海辺の街をお婆ちゃんが自転車で駆け抜ける。 自転車が加速するにつれて、お婆ちゃんの白い髪の毛は黒々と変化していく。白髪染めで黒に染め上げた後の質感ではなく、髪自体が黒髪として新しく産まれてくる様な形で、髪全体が老齢とは思えない様な潤いを解き放っていく。髪がすっかり潤いを取り戻した時、お婆ちゃんは姿形があどけない少女になっていた。 お婆さんは満11歳。 本来であれば、ランドセルに腕を通し、小学生へ通っている様な年齢である。それなのに、彼女の普段の姿は完全に老婆となっている
雨を造ってくれ。 人々は気球に想いを託した。 この地域には、雨が降らない。 雨が降らないので、地熱はどんどん上昇し、熱にやられて沢山の人が亡くなっている。 昔からこの地域に雨が降らなかった訳ではない。10年前までは、年中雨が降り注ぐ街として有名であった。夏場には、雨に様々な光を投影する幻想的なお祭りも催されていたほどだった。しかし、雨しか降らないというのも考えもので、日が出ないので作物は枯れていった。おのずと、日の光がなくても丈夫に育つピリカイモという作物が、この地域主
『見えるかしら?貴女が装飾したあの部分、少しズレてるわよ。』と姑が言う。 私はそれくらいと思い少し腹が立ったが、怒りの言葉を飲み込み、姑に謝罪した。 この装飾群は、私たち夫婦の婚姻式典を彩るための飾りである。私たちの国では、金を基調とした装飾が多く、式典にはたくさんの金が使われる。それは脈々と受け継がれている伝統の一つで、婚礼を上げる際の必須条項となっている。 それに反対する理由もなく、私も金で壁面を装飾する事に習った。完成した所で、姑から苦言を呈された訳である。式に間
雲には身分格差がある。 それは生まれつき決められているので、どうしようも出来ないモノだ。 身分は雲自身を構成する水蒸気の質によって決められる。より自然に近い水蒸気が上質とされ、特に山に濾過された汚染度が低い水は最高品質である。海水、沼、工場の排水という様に徐々にランクは下がっていく。上質な雲は屈託のない白さを持っているが、質の悪い雲は陰りがある。それは全てが質の悪さによるものではなく、身分の差による迫害にさらされ内面的な陰りも関わっている。雲といえど、ストレスは感じるもの
黒人女性がカフェでコーヒーを飲んでいる。 それだけで空間が映えるから不思議だ。小粋なR&Bでも流さなきゃ釣り合いが取れない感じ。それほどの美しさである。 そんな彼女の黒い腕を色彩豊かな虫がニョッキニョッキと登っていく。それはまるで宝石の様な煌めきを持ち、角度が変わる度にこちらの目を楽しませる。滑らかな黒い肌を背景に色彩豊かな虫が這っていく様は、不思議と調和が取れていた。まるでフィクションの様な光景に私は見惚れていた。 そうこうしている内に、虫は腕から肩、肩から首に移