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初めての京都1泊2日旅行(18年11月23日~24日)

まだコロナ禍が始まる1年以上前、個人が自由に旅行できる時期がありました。何なら毎週末旅行をしても何の不都合もなかったのです。実際、我々は「来年もまた来よう」と気軽に計画を立てていました(諸般の事情で不成立でしたが)。すでに忘れかけているそんな時代をよみがえらせたくて、古い日記を引っ張り出してみました。この自由さを、早くもう一度世界中が取り戻せますように。

18年11月23日

明日から1泊の京都旅行。
年下の友人に会ったり、せいうちくん大学マンガクラブの同期に会ったり、私の大学の先輩に会ったり、とにかく日頃はなかなか会えない京都在住の友人知人皆に会ってしまおうという企画になっている。
食事だけの人もいるが、京都住まいの人は全員がお寺と歴史に詳しい民間観光特使のような気がして、とっても期待をしているんだ。
皆さん、どうぞよろしくお願いします。

京都の紅葉を見る前に、東京都内でも紅葉が見られるらしい「大田黒公園」に行ってみようかと思った。
近年では、この時期にライトアップをしているらしいのだ。
昔、阿佐ヶ谷の社宅に住んでいた頃、小さかった息子を連れてよく行った場所。
春は桜、夏はザリガニ釣り、秋は紅葉、冬は雪見の、実に風流な都会のエアポケットだった。
今ではすごい人出になってしまっているのだろうか。

3歳ぐらいだった息子が、あずまやで赤ん坊に離乳食をあげている若夫婦の、テーブルの上にちょっと置いたカメラのキャップを、あっという間もあらばこそ、いきなりひったくってその勢いのまま池に投げ込むという大参事が勃発したことがある。
せいうちくんは網を借りに管理事務所に走り、私はひたすら謝り倒しながら、
「これだから、安心できるのは子供がこんなに赤ん坊で無害なうちだけなんですよ~!」と無意味に若夫婦を脅しつけたりしていたものだ。
あー、なつかしい。

阿佐ヶ谷近辺に住んでいる、散歩の好きな友人に「紅葉を見に行かないか」と誘ってみたのだが、先日会った時から忙しそうだったのが、体調を崩してさらに忙しくなってしまっているようだった。
「お誘いは魅力的なのですが、残念ながらパスです」と言われて、こちらもガッカリのあまり気力を失った。
都内の紅葉狩りは、また今度にしよう。

というわけで、今日は1日のんびりして旅行の準備だ。
「それでよかったよ。僕は昨日も旅行から帰ったばかりみたいなもんだし。なにしろ京都の上空を飛び越してきたわけで」と、出張帰りのせいうちくんも言う。

明日は朝早い新幹線。
「10時に京都駅に着きます」と向こうの友人に連絡したら、「朝に強いせいうち家ならではですね」と感心された。
「たぶん始バス」と言うと、「初めて聞いた!終バスがあるんだから、始バスもあり?」とのこと。
(いつも朝早く出張に出かけるせいうちくんにはあたりまえの用語だったらしいが、ブラックの証であったか)
早朝の出発は、そこからものすごく楽しいことが始まりそうな予感がして、大好きだ。
早起きしよっと。

18年11月24日

今日明日と1泊の京都旅行。
せいうちくんも私も初めて、と言うか、修学旅行では行ったことがあるが団体行動でぞろぞろ歩いてただけだし高校生は寺社仏閣なんか見てやしない、というよくあるパタンだったので、実質は初京都体験だ。
この時期、紅葉を求めて全国から、いや、海外からも観光客が殺到するらしい。

もともとは、共通の年下の友人と3人旅の予定だったのが、よんどころない事情で彼女が行けなくなったため、我々のみで。
2泊3日で1夜は京都在住の彼女の友人Eさん宅に泊めてもらうはずだったけど、初めて顔を見るEさん夫なるものも存在する中、間を取り持つキーパーソンがいない状態ではちょっと、ということで、最初から取ってあった土曜夜のホテルを生かす形で成立させた。

直前に23日金曜夜の宿を取ろうと試みたところ、どこも満室で、空いてる部屋は2人で「16万」「21万」というものすごい状態だったのだ(涙)
秋の三連休の京都、恐るべし。
そして、我々はこの言葉を幾度となくつぶやくことになるのだった。
(が、今はまだそれを知らない)

例によって私は興奮し過ぎて眠れなくなり、前夜国内出張から遅く帰ってきたせいうちくんが「もう30分寝る」「もう10分」とあきらめ悪く寝続けている横で、やたらに荷物の詰め替えをしていた。
たった1泊で、何をそんなに準備するのか。
人によっては手ぶらで行くようなスケジュールであるのに、どうせコロコロトランクを持って行くし、暑かったらどうしよう寒かったらどうしようと、迷いっぱなし。

火照って汗をかく体調が改善されないまま冬を迎えているため、仕方ない、薄い上着で行こう、と決断しかけるたび、京都で会う予定の人々が親切に連絡をくれる。
「この週末、こちらはとても寒いです。京都の冬をなめてはいけません」
最後、分厚いダウンコートを着た去年の写真をEさんに送りつけ、
「このコートで大げさではありませんか?」と聞く羽目に。
答えは、「全然!」だったけど、いきなりライン画面に私のコート姿が浮かび上がったので、驚いたらしい。
写真の前に本文を送るべきだった!

そんなこんなで出かけるまでに手間取ったけど、せいうち家の朝は早い。
6時過ぎには家を出て、7時過ぎには東京駅に着いていた。
京都駅に迎えに来てくれる手筈のEさんにはすでにお礼代わりの引っ越し祝いの品を送ってあるからいいとして、明日の案内を買って出てくれた私の大学の先輩Tさんに、何にも用意していない。
「ごめんね、昨日までに僕がおしゃれなスイーツとか買っておければよかったんだけど、手ぶらもなんだから、駅で何か買う?」と気を揉むせいうちくん。
グルメで鳴る京都の人に「東京ばな奈」持って行くのも東えびすの面目躍如すぎるだろう、「お江戸の人は、かなわんわぁ」と言われてみたい気持ちをねじ伏せて、「お昼ごはん代を持とうね」と決着した。

