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焼肉幼児

せがれの指の二、三本は焼肉でできている。

毎週週末のランチは焼肉だ。焼肉定食の肉大盛り。同じ店の同じメニュー。離乳食が終わって以来だからもう一年以上になる。

せがれが付け合わせのナムルを食っている間に手早く肉を焼く。借りたハサミで肉を細かく切り、ご飯に乗せる。わかめスープをそいつにちょっとかけてやる。せがれはまずご飯の上の焼肉を指でつまんで平らげ、スープをすすり、最後に飯を食べる。

肉を食っているせがれは幸せそうだ。何口か食う度に歯をむき出しにしてにやーっと笑う。人間はもともと肉食だったのではないかと思えてくる。

頃合いを見てパイナップルを焼いてやる。せがれはこいつに目がない。タイミングを間違えると他のものを食うのをやめてこれしか食べなくなる。せがれに「うまいか?」と聞くと「まいー」と答える。おいしいか?と聞いても同じ答えだ。おれが飯を食う時にうまいというのをいつのまにか覚えてしまった。

焼肉屋にしか来なくなったのは、近所でガキンチョを連れて入れる店が他にないからだ。いくつか試したが店員か客に嫌な顔をされる。あるいは両方に。ガキがビービー言うのは当たり前だ。スカした客も昔は自分が皿をぶん投げていたのを忘れているだけだろう。おれは何を言われても気にしないが、いちいち揉めるのが面倒になった。そんなわけで毎週毎週焼肉屋に通うようになった。

せがれは焼肉屋のおばさんにすっかり顔を覚えられている。特にサービスされたり愛想を言われたりはしないが、黙っていてもハサミとプラスチックの皿が出てくるようになった。せがれの虫の居所が悪い時に皿をぶん投げても、新しいのをただすっと出してくれる。その普通さが気にいっている。

食い終わるとせがれは明細をカウンターに出しに行った。おばさんは1500円です、と普通に言いおれが金を払った。

#日記 #コラム #エッセイ #2歳児 #焼肉 #育児 #無職

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