畑仕事の後のおにぎりは最高に美味い|小田原移住5年目の告白
小田原に移住してみて、それまでは知らなかった楽しみを二つほど見つけることができた。
一つは車の運転だ。
あれ?
運転は苦手じゃなかったの?
と、前回の記事を読まれた方はそう思われるかも知れない。
たしかに、最初は苦手だった。とくに、移住当初に住んでいた下曽我の道はかなり狭く、曲がりくねっていたので、初心者の私にとっては、イライラが尽きなかった。
軽トラに乗り換えるまでの1年間は少し大きめの乗用車に乗っていたので、そりゃもう、農道を擦りまくりのぶつけまくりで、時々、通わなくてはならない市街地を走行するときは少々、恥ずかしい思いをしたものである。
くらい、車が一年足らずでズタボロになった。
が、不思議なもので、車の運転には喜びがある。今も昔も、車に魅了される人たちがいることがこの年になって、ようやく理解することができた。
さて、もう一つは畑仕事だ。
土を耕し、肥料を散布して、種を播く。芽が出てくれば、害虫対策のためにネットを張って、時間があれば、草むしりをする。
澄んだ空気の中、遠くに見える山々を眺めながら食べる昼食のおにぎりは最高に美味いし、私は喫煙者なので、休憩のときの一服も、これまた最高に美味い。
良い人生だな、とつくづく思う瞬間だ。
自然の中で、畑を耕し、太陽や土壌の恵みである作物を収穫し、それを大切に頂く、という人間の根源的な営みには、楽しさや癒しの効果があり、確実に心が浄化されていく。
が、しかし。
である。
これを職業にするのはお薦めできない。
農業法人などに雇用されてサラリーマン農家になるなら良いが、自営の専業農家になろうとは考えない方がよい。
畑仕事はね、趣味だから、遊びだから楽しいのであって、間違ってもこんな生活に憧れて、自営で「農業を始めたい」なんて思っては絶対にいけない。
しかも、小田原で。
はっきり言って、小田原で農業を始めることの優位性はどこにもない。
本当に農業一本で起業したいのなら、湘南野菜とか鎌倉野菜とかの、ブランドのある土地の方がよっぽど優位性があるし、東京で農業を始める方が話題性もあって、そっちの方が活路を見いだせる気もする。
先日、横浜で開かれた新規就農者の交流会に参加したのだが、講師をお勤めになった農業経営者(奇しくも私と同い年)の方が以下のような問いかけを、集まった我々に投げかけていて、まったくその通りだと激しく同意したものである。
すなわち、
あなたは、「農業経営」がしたいのか、それとも「農作業」がしたいのか、と。
農業は経営である。
そして、それは決して甘くない経営のフィールドなのである。
農業がもし、投資価値のあるビジネスであるなら、とっくに大企業が参入しているはずだし、行政だって、農業者へ補助金を出したりはしない。
つまり、儲からないのだ。
そんな状況に身を置いて、あなたは昼食のおにぎりを美味しく食べられるだろうか。休憩時の一服を至福の瞬間だと思う事ができるだろうか。
ここまで読んで、もし、あなたが、「だからこそ勝機がある」と考えるような変人タイプだとしたら、あなたの選択はたぶん、間違っていない。あなたは、農業に向いている以前に、経営者に向いている。そういう人材が農業界に足りない分、あなたには勝機があるだろう。
農作業は家庭菜園で十分。
これが、4年半農業に携わってきた私の結論だ。
収入源として農作業を捉えるのではなく、趣味として農作業を捉える。残念ながら、今の日本ではこれが一番、賢い農業との関わり方だと私は思っている。
めちゃくちゃ大きく家庭菜園をやりたいなら、隣の畑のおじいちゃんと仲良くなって、空いてる畑を紹介してもらって、ついでに農機具も借りて無限大に広げることができる。
家庭菜園者が収穫物を売る場所だってある。
売る喜びを感じることさえもできるのだ。
これは農業従事者が多い小田原の特徴といっていい。
いいじゃないか。
最高じゃないか。
晴れた日には富士山を遠く眺めて、冬には広い空の真っ青とみかんのオレンジ色のコントラストに心を救われて、春先には梅の花を愛でながら、無心に畑を耕す。
そして、畑仕事の後の最高に美味しいおにぎりを頬張る。
そんな生活は都会では得られない。
これは、かけがえのない、小田原移住の魅力。
小田原はいつでもあなたのことを待っているよ。
さあ、鍬をもって一緒に畑にくり出そうぜ!
著者プロフィール
細谷豊明(リブラ農園・代表)/1975年北海道生まれ。イギリス留学後、出版社・編集会社での勤務を経て、食品宅配事業のWebサイト、カタログ制作のチーフエディターに就任。2019年、44歳のときに小田原市に移住し、未経験ながらも農業の道へ。元エディターの経験を生かして、新規就農者の視点から農業の現実をブログにて発信中。小田原市・認定新規就農者。
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