熱いコーヒーを買ってのぞみの座席に収まり、糖質制限上駅弁は食べられないからと持参した「低糖質弁当」を広げる。
ゆで卵、チーズ、自分で焼いた低糖質フィナンシェ。
「塩はどうやって持って行く?」と聞くせいうちくんよ、そのことを1週間前から考え抜いていた私をほめてくれ。
目薬を入れる小さなジップロック的袋がね、ぴったりなんだよ!
昔なつかしく「紙で包む」ってのも考えましたけどね。薬包紙的に。

京都1

お弁当食べながらおしゃべりしていて、気がついたらばっちり富士山側の席だった!
大きく、キレイに見えた!半分がた、冠雪してる。

名古屋停車中にちょうど高校の同窓会ライングループに、誰かが赤ちゃんパンダの名づけに応募していい線行ってる、って投稿があってにぎわっていたので、ご挨拶がてら、
「京都に紅葉を見に行くところ。今、名古屋に停車中」って投稿したら、次々に紅葉写真が現れた。
名古屋から京都はとても近いため、気軽な観光先であるらしい。
「先週行って、今週は用があるから行かないけど、来週はまた行く」との剛の者も出現。どれだけ近いのか。
新幹線で30分、の距離感は、東京における鎌倉のようなものか。

大学時代の帰省にたっぷり2時間かかっていたことを思うと、京都まで2時間15分は早すぎる。
ラインで連絡を取り合っていたEさんと、改札で会えた!久しぶり!
今日はよろしくお願いします!

京都2

まずは徒歩5分ほどのホテルにトランクを預け、前の通りからタクシーを拾って、最初の目的地である岡崎の「六盛」へ。
大激戦の人気店で、店の名を聞いた運転手さんが、
「予約、取ってますか?いきなりは、無理ですよ?」と心配してくれるほど。
大丈夫です!Eさんがちゃんと事前に頑張って、予約を取ってくれてます。

「混んでますからね、裏道を行きますよ」と、かなり親切な運転手さん。
望むところだ、表通りをすい~っと行かれる方が、観光客としては欲求不満。
民家やお店(町屋?)が立ち並ぶ細い道を、
「あそこの屋根の上に、『鐘馗さん』が立ったはりますやろ」
「そこの垣根みたいなんが、『犬矢来』ですぅ」などと、細かく説明してくれる。
「東京と違って、道がわかりやすいねぇ。ナビの画面が、全部直線になってる!」などと後ろの席ではしゃいでも見逃してくれるし。

正直、びっくりした。
いかにもの観光客なんかバカにして相手にしてくれなくて、不快な思いをすることまで覚悟していたので。
助手席に座ったEさんが、出身こそ地方だが、今はバリバリの京都人なおかげだろうか。
「洛中以外は京都とは言わない」と怖いことを言う運転手さんを、
「うちはいちおう上京区なんですぅ」と笑って撃退できるのがすごい。
もっとも、運転手さんもねばって、
「三代続いて、やっと京都の人ですわ」と言い返していた。
コブラ対マングース。

道行く人に着物姿が多いので、
「やっぱりこちらの人は日常よく着物を着られるんですか?」と訊ねたところ、運転手さんとEさんが2人がかりで答えてくれたところでは、観光客が貸衣裳を着て京都気分を味わうらしい。
日本人も、着物コスプレ?
明日の案内を引き受けてくれた先輩が、「どこに行きたいですか?マンガミュージアム?お寺、何かの体験?」と聞いてきたのは、そういうことなんだろうか。

それはそれとして、あたかも観光タクシーを雇ったかのようなラグジュアリーな気分と思ったら、実際に今日の運転手さんは観光の仕事がドタキャンになってあぶれたのだそうだ。
修学旅行、と聞いて、「高校生がタクシーなんか乗るんですか?」といぶかしがるせいうちくん、庄司陽子の「生徒諸君・教師編」とか読んで勉強せよ、最近の修学旅行は、小グループに分かれてタクシーも使い、1グループ1台のケータイも許可される。
そして、女子の行く先は「舞妓さん体験」だったりするのだ!

何から何まで、京都の不思議。
「六盛」に着くまでに、疑問符と感嘆符でアタマがいっぱいになってしまった!
まだ予約の時間には間があったので、運転手さんは車を平安神宮につけてくれた。
よくよくお礼を言って降りたが、あとから考えると、チップをはずんでも良かったぐらいだったなぁ。
いやぁ、いいタクシーに当たった。
ただ、不吉な言葉として、
「今年の紅葉は、ダメ。猛暑と台風で、さんざん」と言い残された…

「結婚式も、多いんですよ」とEさんが言う平安神宮の大きな門の前で、しばし別れて自由行動。
我々は広い境内(?)を「おおー」とか言ってそぞろ歩いた。
七五三なのだろうか、小さな女の子がかわいらしい着物を着て歩いている、その足元は寒いのでスパッツだったりするのが愛らしい。
男の子の正装も、どこか関東とは違うはんなりした洒落た雰囲気がただよう。
イマドキはよその子供さんの顔をカメラに収めたりするのは逮捕案件なので、接写はぐっとガマンしたが、非常に興味深かった。

京都3 (2)

「関東の権現造りとは違う、入母屋(いりもや)造り」とせいうちくんがレクチャーしてくれても、さっぱりだ。
「何それ?」
「日光に行ったでしょ、あれが権現造り。屋根が反り返ってて、やたらに彫り物があって、派手」
「ここのは、塗装が剥げただけなんじゃないの?お寺はどこも、元々は最新式でキンキラキンだったんじゃないの?」
説明するのが面倒くさいのか、黙ってしまったよ…

京都20 (2)

横手の「宮」っつーんでしょうか、建物に入ってみたら、全国のお菓子展をやっていた。
とらやも、福砂屋のかすてらもあった。
化粧箱の脇に小さなガラスドームに入った見本が置いてあるのを見て、「試食用かな?」と食べたそうに騒ぐせいうちくん。
んなわけないじゃん!切ってもないし、爪楊枝もないんだよ!

