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小説同人誌装丁のよくある失敗談/読み手に好かれる装丁とは?

こんにちは。小説同人誌が好きで好きでたまらないオタクです。
小説同人誌作りのノウハウ記事はたくさんありますが、装丁や用紙選びについての失敗談まとめはあまり見ないなあと思ったので書いてみます。
ちなみに、データ作りや部数についての失敗談まとめは以下の記事がおすすめです。


※当記事での装丁とは、表紙のデザインではなく主に用紙選びと組版を指します。
本としての読みやすさを追求する同人誌制作者向けの記事です。「ここに挙げられている装丁は同人誌として不適格」と主張する意図は筆者には一切ありません。


まず初めに言っておきますが、同人誌はどう作ろうが作り手の自由です。
しかしやはり物理本である以上、中身関係なく読み手に好まれる装丁、敬遠される装丁というものも当然存在します。
自分用に作るだけとか、売れるかどうかは関係ないという方はページを閉じて頂いて大丈夫です。「読み手に好まれる装丁の本にしたい!」「物理本として失敗したくない!」という方には、ぜひ一読して頂きたいなと。
色々な所で買い手や作り手の装丁悲喜こもごも話を見聞きし、自分でも失敗を重ねてきたオタクによるお節介話ですが、こういう意見もあるという参考程度にお読み下さい。

同人誌の作り手としての筆者のスペックはこんな感じ。

絵も描くけどメインは字書き。いろんなジャンルを渡り歩いてきた少部数サークル。
同人誌の発行実績は漫画本・小説本ともに過去10冊ほど。小説本は文庫とA5とB6どれも制作経験あり。B5三段組も作った事がある。

歴戦のオフ同人者と比べたら大した事はない実績ですが、10冊も作ればどんな装丁が「読みやすい本」としての最適解に近いのかがなんとなく分かってきます。
正解ではなく、あくまで最適解に近いという事にしておいて下さい。私はプロのデザイナーでも印刷会社勤務でもなんでもないので…。

良い時代になったもので、SNSでパブサをすると、どんな用紙や組版の本が買い手に好まれるか一目瞭然です。
「イベント参加者に表紙絵で漫画本だと思われてしまい、見本誌を投げ捨てられた」という悲しい話は小説同人誌界隈でよく見ますが、「手にとって開いてみたら好みの組版や用紙じゃなかった…」という理由でそっ閉じする買い手もわりと多いです。
人の本を雑に扱う前者は人間としてあり得ないですが、後者は誰も悪くありません。
でも現実問題、「本として読みづらい同人誌」は珍しくありませんし、そのような同人誌は中身がどんな神小説であろうとも買い手から敬遠されがちです。
そういう本はもし買ってもらえたとしても、最後まで読んでもらえず本棚に差しっぱなし、なんてのもままあります。
聞くだけでも残念な話ではありますが、この手の失敗は装丁次第でいくらでも回避できるのです。だって装丁が原因なんですから。
原因さえ分かればこっちのものです!


それでは小説同人誌オタクが見てきた、読み手にあまり好まれない装丁を、理由を添えて紹介していきます。

①本文フォントが小さすぎる本

本文フォントは大事です。
オタク全体の高齢化とスマホ依存のせいで、老眼の人も増えてきました。8.5ptだと既に読みづらいと私も思います。「文字が小さくて読みづらいです」とイベント会場で参加者から言われた、というツイートも見かけました(この人は8.5ptにしていたそう)。
文庫本でも最小9ptからスタート、10ptだと大きすぎるけどA5本なら視力よわよわ人間的にはアリだと個人的に感じます。
B6本は9ptでも大丈夫ですが、9.5ptが商業本に近くて美しいから好きです。

行間が狭い本も読みにくいので、文庫本で本文9ptなら行間5ptは取りたいです。B6とA5は5.5ptは欲しいところ。
本文9ptの行間4.5ptはかなり狭くて目が疲れました。

身も蓋もない話ですが、組版は商業本を参考にするのが一番だと思います。プロのデザイナーが大衆受けするよう組んだものなので、真似しておけば間違いはないです。
悩んだら手元の好きな商業本を定規で測るといいよ。


②本文用紙の斤量が重い本

小説本は漫画本と比べてページが嵩みやすくなりますが、ページが多い本で厚みのある表紙や本文用紙にすると開きにくくめくりにくいです。
書籍用紙としてよく使われる淡クリームキンマリは、美弾紙などと比べて重たい用紙であるため、A5の200ページともなると72.5kgでも腕にずっしりきます。
またキンマリ90kgはコシも強く硬いので、よほどのペラ本でもない限り個人的にはおすすめしません。

