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初出勤

渋谷のレンタルオフィス、1時間300円。

先週まではオフィスに行くと金がもらえたのに、今日からは金を取られる。やってることは変わらないのにおかしな話だ。

このレンタルオフィスは会員になると都内にある数カ所がどこでも使える。便利なようだがおれは実質渋谷しかつかわない。誰とも打ち合わせがないからだ。東横線に乗って朝からやってきたがまだ誰も来ていなかった。

オフィスの内部は漫画がない漫画喫茶だと思ってもらえればいい。プラスチックの丸テーブルがおいてあり、好きなところに座って仕事をする。壁には漫画の代わりになんとか講座のポスターや会員紹介が顔写真付きで何枚も貼ってある。どの紹介にも勧誘めいたことが書いてあり、言う通り「お気軽におたずね」しない方が良さそうなのもある。確かにカモを探すにはいい方法なのかもしれない。おれもビジネスプランに加えるべきだろう。

電車賃を払ってわさわさやって来たのはこれからのことを考えるためと、妻子の生活リズムを変えないためだ。無職のオヤジが一日家にいると暮らしが暗くなる。ママ友も呼べない。ガキはスペースを奪われてストレスがたまり多動症になる。アパートの住民に後ろ指を指され、郵便受けに水を入れられる。

それじゃああんまりだから平日は家にいないことにした。せっかくオフィスを借りたので何か働いてみる、そういう流れだ。そんなわけで別にやることはないのだ。

とりあえず、退職挨拶にきた返信メールに返信することにした。多くの人に新天地でのご活躍を祈念されているが、新天地は家かココだ。活躍のしようがない。壮行会をやってくれるとか、飲みに行きましょうというのも何通かあった。おれはその手のメールはいつも無視していたが、全部行きましょうと返してみた。もしかして、儀礼的誘いってやつだったのかもしれないが、かまわない。だいたいおれは一滴も酒を飲まないのだ。

そんなことをしながらPCにカレンダーやらメールやらの設定をしたらあっという間に夕方になった。周りを見るとノマドワーカーというかリアルな遊牧民風のおっさんでいっぱいだった。ココにいる理由はたぶんおれと同じようだろう。だいたい、本気で起業するつもりならもっと洒落たシェアオフィスを使う。[レンタルオフィス 最安]で検索して見つけたりしないのだ。

おれは予定より随分早くオフィスを出た。そして節約のために無理矢理歩いて家に帰り、せがれを風呂に入れた。

#日記 #エッセイ #コラム #無職 #レンタルオフィス #ノマドワーカー



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