再びEさんと会い、「六盛」まで歩く。
11時半の予約ぴったりに来たものの、店内の待合スペースは大混雑していて、畳敷きの大広間にテーブルを置いた客席に案内されるまで、けっこう待った。
注文は名物の「手をけ弁当」に決めており、サイドメニューの「鮎の甘露煮」をひとつ頼んで3人でつつこう。

京都4 (2)

運ばれてきた「手をけ」には、繊細で美しい京料理の粋が凝らされていた。
野菜の煮物と刺身、焼き物の魚(鰆?)はわかるが、小さな蛸?大根の、これはなますだね?謎の茶色い板状のものは、何やら魚の卵っぽい。ウニのような鮮やかなオレンジのものはなんだろう。葉っぱに包んであるのはあんこの入ったお餅みたいだ。デザート扱いかしらん?
頭の骨から食べられるほど柔らかく煮た鮎は、生姜が効いてて美味しかった。
ごはんは苦手な栗ごはんで、せいうちくんが「いかん!」って顔でちらっとこっちを見たけど、珍しい機会だから、食べるよ。
いかにも京都に来たなぁと感じられる、優美なお昼ごはんでした。

おしゃべりしながらゆっくり食べて、13時には次の予約のお客さんを入るそうだから出なくちゃね。
同じ店のカフェスペースが14時に開くのでこれまた有名なスフレを食べたい、と聞いてみたら、13時半から名前を書いて受付できるそうなので、それまで近所で時間をつぶそう。

本の好きなEさんが「東京とは品揃えが違うかもしれませんから」と連れて行ってくれた「蔦屋書店」は、展示が凝っていて、面白かった。
本屋とか図書館は、この世に存在する本のどれをどう並べるか無限のバリエーションがあるので、趣向を凝らしてもらえばいくらでも楽しめる。
和の小物をいろいろ売っているのもいいね。
記念に、小房のついた「煤竹の耳かき」を買う。税別600円で、お得ナリ。
耳かきって、家にいくつあってもいいものだから。
(もっとも、あとからEさんにそう言ったらびっくりされた。普通の家には1本しかないものらしい。うちには5、6本あり、あらゆる立ち回り先に置いてあるんだが。車のダッシュボードと旅行ポーチの中のは別カウントだし)

首尾よく13時半が近づいてきたので、店に戻る。
「ロームシアターです」と横を通りながら言われ、「何の劇場?ローム?労務省?」といぶかしがって説明された「ROHM」という会社をせいうちくんも私も知らないと言うと、Eさんはとても驚いていた。
E「半導体の大手ですよ?京セラはご存知ですか?」
2人同時に「ハイ、知ってますよ」
E「同じぐらい有名ですよ?!」

困ったせいうちくん、
「えーと、日本碍子、って知ってますか?」
「はい、知ってます」と言われてますます困る。
知りません、と言われる前提で、「地元の大手企業が知られてないことはよくあるんです」と言うつもりだったのだろう。
私も、父が勤めていたこの会社が名古屋だけで有名だって、東京に来るまで知らなかったよー。
今ではコマーシャルも打っていて、知られるようになったけど。
しかし、それはまた別のお話。

13時半にさきほどと同じ待合室に入って、またおしゃべりをしながら待つ。
席に案内される前にメニューをもらったので、事前に注文ができた。
スフレ初体験のEさんはオーソドックスにバニラ、私はチョコレートが好きなんだが、こないだ星乃珈琲店で2つも食べたから、今日はりんごのお酒カルヴァドス風味にしよう。スフレ本体には煮りんごも入ってるらしい。
せいうちくんにチョコレートを頼むようにお願いして、ひと口わけてもらう算段をちゃっかりと。
スフレは、小麦粉が少ししか入ってないから、糖質制限中でも食べちゃうの。糖分?…無視!

京都スフレ店 (2)

14時になって案内されたカフェは、こじゃれたバーのよう。
天井近くに飾ってあるたくさんの「うちわ」のようなもの、実は「ちまき」で、しかも中身が入っていない飾りで、縁起物なのだとEさんが教えてくれた。
「長刀鉾(なぎなたほこ)」などの名が書いてある。
鉾とちまきについて説明され、なかなか理解しづらい概念だったが、たぶん、年末に人々が買う熊手のような存在。
縁起物って、生活にすごく浸透してるから、よその土地の人が聞くと不思議な気がするんだよね。
私はかなり縁起物に縁のない生活だし。無宗教?

熱々のスフレはとてもおいしかった。
テーブルの上に立ててある説明書きの通り、大胆に上部を割ってソースを流し入れて食べた。
たとえ失恋したばかりでも、スフレは運ばれてすぐに食べないとしぼんでしまう、って林真理子も書いている。

京都5

お店を出て、Eさんが大好きだと言う寺町二条のお店めぐりに出かける。
またタクシーに乗ると、今度の運転手さんはちょっとコワかった。
わりと「つけつけ」と物を言う。
親切なんだかつっけんどんなんだかよくわからない京都タクシー、もしかして運転手さんは、ツンデレ?
「今年の紅葉はダメ」という点は前の方と同じ意見か。

すぐに寺町二条に着いて、古本屋めぐり。
Eさんがイチオシの「三月書房」は古書店ではないそうだが、えーと、書いちゃっていいのかな、本によっては割引している。50%とか。
「出版社との関係はどうなってるんでしょう?」とEさんとせいうちくん、ひそひそ。(残念ながら、去年店を閉めてしまった。その前に行けてよかった)

マンガのレアさ加減がすごい。
旅先ではあるし、本買いは果てしがないので厳禁、と戒めていたはずが、気がついたらわたなべまさこと手塚治虫を買っていた。
何度も店外に出て、軒下でスマホをぽちぽちやってAmazonに出てないことや出ていても値段がどうかを細かくチェックして。
なんだ、意外と冷静か。(自分)

京都18 (2)

何軒目かの古書店で、せいうちくんも欲しい本を見つけたようだ。
買わずに出てきたので「どうしたの?高かった?」と聞いたら、「2千円ぐらい」。
「買え!なぜ迷う!?」と「糸井重里萬流コピー塾」からのお気に入りのセリフで店内に叩き戻すと、やがて出てきた時は本の包みを持っていた。
「迷った挙句だったせいか、1500円にしてくれた」
「もう1回迷えば、千円になったかも!」と盛り上がる。

歴史の好きなせいうちくんは、「山伏ユダヤ教説」とか「サンタクロースなまはげ同一起源説」とかいろいろ面白い自説を持っている。
引退後、そういう研究を進める趣味の老爺になるためには、寺に残っている古文書などのくずし字を自分で読めた方が便利だと思い、書道を習うことを勧めているんだが、「字はヘタだから」と腰が引けているみたい。
それならなおさら!
今回買った本が「くずし字解読辞典」であるのは、書道に近づく道か遠ざかる道か。

お茶屋さんも入ってみた。
いい匂いがする。
古都の香り、和の香りだね。
「左利き用の急須」なるものを発見し、もしも左利きだったら欲しいなぁと思った。あいにく右利きだ。
思いっきり高い玉露とか買ってみようかと一瞬思うが、さっき本屋で散財したのでやめておこう。
と言うか、なんで本屋での散財はこれほどノープロブレムなのか。

