川の流れのように
目黒川を眺めている。
川の流れのように、続きはなんだっけ?目黒川を見ていても特になんの感興もわかない。コンクリートの間を浅い水が流れているだけだ。川が見たいわけじゃなくて、疲れ切って座っている目の前を川が流れている。
おれの育った街にも川があった。染物工場から垂れ流される排水でいつも不思議な色をしていた。紫だったり、ピンクだったり、見かけるたびに色が違った。とにかく工場ばかりの街だったから、他にも色んなものが流されていたのだと思う。ケミカルな色水に死んだ魚がよく浮かんでいた。
町の住人はたいてい工場で働いていた。パチンコの部品だの、鉄砲だの、作っているものは様々だったがやってることは同じだ。朝から晩まで手を動かして、夜は博打を打つか酒を飲む。誰もがその日暮らしに近かっただろうが悲惨さはなかった。皆まぁなんとかなると思っていたし、実際なんとかなった。
工場に勤めてない家は自営業か農家だ。おれの家は土建屋だったし、隣の幼なじみの親父は長距離の運転手だった。いつだったかそいつの名前をネットで検索してみたが、まったく何も引っかからなかった。そいつだけじゃなく、あの頃の友達を思いつく限り調べても誰一人見つからない。21世紀になってもSNSをやっているのがゼロ、そんな街だ。
小5の時、そいつと二人で川沿いの道を自転車で延々と走ったことがある。いつか海に着くと信じていたのだ。朝から夕方までこいだが工場が続いて、とぎれ、また続くだけで結局夜になる前に帰ってきた。多分あの日、おれは街を出ようと決めた。
18になって友達と彼女をあっさり捨てて東京に出た。それ以来、実家に帰るのは正月と法事だけだ。家族以外に会うことはない。あの川も廃棄物の規制が厳しくなって随分ときれいになった。あの頃の友達はガキを連れて川遊びをしたりするんだろうか?あの街でずっと続いているおれのいない世界を時々想像する。
川の流れのように、続きはなんだっけ?
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