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【八人のアダム】二章 旅立ち

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ギャランシティを飛び出したピップとラムダ。 エネルギーも食料もない二人は、新たなシティを探す。
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2023年8月の記事一覧

【八人のアダム】 2-7 ティア

【八人のアダム】 2-7 ティア

翌日、酒場開店直前の夕方の時間帯、ピップは店の表の掃除をしていた。
明日は久しぶりの休日であるため、気分良く鼻歌などを歌いながらホウキをかけていると、
「お店は開いてるかな?」
と不意に背中から声をかけられた。
「はい、もう入れますよ」
と返事をしながら振り向いて、ピップは思わず硬直した。
声の主は、美しい女性だった。

「ありがとう」
その女性はピップに礼をいうと、店内に入っていった。通り抜ける

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【八人のアダム】 2-6 ウィークシティ

【八人のアダム】 2-6 ウィークシティ

翌朝、日が昇ると、ピップとラムダはモルゴンを岩場に隠すと、ウィークシティに向かって徒歩で出発をした。
もう七月に入っている。
夏の始まりを感じさせる朝陽を受け、リュックサックを背負ったピップは汗をかきながら、乾いた大地と岩場を歩いた。起伏のある、歩きづらい岩場である。ピップは大きく呼吸をしながら、額の汗をぬぐいながら歩く。ラムダはそんなピップの横を、微笑みながら汗一つかかずに軽快に歩く。
一時間ほ

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【八人のアダム】2-5 おにいちゃん

【八人のアダム】2-5 おにいちゃん

ピップはクロウから教えてもらったウィークシティの座標を入力し、モルゴンを発進させた。クロウの教えてくれた情報が正しければ、数時間後にはウィークシティに到着するはずである。

「やさしい人でしたね。スターバッテリーもくださるなんて」
ラムダはピップの右隣に座り、クロウからもらったスターバッテリーを手にニコニコと笑っている。
(あいつらディジェノは、自律式スターズとわかると破壊してくるみたいだけどな)

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【八人のアダム】 2-4 ディジェノのクロウ

【八人のアダム】 2-4 ディジェノのクロウ

「俺はクロウ。ディジェノのクロウだ。お前、こんなところで何してんだ?」
髪を真ん中分けにしたその男は、ヘルメットを脱ぎながらそういった。

(こっちのセリフだ)
とピップは思いつつ、
「家族を探して旅をしている。スターエネルギーが切れそうなので、近くにシティがないか探していたんだけど、道に迷っていたんだ」
と正直にいった。
「ふーん」
クロウと名乗る男は周囲を見回した。
「ところで、このあたりに虫

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【八人のアダム】 2-3 リルビー

【八人のアダム】 2-3 リルビー

リルビー。
大きさは全長一メートル程度。蜂のような形をした小型の自律式スターズ。空中を浮遊して移動する。大戦時、ドルグ帝国によって大量生産され、おもに偵察や哨戒などに利用された。戦闘能力はかなり低く、標準的な機装はエネルギーガン程度のはずだ。

ピップはリルビーの基本情報を頭の中で反芻した。
ピップは世界各国のスターズの情報を集めるのが趣味だった。この程度のデータは何も見ないでも頭に浮かぶ。
「ラ

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【八人のアダム】 2-2 はぐれスターズ

【八人のアダム】 2-2 はぐれスターズ

夜が明けると、ピップとラムダはモルゴンに乗って出発した。
目指すはウィークシティがあると目星をつけた地点である。
モルゴンは長距離飛行に適したスターズではないため、ラムダに押してもらっていた昨日に比べると、飛行速度は低速になる。それでも正午には目標地点に到着するだろうとピップは予想していた。

そして、出発をしてから半日が過ぎた。

ピップは焦っていた。
ウィークシティの候補と推測した地点をいくつ

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【八人のアダム】 2-1 夜間飛行

【八人のアダム】 2-1 夜間飛行

ピップとラムダがギャランシティを飛び出してから三時間ほどが経過した。
モルゴンはラムダに後ろから押された状態のまま、高速飛行を続けている。その速度はギャランシティのどのスターズよりも速い。

(ここまでくれば、ギャラン=ドゥの支配地域からも抜け出しているだろう。もう、心配はない)

ピップの想像していた通り、ギャランシティからの追っ手がピップたちに追いつくことはなかった。
ピップは外でモルゴンを押

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