お店冷やかし歩きを堪能し、そのまま徒歩で御所へ。
御所は素晴らしかった。
広々としてるのに侘び寂びがある。風情がある。
人がいないのがいいね。
天皇さんも、隠居したらこっちに来られたらいいのに。

京都23 (2)

そう言えば、京都旅行の計画を練っている時、「勤王方と佐幕方に分かれて、チャンバラをしよう」という無茶な企画が出た気がする。
実行するとしたら、この御所内でのことだったんだろうか。
確かに広々としていてなんでもできそうだが、建物の塀に近づきすぎるとセンサーが働いて「離れてください」と音声が鳴るという噂であるのに、たちまちの剣劇は見逃してもらえるのだろうか。
ちなみに、警告音声を確認したかったので何も知らないせいうちくんを「もっと塀ぎわを歩きなさい」と押しやってみたが、どうやらいわゆる「どぶ」にあたる水路様の部分を越えなければ何も起こらないようだった。残念。

京都22
京都6 (2)

「蛤御門」を眺めて幕末に思いを馳せたのち、タクシーを拾ってEさん宅に向かう。
この時の運転手さんは、これまでで一番過激派。
「近くですみません」とEさんが言うと、
「みんなそう言うから、タクシーの運転手は耳にタコなんだよね。すまないと思うんだったら、余分にお金置いてってよ。お金さえ払ってくれりゃ、いいんだよ。近いからとか、いちいち言わんでもいいの」。
ご挨拶である。

その後も、「運ちゃん語録」をちゃくちゃくと形成する。
運「なに、御所に行って来たの?」
E「はい」
運「あんなとこ見てもしょうがない。永観堂行きなさい。御所の、百倍いい。でも、人だらけでとても見られないよ」

うちは家計簿をきちんとつけているので支出にはレシートが必要なんだが、降りる時に料金を払ったせいうちくんが「レシートください」と言うと、
「少ししか払わない客に限ってレシートくれって言うんだよね」。
これを書いている今も、せいうちくんが私に「我が家は家計簿をつけるためにレシートをもらう」とちゃんと書いてくれと頼んできた。
レシートを使って公費で落としていると読者に思われる、と心配しているらしい。

そして、この運ちゃんもやはり、
「今年の紅葉はダメ。夏が暑すぎたし、こないだは台風が来たし」とぼやくのであった。

「紅葉、キレイじゃないですか。運転手さんはみんな、悪く言うけど」と降りてからEさんに言うと、
「京都の人は、『自分とこなんか』って何でも謙遜するんですよね」と苦笑していて、どうやら、謙遜するからと言って心の底から「つまらないもの」とは思っていなくて、むしろ「自慢しい」なのだろう。
このへんのメンタリティは、実に面白い。
謙遜を真に受けると怒り出すタイプか。

Eさんのお宅は、古民家を改築したもの。
私にとってはとても珍しいガラリの玄関、京都ではまだ多いのだろうか。
東京でも集合住宅にしか住んだことがないせいか、いわゆる住宅街はあまり見たことがなく、これが京都の雰囲気なのか家が寄り添って建っているとみんなこうなのか、知らないもんだとあらためて思う。

手すりのない板の階段や、床の一部が透明で下のダイニングが見える二階の部屋、天井に傾斜のついた屋根裏を思わせる寝室など、あちこちが創意と工夫に満ちていて、建売やマンションしか知らない身にはとても贅沢で素敵な暮らしに思えた。
建築士さんと一緒にずっと頑張ってきたEさんの、苦労もすっかり報われただろう。

初めて会うご主人は、一本気でまっすぐな人のようだ。
京男だからちょっとくねっとしたとらえどころのないタイプを想像していたんだが、たいそう男らしい。
それでも暑苦しい男くささではないところが、やはり京の油断ならなさか。

写真でだけ見ていたお子さんたちにも会えて、嬉しかった。
お茶をいただくのが精一杯の1時間ちょっとの訪問だったが、次回は共通の友人であるAさんと一緒に泊めていただいて、かなりの酒好きであるらしいご主人とせいうちくんが一緒に飲むところを見てみたい。

ご主人は、まだ我々のことを知る前に、息子と我々がテレビに映ったところを「たまたま」見ていたのだそうだ。
「普段は見ないのに、ほんっとに偶然、見てたんですよ。子供がお笑いやりたいって言って、養成所の契約書持ってきたら、お父さんが『悪いけど、お父さんは会社で契約書を見る仕事してるんだよ』って冷静に筋の通った話をしてるのを見て、へー、こんなお父さんもいるんだー、って印象に残ってました。それが、うちの奥さんがよく話に出すようになるせいうちさん一家だとは。ネタばらしされたあとでご主人が、『この紙が、くしゃくしゃになってたら、ああ、自分の一生のことだと思って真剣に考えたんだなぁ、って心を打たれたのに』って言ってたんを、よく覚えてます」と語ってくれた。

小さなお店を開き、講座や勉強会をして行きたい、と言うご主人は、年に1回細々と「休日講座」を続けているせいうちくんととても似た人なのではあるまいか。
軌道に乗ったら、せいうちくんを東京から出張講師として参加させてあげてほしい。
私はキッチンでEさんとお菓子を作ろう。

Eさんがタクシーを呼んでくれようとしたが、電話がつながらない。
とりあえず広い道まで出て拾おう、と見送りに来てくれた。
すっかり暗くなった街に出て、タクシーを拾おうとするんだが、全然つかまらない。
東京では、タクシーの前部に赤い文字が光っていたら「空車」で、手をあげれば止まってくれるんだが、こちらでは「賃走」と出ており、空でも実走中なので止まってくれない。
この違いにとまどうせいうちくん、もう、すべてのタクシーに手を上げて一生懸命拾おうとしてくれるんだけど、いかんせん、空車が通らないんだよね。

せいうちくんの友人と京都駅近くの店で会う時間が近づいている。
夕方だし、連休の京都市内は混んでいるようだから、たっぷり30分以上かかるらしい。
少し焦り始めて、バスとか乗った方がいいのかしらとバス停に近づいてみたが、これまた並んでる乗客を乗せずに走り去るぐらいの大混雑。

Eさんの電話がやっとタクシー会社につながって、とりあえず1台差し向けてもらってるところへ、離れたところで手を上げていたせいうちくんにすーっと近づいてきて止まってくれたタクシーあり。
我々も駆け寄ると、なんと、運転手さんは歩道わきにある公衆トイレに駆け込んで行った、と途方に暮れるせいうちくん。
「出てくるのを待って、お願いしてみようねぇ」と、「運転手さんに何が起こったか」の想像をトイレの前で話し合っていたら、Eさんが呼んでくれたタクシーが到着した!

