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ワークブック公開!やさしく、ふかく、おもしろい組織開発新論(価値デザイン編)

■はじめに

企業ビジネスにおける組織開発の普及は、ほんとに目を見張るものがあり、喜ばしいかぎり。

が、一方でこんな声もあります。先日、友人の組織開発コンサルタントが長年支援している大手企業2社の組織開発事例が発表されるウェビナーを聴講しました。

チェンジエージェントとしての人事の方々の継続的な働きかけが功を奏して、全社レベルで進展してるのが素晴らしいなと思いました。

が、終わった後にその友人は「職場の関係性向上は進んでいるけど、価値創造プロセスまでは踏み込めないんですよね」と。

僕はここにこそ、いま、組織開発の直面している大きな課題があると感じています。


■自己紹介

はじめましての方に、ちょっとだけ自己紹介させてください。

僕は、対話型組織開発コンサルタントで、ひとり起業家として活動しています。組織開発コンサル歴は18年になります。

独立前は、スコラ・コンサルトという日系組織開発コンサルティングの老舗に所属していました。

このとき、業績が低迷していた大手造船会社を再建する社長特命のプロジェクトを支援し、業績回復と伸長に伴走させていただいた経験がいまの仕事の原型になってます。

それは全社の部長たちが部門横断で”真剣勝負の対話”を繰り返した「価値デザイン」のプロセスそのものでした。

■本コラムの提供価値

さて、このコラムでは、高い成果を生むチームや組織になるため必要とされる「共感デザイン」と「価値デザイン」の両立について

特に、実践者の悩みが大きいと思われる「価値デザイン」のヒントをご提供します。

ちなみに、僕もかかわっている幸せ視点の経営学を考えるコミュニティhintを主宰する斉藤徹さんのベストセラー『だから僕たちは、組織を変えていける』によれば

「共感デザイン」と「価値デザイン」は以下のように定義されています。

共感デザイン=個々のメンバーが自然体で他者に共感する感覚をとりもどし、チーム内の関係性を高める

価値デザイン=信頼関係のあるメンバーが集まって率直な意見を出しあいそれを集約し、価値を創造する

■こんなお悩みありませんか

組織開発の理論にもとづく実践で、チームメンバーの関係性が深まり、安全な場ができ、メンバーの積極性も増してきたが、仕事のパフォーマンス向上につながる動きにはなっていない

例えば・・・

  • チームで対話する機会は増えたが、同じようなテーマでぐるぐる回りがち。

  • 最初は対話的なかかわりが新鮮だったが、だんだん参加意欲が落ちてきている。

  •  対話を続けていても、新たな価値を創造できる感じはまったくしない。

■こうなっていたら要注意!

上記のような悩みを持ちながら、こんなパターンになってしまっていたら注意が必要です。

  • もっと関係性を深めればなんとかなるのではと場の設定に注力する。

  • 対話の場を仕事から切り離して、安心して話せる場の確保に走る。

  • アイデア出しのブレストはよくやるが、これだというものが出たためしがない。

■真の原因は・・・

このようにチームの人間関係の改善から、顧客や社会に向けた価値づくりに進めない主な原因は、チームによる価値創造の基本的な視点を持っていないからではと僕は考えています。

要は「信頼関係のあるメンバーが集まって率直な意見を出しあいそれを集約し、価値を創造する」という価値デザインの入り口(何をどのように創造するのか?)がどこにあるかわからないということかと。

特に時代はVUCAと言われ、この先どうなるのかわからない/そもそも、いま何が起きているのかもわからないという不確実性の中、新しい価値を考えるなんてハードルが高すぎるということもあるでしょう。

■解決の方向性

そこでご紹介したいのが、現代で最も包括的な思想家とも言われるケン・ウィルバーが提唱した世界観である「四つの象限(The Four Quadrants)」です。

これまで古今東西で提供されてきた世界についての見方(地図)を研究する中で、その共通項として発見された極めてシンプルかつ本質的なフレームです。

『万物の歴史』ケン・ウィルバー


図に示されるとおり、縦軸を「個的(individual)」⇄「集合的(collective)」、横軸を「内面(inside)」/「外面(outside)」とする2つの軸で形成する4つの象限で、

