深海23区
大江戸線がまるで深海のよう。
深く深くへ潜らされ、オフィスへ向かうサラリーマンたちは、さしずめ鰯の群れである。それを横目に戸惑いつつも微笑むインバウンドの観光客たちは、横歩きのカニか、波にそよぐイソギンチャクか。
もちろんわたしも鰯の群れの一員となり、水流に身を任せれば、狭い車内へと瞬く間に吸い込まれた。だがあまりのうるささに耐えきれず、ノイズキャンセリングイヤホンを装着する。
瞬間、世界は静まりかえる。
その静寂が無いはずの記憶を呼び起こす。ここがまだ深く静かな海だった頃の名残を懐かしく思うわたしは、目を閉じ、そのまま海の藻屑になってしまいたかった。
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