Eさんにあわただしくお礼とさよならを言いながら乗り込み、駅に向かったが、惜しいことをしたなぁ、あの車に乗って、運転手さんを「で、大でしたか小でしたか。突然、激しいナニカに襲われたんですか?!」と問い詰めてみたかったなぁ!

ごく穏便に我々を乗せてくれた、本日4人目になる運転手さんは、ある意味、一番無難でドラマのない人だった。
ひどく混んでいることをずっと気に病んでいて、三連休の中日なので大変だとこぼしつつも愛想も人当たりも良く、しかしやはり、今年の紅葉はダメだと言っていた…共通認識?

やはり道路はとても混んでいた。
待ち合わせの相手に電話をしてもつながらなかったので、お店に電話してみたら、15分前の時点でもう彼は席に着いていると言う。
店内だから、電源を切っていたのだろう。
店の人に「少し遅れます」と伝言を頼んだあと、せいうちくんはケータイメールで「ごめん!」「いえいえ、ゆっくり来て」などとやり取りしているようだった。

なんと30分過ぎてやっと到着、行きがかり上運転手さんまで申し訳なさそうで、いい人だったなぁ。
店に入ってみると、なつかしいWくんが座っていた。

せいうちくんと大学のサークルで同期だった彼は、卒業後京都の大学に勤め、そこで結婚した。
京都での式には我々夫婦も呼んでもらい、おう、そうすると修学旅行以外にも来たことあったんじゃないか!
そう言えば、東京駅に向かう電車の中で私がおなか痛くなって、途中の駅でトイレに行ってたもんだから、新幹線ホームに向かってハイヒールで全力疾走したけど乗り遅れた、なんてことがあったよ。
指定席は無駄になっちゃったけど、すぐに取り直して事なきを得たような気がする。
結婚式のあと枝垂れ桜を見たのは、平安神宮だったんだろうか。

「遅れてごめんね」と謝ると、変わらず紳士的なWくんはにこにこと「いえいえ、全然」と言う。
せいうちくんが「元気そうだね」と言ったら、実は元気じゃないんだそうだ。
少し前に病気をして、今もあまり体調が良くないらしい。
私の心臓手術の話も含めての健康談議となり、お定まりだが、
「お互い50代ともなると、油断がならない。健康は大事にしよう」という話になった。

この店は鰻料理、「う雑炊」で有名らしい。
せいうちくんがいつものように糖質制限をWくんに伝え忘れたからで、まあいいか、たまにはおコメ粒を食べよう、とは思ってたし、もうおかまいなしにビールも飲んじゃってるんだが、突出しのあとに出てきた「うなぎ鍋」が、少ない!
うなぎのぶつ切りと平らに作ったお麩とネギ、春雨が入った平たい土鍋は、3人で小鉢にふた皿ずつ取ったら、もうなくなった!

「このあと、お造りとか焼き物とか出るのかな~うなぎ料理なら、う巻かな~うなぎの白焼き食べたいな~」とか思ってたところ、さっき下げられた鍋がいきなり「う雑炊」になって再登場。
もう雑炊かい。

京都7

お互い健康状態に自信のない中高年なので、あまり飲まずにちびちびやりながら雑炊をつついていたら、お運びさんが私のお新香を派手にひっくり返すという大参事のあと、もうフルーツが出た。
いや、歳だからそんなに食べないけどさぁ、これだけなの?

19時半の時点で飲み物のラストオーダーを取りに来るわ他のお客さんはみんな帰ってしまったわで嫌な予感はしていたんだが、20時に、
「もう、お店閉めますので…」と言われた。
かなり驚く。
そうと知っていたら、なんとしてももっと早く来るんだった。
お店を指定してくれたWくんも、こんなに早じまいとは知らなかったらしい。

23年ぶりに会ったので、もうちょっとゆっくり話したかったけど、体調が不安な彼を次の店に誘うのもはばかられ、別れることになった。
トイレに立って戻って来ると2人でお会計をすませたようだったが、よく聞いてみたら、全額Wくんが持ってくれたらしい。
「ダメだよ、そんなの!」と抵抗したが、せいうちくんが意外とすんなりのんで「じゃあ、お言葉に甘えて」と言ってしまったのでそれで決着しちゃったが、1人対2人だよ?!
おまけに、彼と別れてから聞いたら、すごく高かったの!
あれだけしか食べてなくて、ビール1本と日本酒2合しか飲んでなくて、そんなに!って驚くぐらい。
「ぼったくりだねぇ」って、2人で笑い出しちゃったよ。

人と会ったあとはいつも寂しいんだけど、でもせいうちくんと2人でよその街を歩いてるのは楽しくて、結局ホテルまで20分ぐらい歩いた。

別れ際にWくんに、
「最近、クラブの人たちにけっこう会うんだよ。でも、皆さん愛憎半ばするって言うか、手放しで『懐かしい!また会いたい!』ってならないみたいね。複雑そうな顔してる人も多い。Wくんは?」と聞いたら、
「そもそも、元から少し距離をおいてたからなぁ…」と、やっぱりにこにこしてた。

飲んでる最中に、ふと、
「自分がこうなるとは、若い頃は思ってなかったよ」と言うので、
「Wくんは若い頃から穏やかで、今の姿はその頃の延長線上にあると言ってもいいと思うんだけど、どういう自分になると思ってたの?」と真面目に聞いたら、
「いや、とにかく、この歳になるってのが、想像がつかなかったよねぇ」と言われた。
そりゃそうだけど、歳はとるし、いつかは死ぬよ。
この話をもうちょっとしてみたら面白かったかしらん。

ホテルは「ダイワロイヤルホテルグランデ京都」。
日頃はアパホテルを愛用する我々には、贅沢すぎたかも。

Q:浴衣はないんだろうか
A:デスクの引き出しにあります(わかりにくい!)