商業文庫本のような薄くて軽い本文用紙が揃っている印刷所さんは、REDTRAINさんとコミックモールさん。少部数サークルの強い味方でもあります。ちょ古っ都製本工房さんも文庫サイズであればキンマリ57kgが選べますよ〜。
どの判型でも50ページくらいならキンマリ90kg、100ページならキンマリ72.5kg、200ページともなればもっと薄くて軽い紙が良いと思います。

個人的な好みの話ですが、私はキンマリ90kgのコシの強さが好きではなく、めくるたびに指が落ち着かないので自分で作る時はペラ本でも72.5kgを選びます。
裏写りを気にして厚い本文用紙を使う人もいますが、漫画はともかく小説の裏写りって意外と気にならないです。なんなら商業の文庫本とか普通に挿絵が透けて見えてますし。

ちなみに上質紙やアートポストのような真っ白な紙は読んでいて目が疲れるため、小説には不向きです。絵や漫画本には最適なんですけどね。
コミックモールさんには書籍用紙ホワイトもあるけど、あれも文章量が多い本には不向きかも。
小説本の本文用紙にはクリーム色の柔らかい紙を使うのが鉄則です。白くて丈夫な本文用紙は、30ページくらいの本に使うのがいいかも。

ただ、クリーム色の書籍用紙に挿絵などでカラー絵を印刷する時は気をつけて下さい。データ作成の画面上では白に見える絵柄部分は、クリーム色の用紙に印刷されればクリーム色になります。
CMYK印刷の特性上、基本的に「白色をインクやトナーで印刷する」という事はできないため、白の絵柄を再現する時は用紙の白色をそのまま使う事になるのです。
特色でホワイト印刷をしてくれる印刷所もありますが、何にしても本文用紙に白印刷をする事はほぼ無いかと。
REDTRAINさんが以下のツイートで詳しく解説されています。


③表紙用紙の連量が重い本

本文用紙と同じような理由です。
とにかく硬い。
めくりにくい。
ノド側の文章が読みにくい。
開いて読んでいる最中に本が勝手に閉じる。
読んでいてストレス。
この失敗を招く可能性を上げるのが、厚くて硬い表紙用紙と本文用紙です。

本が丈夫になる事以外、厚い用紙を使って良い事はあまり無いと思います。最後まで読まれず本棚送りにされがちなのもこれ。
特にカバーあり文庫本で連量180kgの表紙はおすすめしません。文庫の表紙用紙は、商業本に近い仕上がりになる色上質紙最厚口がベストだと思います。
でもA5なら180kgでも大丈夫なはず。

カバーつきの文庫サイズで特殊用紙が使いたければ、厚みにもよりますが130kg台にしておけば読みにくくなる事はないと思います。110kgだとちょっと薄すぎて心許ないかもしれません。
コミックモールさんの新シェルリン130kgで作った400ページの文庫本は、本文用紙をライト書籍用紙50kgにしたお陰かカバーありでもすごく読みやすかったです。

カバー用紙はコート紙なら110kgでいいんじゃないかなと。もちろん印刷面の保護のためにPPはありで。
同じ110kgでもコート紙はマットコート紙よりも薄いので、そこはお好みで。
カバー用紙も、文庫サイズで135kgの用紙は硬くて違和感があるというツイートをちらほら見かけました。読んでいる最中に勝手に外れちゃうそう。
文庫本は繊細なので作るのがなかなか難しいですね。


④本文の文字がカラー印刷

これもあるある。
作風に合わせて本文の文字を全文ピンクにして可愛く、という本は作り手に人気ですが、単純に目が疲れて読みにくいので読み手からはあまり好まれません。やめてくれよ〜という嘆きをよく見かけます。
明度や彩度を下げた青色とかなら読めなくはないですが、やっぱり集中して読むには向かない仕様です。使うにしても演出として一部分とか、ペラ本でのみくらいにした方がいいかと。
作り手は発行前に死ぬほど読み返すので文字色が変わっていても気にせず読めますが、再録でもない限り買い手にとってはそれが初見の文章である事を忘れないように。


⑤擬似小口染め

縦式を使って擬似小口染めをする人が増えてきましたが、見開きページの四方に色がついていると読みにくいという意見はわりと見ます。
私も読み手としてはあまり好きじゃないかなあ。視界の端にデザインがちらついて没入感を邪魔されるというのは結構致命的。
ペラ本ならそこまで気にならないかも。


⑥特殊加工

本の表紙を絵柄に合わせてカットするカッティング加工は、本棚に差す時に他の本に引っかかって折れたり破れたりしがち。
イベント会場で買った時も急いで鞄にしまおうとして引っ掛けたり、なんてアクシデントも誘発します。これは一応OPP袋に詰めたりカバーを掛けたりすれば現場では回避できます。


