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極端な天気

雨を造ってくれ。
人々は気球に想いを託した。


この地域には、雨が降らない。

雨が降らないので、地熱はどんどん上昇し、熱にやられて沢山の人が亡くなっている。

昔からこの地域に雨が降らなかった訳ではない。10年前までは、年中雨が降り注ぐ街として有名であった。夏場には、雨に様々な光を投影する幻想的なお祭りも催されていたほどだった。しかし、雨しか降らないというのも考えもので、日が出ないので作物は枯れていった。おのずと、日の光がなくても丈夫に育つピリカイモという作物が、この地域主食となったが、このイモはあまり美味しくない。水っぽい食感で味が殆どしないので、殆どの人が生きる為に摂取しているといった感じであった。

そこで、人々は科学の力を利用しようと立ち上がった。わざわざ他国の科学者を雇って雨を降らせない科学化合物を発明した。そして、それを気球に乗せて天に飛ばしたのである。上空を上昇し続けた気球は、ある高度に達すると科学化合物を放出する様に設定されていた。

実験は成功したのだろう。
雨は一寸たりとも降らなくなった。

人々は歓喜した。太陽の光を神のお恵みだとして、多くの人がしばらく天を見上げた。あらゆる作物が芽吹き始め、食生活は豊かになった。


しかし、そんな幸せな時間もそう長くは続かなかった。今度は雨が一滴も降らなくなってしまったのである。一説には、他国の科学者が化合物の配合量を誤った事が原因だと言われているが、今となってはその原因は分からない。

すっかり信用を失った他国の科学者だったが、その街の人たちは、彼を頼るしかない。太陽の光が人を次々に殺していく中、科学者の研究を住民たちは静かに待った。今となってはピリカイモすら芽吹かず、本格的な食糧難を迎えた。あんなに嫌だったピリカイモが恋しく思える日が来るとは思わなかったと多くの人が口を揃えて言った。

そんな中、ようやく科学者の研究が終わった。

人々は歓喜する体力すら持ち合わせていなかったが、心の中に少しだけ潤いが戻るのを感じた。

人々が、また気球に想いを託す。

今度こそは素晴らしい世界を、と。




※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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