Q:フィットネスがあるけど大浴場はないの?有料?
A:無料ですが、マシンが4台あるだけで、お風呂はありません

Q:朝食のチケットをもらったが、「15%引き」と書いてある。有料?
A:朝食のついたプランです。割引券にもなっているだけです

Q:目覚まし時計はないのか
A:デスクの上にあります(見当たらない)モーニングコールをご利用ください

と、何度もフロントに電話する田舎者を実演してしまった。
「ビジネスホテルってのはわかりやすくできてるもんだ、とあらためて痛感する…」とやや茫然とするせいうちくん。
ゴージャスすぎるホテルなんてキライだよう…

京都8

明日の朝は、私の大学の先輩Tさんがホテルまで車で迎えに来てくれることになっている。
「この時期はどこも混むので朝早く出発した方がいい」と言われていたんだが、ちょうど明日の朝10時に、「柳家喬太郎さんの落語会のチケット」が発売になる。
友人たちの分もあわせて4枚のチケットを取るのは、毎回、発売開始直後から分刻みの真剣勝負。
自宅パソコンの前にいられない今回、ノートパソコンを2台持って行くしかない!と言うせいうちくんを、
「タブレットではできないの?」と一刀両断したものの、10時にチケット取れるまでは動けないと思い、先輩にも10時過ぎのお迎えをお願いしていた。

ところが、ホテルで漫然とテレビのニュースを見ていたら、京都市内はどこも国内国外のお客さんで大賑わいらしい。
道路は渋滞、寺社仏閣は大混雑、飲食店には長蛇の列。
今日1日の経験に照らしただけでも、「確かにこれはイカン!」と震え上がった。

「ねえ、10時にWi-Fi完備のホテルにいなくても、スマホのテザリング機能を使って、屋外でもタブレットで接続できるんじゃない?車の中なりお店なり、場合によってはお寺の境内でも、座って操作さえできれば」と提案してみた。
「なるほど!大丈夫かも」との同意を得て、先輩に連絡してみた。

「もっと早く動くこともできると思います。ご都合はいかがですか?1日あちこち行ってみて、この三連休の京都は油断ならないと痛感しました」
すぐに返事が来て、
「そうでしょ!半端なく人が多いですから!」と、快くもっと早い時間のスタートにつきあってくれそう。
行き先の選定も含めて相談し、8時半のお迎えに予定変更してもらった。

明日の予定も立ったし、
「親切な人だねぇ。ありがたいよ」と手を合わせて先輩の存在を拝むせいうちくんと私。
今日は、あり得ないほど歩いた。
たくさん持ってきたサロンパスの過半を投入して脚に肩に貼りまくり、今夜はとにかく寝よう。

18年11月25日

6時に起きて、まだ起きたくないとぐずぐず言ってる人を尻目に、盛大に寝癖のついた髪を洗う。
朝風呂は、旅先の贅沢。
7時にはダイニングに行って、予想に違わぬ豪華で洒落たビュッフェを堪能した。
せいうちくんは珍しくトレイにのせたものを食べ切れないほどで、ヨーグルトを手伝わされた。
朝から薄切りステーキ2片も食べるからだよ。

京都9 (2)

すっかり支度をすませてチェックアウトし、ホテル前の道で先輩Tさんを待つ。
連絡取り合って、すぐに来てくれた。
近づいてくる赤い車を視認しつつ、最終確認でせいうちくんに、
「冷蔵庫の中のものも回収したね?」と聞くと、「あっ!」と言って、すっ飛んでった。
チーズや飲み物を入れていたのを、そのままにしてきてしまったようだ。

車を停めたTさんが降りてくるのとほぼ同時だったので、
「すみませ~ん、今、忘れ物を取りに」と説明する羽目になり、初めて会う「ミスターせいうち」の印象は地に堕ちたかも。
それにしてもTさん、お久しぶりです!
大学の女子寮閉鎖の集まりでお目にかかったのは、数年前?
FACEBOOKでずっとお互いにフォローし合っていて、あんまり久しぶりな気がしないですね!

じきにせいうちくんが戻ってきて、ご挨拶ののち、私は助手席、せいうちくんは後ろに乗せてもらって出発。
「まだ道がすいてるから、永観堂に行きましょうか。この時間なら、大丈夫!」と請け合うTさんの運転は、とても上手。
私と会話しながら、碁盤の目の道路をすいすいと、たぶん北上している。

渋滞とはほとんど無縁に「永観堂」に着いた。
さすがに入り口付近はタクシーを降りる観光客で少し車の行列。
「どこかに車を停めるから、連絡取り合って、あとで会いましょう。1時間ぐらい、永観堂を観光していて」と言われて、
「はい、じゃあ、この門のあたりで」といったんお別れ。

入場料の列に並びながら
「これで『今年の紅葉はダメ』って言われちゃうの?どこも、すごく綺麗じゃない!お寺の渋いモノクロさ加減と鮮やかな紅葉、さすがに絵になる!」と喜んで写真を撮りまくる。
すでに敷地の中に入れている人々が柵の向こうに見え、あの人たちはいったい何時から現場に来ていたのであろうか。

京都10

「境内に入りました!」と連絡すると、
「こちらは哲学の道で永観堂に向かっています」と返事が。
あとで合流したら、我々も「哲学の道」を案内してもらえるらしい。
名前を聞きかじっている「南禅寺」に行くんだ、わくわく。

上り下りの多い境内を夢中になって歩いているうちに、「特別寺宝展」なる掲示が出現。
「これ、見ようよ。お金はかかんないみたい」
私には、そこが重要。

京都14

中も上り下りが多い。
からくり屋敷かと思うぐらい、廊下が曲がりくねって、どこにいるんだかさっぱりわからない。
「撮影禁止」の札が多い気がするが、誰も気に留めず撮りまくっている。
脚が痛みがちなのを気づかって、小さな屋内用エレベータがあるのを見つけて乗せてくれるせいうちくん。
うん、ここ数年、こういうとこに来ると、「車椅子だとどうするのかなぁ」ってつい考えちゃう。

柵の奥の薄暗い空間に立っている「みかえり阿弥陀如来」を眺めて屋外に出たところで、
「あと10分で10時だよ。スタンバイしなきゃ」と言われた。
ああっ、すっかり完全に忘れていた!せいうちくん、頼りになる!

