こころ 夏目漱石 読書感想文

大きく3つの構成に分かれており、「上」は先生と私の出会い、「中」は先生と離れて帰省した私と家族のやり取り、「下」は全編、先生から私にあてた手紙、という名の遺書となっている。特に「下」は本当に遺書のみで、物語の3分の1、および100ページほどの大ボリューム遺書という驚きの内容。現代としてみても他に類を見ないほどトリッキーな構成で、かなりのびっくりポイントでした。しかも長いだけでなく読者をどんどん引き込む内容で、私は「上」「中」と何日かに分けてマイペースで読み進めていたのですが、「下」に入った途端、一気に読み切ってしまう程の没入感がありました。それだけ引き込む力が強いのは、何より「上」「中」で色々と伏線がちりばめられているからでしょうね。「下」まで進めたところで、それまでのもやもやしたフラストレーションを一気に爆発、といったところでしょうか。ただ、「上」と「中」は退屈なのか、というとそんなこともなく、各々読ませる物語が展開されます。やや本筋から離れ気味の「中」にしても、家族各々の立場による駆け引きのようなものがあり、個人的にも面白い内容になっていました。

同じ作者の作品として「吾輩は猫である」も読みましたが、それと比べると大分読みやすい作品です。「吾輩は猫である」は風刺を効かせた作品で、当時の時代背景を知らないと物語に入り込みづらかったですが、本作は人間関係や恋愛感情が主題なので難しい表現は少なかったです。どの登場人物にしても感情移入できる部分がある。人間関係の物語というのは時代に関係なくいつまでも不変なのかもしれません。

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