⑦鈍器本

用紙の話とも被りますが。
本文数百ページの鈍器本については読みにくさや背割れの問題もありますが、イベントの搬入出も自宅での在庫保管も自家通販も嵩張って大変になりますし、そういう意味でも頒布するならわざわざ作るのは避けた方がいいと私は思います。
特にキンマリは重いため、最悪搬入作業の時に腰をやられます。鈍器本の手搬入はかなり厳しい戦いである事は知られるべき…。

そして自家通販だと、ネコポスやスマートレターなどのサイズ上限を上回って送料が嵩む問題も出てきます。
頒布や販売をするなら、鈍器本は読者にあまり優しくない本である事を念頭に置いた上で作った方がいいです。

ページ数が400とかになっても、薄い本文用紙を使えば背幅20mm未満に抑えられます。RED TRAINさんとコミックモールさんはいいぞ。
STARBOOKSさんで鈍器本を作る初心者さんをそこそこ見るのはなんでだろう。少し前までキンマリ72kgと90kgしか取り扱っていなかったからかな?(今は62kgも選べるようになりました)

初心者さんは分厚い再録本を作りがち+サポートが手厚い大手印刷所を選びがち+その大手印刷所は薄い書籍用紙をあまり取り扱っていなかったりする、というのが、鈍器本量産問題の理由の一つなのかもしれません。大手印刷所はたいてい漫画やイラスト本セットの方に力を入れてるから、書籍用紙はそこまで豊富に揃っていないのです。
でも初心者さんがサポートの手厚い印刷所を選ぶのは全く間違っていません!ただ厚い本を作るなら、薄い用紙を選ぶ方が良いです。ホントに。
本作りに慣れてる人でも鈍器本を作る事だってありますからね。


おまけ/黒ベタPP剥がれ問題

真っ黒な本を自分用に作ろうとして調べていたところ、「表紙やカバーを濃い色多めのデザインにしてPPを掛けるとPPが剥がれやすくなる」という話を耳にしました。
届いてすぐに剥がれたらイヤだなあと思ったので、真偽についてREDTRAIN様に問い合わせましたが、

「他のクライエントからPPが剥がれたという話は聞いた事がない。自社の印刷機や取り扱い用紙の特性かもしれない。が、絶対に剥がれないとは言い切れない(要約)」

との返答でした。
また、

「真っ黒なデザインの表紙にマットPPを掛けると見た目が白っぽくなる。色がぼやけた印象になるので、シャープな本にしたいならマットよりもクリアPPをおすすめする」

とも教えて頂きました。ずっとクリアPPばかり使っていた人間なので、この情報は有り難かったです。
ちなみに返信が来た直後、公式アカウントでもツイートされていました。フットワークが軽い!


ちなみに「PP 剥がれた」でパブサすると、お気に入りの同人誌を読み返しすぎてPPが剥がれた人が大勢見受けられるので、剥がれる時はどんなデザインでも印刷所でも剥がれるんだと思います。
でも作っていきなり剥がれるって事は流石になさげ。製本技術の向上に感謝。

黒ベタマットPPぼやけの点については、1冊目のB6本で実際に黒ベタマットPP本を作ってみましたが、むしろこのぼんやりしたマット感を求めていたので個人的には満足です。上品で落ち着いていて好き。
次は濃い色を使ったカバーデザインの本を作ってみたいなあ。
ちなみに作ってみた黒ベタマットPP本のレポはこちら。印刷所はちょ古っ都さんです。


それと。
濃い色表紙マットPPとベルベットPPには別の問題があります。このPP加工はホコリが吸着しやすく、傷が目立ちやすいのです。
ベルベットPPは映画のパンフレットやApple製品の外箱の手触りをイメージしてもらえればいいかと。さらつやで私は大好きですが、結構好みが分かれるPP加工みたいです。
ともあれホコリと傷は白いデザインにすれば目立たないので、一応回避方法はあるにはあります。

ベルベットPPを使った本のレポはこちら。印刷所はREDTRAINさん。


最後に

好き勝手やれるのが同人誌ですが、せっかく時間もお金もかけて作る同人誌、装丁の読みにくさのせいで手にとってもらえなかったら悲しいですよね。
とはいえ、何が読みやすく読みにくいかは結局人それぞれですし、自分の好きを表現できるのが同人誌です。大事なのは作り手がメリットとデメリットを知っておく事だと思うので、あえてこういう記事を書いてみました。
だから読みにくい同人誌を見た時には「読み手の事を考えていない」と受け取るのではなく、「これが作者さんの考える最高の本なんだな」と受け取るべきだと私は思っています。(リスペクトが大事だなんて創作活動では当たり前ですけどね)

小説同人誌は参考になる商業本がたくさんあるので、ぜひ色々見て回って自分の最高の組版や装丁を見つけていって下さい。
それでは良い同人ライフを!

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