通路わきに石のベンチがあったので、2人で並んで腰を下ろし、リュックからタブレットを2台出して接続確認。
Tさんにも、「スタンバイ中です。10時ジャストにアクセスし、チケットが取れたら終わります。お待ちください」と連絡しておく。

それぞれチケット販売のURLは登録してあったから問題ないけど、10時の時報とともに現れたボタンを押すも、「つながりにくくなっております」のメッセージ。
いつもこうなんだよ~!
「戻って、もう1回トライして。ああ、ログアウトしちゃダメだよ!」と叱られながら、何度もボタン押す。
せいうちくんが、「取れた!」。
これで、2枚は確保。
会員1名につき2枚限定なので、私も頑張らないと、友人たちの分がない。

「つながらない~、動かなくなっちゃった~」と悲鳴を上げたら、
「もう、残席がほとんどないよ!貸して!」とタブレットひったくられた。
息詰まるような1分ほどののち、再び、「取れた~!」。
その間、5分ほど。そして、完売。今回も激戦でした…はあはあ(肩で息)

「修羅場ではあるけどさぁ、お互い、人間性が出るよね。血を見るケンカになりそうだった。あなたもこういう時は、人が変わるねぇ」と軽く文句を言ったら、いつもの穏やかで優しいせいうちくんに戻っていて、
「ゴメンね…焦っちゃって…感じ悪かった?」と恐縮してた。
「こういう時こそ、思いやりを持ちたいよね。無理だけど」とねぎらい、Tさんに「取れました!今から門に向かいます」と連絡。

京都13 (2)

入ってきた時よりもさらに混雑の増している門の外で、Tさんは箒を手にしたお寺の方と話し込んでいた。
我々の姿を認めて、相手の方に、
「お話ししてくださって、ありがとうございました」とにこやかに頭を下げるので、私も、
「お世話になりました」と一礼すると、相手の方は小僧さんのまま年を取られたような清々しい笑顔で、
「ほんまに楽しいお人ですなぁ」とおっしゃる。
Tさん、最強だ!

せいうちくんを後ろに従える形で、おばさん2人で並んで歩いた。
「哲学の道」は京大の哲学哲たちが思索を巡らしながら歩いたことからその名がついたそうだ。
「人は人、って歌だか言葉があるのよね」とTさんが教えてくれて、今、ウィキ見てるのでついでに書いておこう。

「人は人 吾はわれ也 とにかくに 吾行く道を 吾は行くなり」(西田幾多郎)

前後関係がいささか怪しくなるのだが、南禅寺、法然院、「サスペンスドラマでよく犯人が追いつめられる、ローマ風建築のところ」(「南禅寺水路閣」らしい)を通った。
石川五右衛門が「絶景かな絶景かな」と呼ばわった三門も見た。
(頭の中では「山門」と変換していた…)
「砂檀」の絵を皆さん夢中で撮影していたのは法然院らしい。
小さなフォークコンサートっぽいものをやっていたり柚子茶をふるまわれたりしたのは、どこだったんだろう?
今、あらためてガイドブックを見て、銀閣寺に行っていないことは確認できたが、安楽寺と霊鑑寺はどうだったか。
せっかくTさんが案内してくれたのに、不甲斐ない…

京都15

途中で、Tさんのお気に入りの店だという、お歳のいったご夫婦がやってる小さな版画屋さんに入った。
川瀬巴水などを愛好するせいうちくんがかなり夢中になっていたら、ご主人が版木などを取り出して見せてくれる。
小林清親という作家のものがとても気になるようで、何枚も見ているので、ちょうど壁に掛ける絵を探していることだし、折れないように厚紙入れてしっかり梱包してもらえば、今日はこのまま帰るだけだから大丈夫!と、1枚いただいていくことにした。
暗い色彩の中にオレンジが鮮やかに入った「新橋ステーション」の風景を選んでいた。

ご主人が梱包している間に、奥様が3人分のお茶を入れてくださった。
小さな椅子に座って、美味しいお茶を味わって、とってもいい休憩になった。
3センチ×5センチぐらいのマッチ箱のラベルのコレクション等も見せていただき、
「これ、全部、版画なんですか!」とびっくり。
「昔はね、こういうものも摺ってましたね。今は皆、印刷ですからね」とおっしゃっていた。

「お菓子も、持って行ってね。途中で食べて。お行儀悪いけど、外人さんたちは歩きながら食べてるから(笑)」と、お茶と一緒に出してくださったお菓子を奥さまが袋に入れてくれた。
あー、Tさんにあげて来ようと思ったけど、せいうちくんのリュックに入れたまま持って帰っちゃったなぁ。
食べよう!糖質制限でも、これは、食べる!

ご夫婦並んで見送ってくださり、
「これから東京へ戻られるの?今日は、混みますよ。切符は買ってあります?」と心配してくださった。
本当にどこも混んでますね!

そぞろ歩きを終えて車に戻り、京都駅の近くに移動して、予約してもらっていた「松粂」というお店でお刺身つきのミニ懐石をいただいた。
庶民的なお値段と雰囲気なのに、とても美味しくて、楽しめた。

京都17

昨日の「わらじや」の話をしたら、有名なお店だけど、やはり「コスパは良くない」のだそうだ。
「雑炊なのよねー。まあ、柔かいから、歳を取ったら行こうか、って友達と話してる」って。
「20時に閉まりましたよ。京都の店はみんなあんなに早いんですか?」と聞くと、
「そんなこと、ないない。あそこはね、お年寄り向けなの」とのこと。
Wくんはどういう基準でお店を選んだのか、ものすごく興味がわいてきた。

今日の道々でもずっと話していたこと。
Tさんは私が大学の女子寮に入った時、寮長をされていて、私を見送ってきた母とも会って、学食で一緒にごはんを食べてくれた。
母はその後ずっと、
「あのしっかりした寮長さんがいるところなら、あなたも安心」と喜んでいた。

しかし私は非常に態度の悪い寮生で、「デューティ」と呼ばれる掃除や門番の当番をサボりまくった。
デューティをサボった人は「ペナルティ」として新たに追加の当番が課せられる、それも平気でサボり倒していた。
卒業まで寮にいたが、あれほど大量のペナルティを抱えたまま涼しい顔で退寮した学生はいなかっただろう。
今思い出すと、顔から火が出る。

「卒業生たちに会って、あなたの話が出ることあるのよ。『ああ、あの、デューティサボりまくってた人』って、みんな、よく覚えてる」と笑われ、
「面目ありません。恥ずかしいです」と言うと、
「まあ、そういう人の方が覚えててもらえるものよ」とまた笑われた。

