを購入した。最近筋トレにはまっているのである。すると、一通のメールがとどいた。どうやら行きたかったアイドルのライブの抽選に当選したらしい。すごい。このクレジットカードは本物である。


「お気に召したでしょうか。どうぞこのカードと共に素晴らしい人生をお送りください!」


 その後わたしはどんな買い物にもこのクレジットカードを使った。有名人との人脈ができたり、珍しい品物を偶然手にいれたりどんな幸運も舞い降りた。いつでもポジティブで、大きい案件も決まった。この一ヶ月間、今までの人生で一番幸せだといっても過言ではない。


ー1か月後ー


 最近どうにも調子が悪い。何もないところで転んだり、携帯を無くしたり何をやってもうまくいかない。幸せを求め、この魔法のクレジットカードを使おうとしたところでふと察してしまった。ああ、そういうことだったのか。このままだといたちごっこでしかない。ずっとこの人生が続くのであれば、わたしは耐えられない。いっそのこと身を投げ出してしまいたい。。





「東京都で骨董品店を経営しているAさんが自宅で首を吊っているところが発見されました。関係者によると、特に思い悩んでいる様子もなく、仕事も順調だったそうです。現在、原因を調査中です。」


 そのように朝のニュースが報じていた。先日わたしが営業した男性である。今年にに入ってから3人目だ。非常に気が重く罪悪感に苛まれるが、私にも人生がかかっているのだ。嫌でも商品を売り続けるしかない。出社前、気晴らしにコンビニのコーヒーを買う。


「おめでとうございます!抽選で限定のコラボグッズが当選しました!」


そうコンビニの店員は言った。

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