せいうちくんの大学のサークルに入って、そっちに入り浸っていて、全然自分の大学にいなかった40年前をまざまざと思い出す。
親への反発でいわば合法的な家出のように東京の大学に出てきたので、はじけ飛んでいたとしか言いようがない。
言い訳すれば、あの頃の私は「反社会的人格という深刻なビョーキ」を患っていた。
「境界型人格障害」って言ってもいいけど、さすがにまわりがみんな引いちゃうからなぁ。
今からでも、迷惑かけた先輩や同僚のおうちを訪ねて、頭を下げてお掃除して回りたいぐらいだ。
体力ないんで代わりにせいうちくんにやってもらおう、とか思うところが、いまだにダメダメなんだろう。

「大学では、ディスカッションの大切さを教わった」と語るTさんは、寮時代に、特に「話し合い」の必要性を痛感していたようだ。
「お掃除をしない人がいる、迷惑だから出て行ってもらいたい、ではいけないと思った。その人にはその人の理由があるし、話し合って解決できることは話し合うべき」と言うTさんは、きっと態度不良の私もかばってくれていたんだろう。
Tさんがいなかったら、追い出されていたのかも。

思えば、同室の先輩だったRさんも、迷惑だと思ったことはかなり厳しく言う人だったけれども、
「これはあなたの自由だから」と黙って許してくれたことも多く、今でも姉御肌な性格のまま、公平に接してくれる。
大学の校風がそもそも自主・自律・自由なのだろうか。
卒業生の共通した性格として、他人のことに過剰な口出しをしない、他人の価値観を尊重する、理性と筋道を重んじる、といった傾向があるような気がする。
せいうちくんがよく感嘆して言う、
「キミの大学の、特に女性は、あまりにも冷静だ!」との言葉が多くを物語っている。

「ミスターせいうちにもお会いできてよかった。想像していた通りの、良いお連れ合い」とほめてもらい、せいうちくんも感激していた。
今回来られなかった友人と一緒に、また来年、彼女のリベンジマッチで京都旅行を企画すると思うので、Tさんまたよろしくお願いします。
次は、ご主人を紹介してくれるそうである。
せいうちくんをTさんに紹介できて、今度はTさんのご主人と我々が知り合いになれたら、樹村みのりが「わたしの宇宙人」シリーズの続編である「結婚したい女」という作品の中で描いているように、
「人類に、また知り合いが増えたという感じですね」となり、ステキだと思う。

文書名 _[樹村みのり] ふたりが出会えば

そうそう、やっぱり私は何かと言うとマンガの話をしてしまうようで、Tさんにもよしながふみの「大奥」歴史観を語ったりしていた。
「面白そう。今度、読んでみるね」と優しく受けてくれる人でよかった。
同年代として、萩尾望都やわたなべまさこ、懐かしい!となってくれたし。

余裕を持って京都駅の近くで降ろしてもらい、あとは新幹線に乗れば一路東京。
駅は大変な混雑で、トイレに行っておこうと思ったら、女子トイレの列は軽く10メートル以上外に伸びていた。
早く来てたから全然間に合ったけど、大きな駅のトイレがこんなに混むなんて、まったく大変な場所に大変なシーズンに来たものだ。

のぞみに乗って指定席に座り、幸いすぐに販売カートが来たのでコーヒーを買ってひと息。
あらら、せいうちくんたら、コーヒーも飲まずに眠りこんじゃった。
いつもだったら揺り起こして旅の総決算をするんだが、さすがに気の毒なので、1人でぼんやり記憶をたどっていた。

思えば、着いたその瞬間からほとんどずっと、京都人の誰かと一緒にいた。
3人の友人に会い、誰もが、熱心にアテンドしてくれた。
家に招いてくれたEさん、30分も遅れたのにおごってくれたWくん、そして朝早くから車を出してあちこち案内してくれたTさん。
観光地に住んでいるため慣れているというのもあるんだろうけど、人のご縁を大切にする方々、と感じ入った。

Eさんはわりと最近の友達なので、まだ私は彼女にあまりひどいことをしていないと思うが、大昔の知り合いであるWくんやTさんには、絶対にすごい迷惑をかけ、ひんしゅくを買い、人間性を疑われていた時期があったと思う。
皆さんの、他人をとがめない豊かな人間性にも助けられているし、幸いなことにせいうちくんという心から支えてくれるパートナーを得て人格や生活が安定し、私の中にもわずかばかりはある良い面を他人様にお見せすることができるようになった気がする。

あと、大きいのが、ネットやSNSの発達。
20年以上日記を書いていられるのもそのおかげで、TさんやEさんはいつも愛読してくれて、「面白い!」とほめてくれる。
SNSを通して、自分のことや子供のことで悩んでいる時も、親身に寄り添い、励ましてくれる。
引きこもりだったこの年月、リアルに人と会えなくてもなんとかなる、この環境は本当にありがたかった。

秋の京都を訪ねるのがこれほど贅沢な行為だとは知らなかったが、皆さんのおかげで、ぼうっとするほどの良い経験を積むことができた。

正直、京都以外の土地の人間、特に「東京者」にとって、京都は怖い。ビビる。
「お江戸の人は、かなわんわぁ」
「へぇ、東京では、そない言わはるんでっか」
「ぶぶづけ」etc.

特に最後のひとつ「ぶぶづけ」は、
「もし、本当に『ぶぶづけでもどうだす?』と言われたら、どうするか。断るのも失礼な気がするし、かと言って、真に受けてぶぶづけをよばれたら、底のない礼儀知らずの田舎者の烙印を押されると聞く。どっちが正しい態度なの?!『心にもないことを言う京都人』と『裏表のない京都人』と、両方いるかもしれないじゃない!」とものすごい不安を抱く。
(これについて、京都の人にヒアリングを試みたところ、明るく言い切られた。「大丈夫!『裏表のない京都人』なんて、実在しません!」ぶぶづけは常に断っていいようだ…)

こういう不安を全然感じないで旅ができたのは、流暢な京都弁をしゃべる人たちがほぼずっと横にいてくれたおかげだろう。
軽やかないなし方、かわし方、踏み込まないで距離を保ち、なおかつ相手に対する真摯で温かい態度を堅持する、狭い公家社会で発達したのであろう京文化の神髄、を見せてもらった。

繰り返します。
Eさん、Wくん、Tさん、ありがとうごさいました。
東京でおもてなし返しできる機会を、楽しみにしています。

たった1泊なのに2泊3泊したと錯覚するほどの感動と思い出を抱いて、この秋の夫婦旅行は終わりです。
やはり、あれは名コピーだったなぁ。

「そうだ 京都、行こう」

あなたも、行こう。

京都24 (2)


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