左上の個的/内面の象限を「意志的」、右上の個的/外面の象限を「行動的」、右下の集合的/外面の象限を「社会的(システム)」、左下の集合的/内面の象限を「文化的(世界空間)」と表現しています。

不確実性の時代だからこそ、「四つのタイプの非常に異なる全体論的順序」で、いま目の前で起きている一つひとつの現象を、表面をなぞるのでなく、本質的な構造として捉えていく必要があるのではないでしょうか。

このフレームを企業ビジネスの組織や事業に活用するときの現代的な意味合いを僕は以下のように3つの切り口で認識しています。

1. 多次元的な視点の提供

「四つの象限」は、物事を多角的に捉えるためのフレームワークで、個人の内面(意識)と外面(行動)、集団の内面(文化)と外面(システム)という4つの象限を通じて、組織や社会の複雑な問題を包括的に理解することができます。

これによりVUCA時代の複雑な課題に対しても、偏りのない全体的なアプローチが可能になります。

2. 統合的なアプローチの促進

「四つの象限」は、異なる視点を統合することで、より深い洞察を得られるものです。

例えば、組織の問題を解決する際に、個々のメンバーの意識や行動だけでなく、組織全体のシステムや文化も考慮することで、より効果的な解決策を見つけることができます。

3. 持続可能な変革の実現

「四つの象限」は、持続可能な変革を実現するためのフレームワークとしても有効です。個人と集団、内面と外面の全ての側面をバランスよく考慮することで、組織全体の調和を図りながら変革を進めることができます。

これによりVUCA時代でも、組織が柔軟かつ持続可能な形で成長し続ける方法を考えることができます。

この「四つの象限」を、僕の師匠であり、とんがりチーム®︎研究所のアドバイザーでもあるK先生(青木孝一さん)が、組織や事業の運営に応用して構築したフレームが【らしんばん】です。
 
ウィルバーは4つの象限に取り組む順番については述べていませんが、実務的に活用しやすいように、【らしんばん】は、左上から便宜上、時計回りに設定しています。

ただ、順番に強いこだわりはなく、組織の状況に応じて全体として扱っていくことが重要だと考えています。

■【らしんばん】

組織版の4つの象限【らしんばん】をつくる

まず、縦と横の2つの軸を組み合わせて、マトリクスを作ります。ケン・ウィルバーの「四つの象限(The Four Quadrants)」の応用型です。
 
縦軸を「リーダー(個的)」⇄「フォロワー(集合的)」、横軸を「内面的(目にみえにくい)」⇄「外面的(目に見えやすい)」と定め、4つの象限をつくります。

すると、左上は創業者や経営者などのリーダーによる事業や組織をこうしたいという想いにあたり(パーパス)、右上はその想いを実現するため目に見える形で示す重点的な基本方針(戦略)
 
右下はそれを具現化すべくより多くの人たちが担う打ち手(アクション)、左下がその結果生まれてくる組織全体の価値観や哲学(カルチャー)といったものになります。

そして、左上を起点にして、「パーパス」→「戦略」→「アクション」→「カルチャー」と、時計回りに進んでいくことになるのが一般的なパターンになるかと思います。これを【らしんばん】と名づけました。
 
もちろん、現実的には行ったり来たりがあるので、あくまでも便宜的にと捉えてください。一番わかりやすいのは、起業のプロセスでしょう。改めて以下にご紹介します。

1.パーパス

まず、創業者(およびその仲間たち)が、世の中の人々の悩みごとや願いごとをこんな風に解決したいという想いを持つことがすべてのはじまりです。
 
「自分たちって結局、何者だっけ?」「そもそも何をしたいのだっけ?」という問いへの答えとも言えます。
 
それが実行されたときの理想の絵姿が「ビジョン」ということになり、これもこの象限に含まれることになります。
 
存在意義たる「パーパス」は、「ミッション」と言ってもOKですが、最近では、内発的動機から自己選択するものという意味合いで「パーパス」を使う傾向が強くなっています。
 
ということで左上を「パーパス」の象限と呼びます。

2.戦略

次に、このパーパスを実現するには「誰に何を届けるのか」を定め、商品やサービスの形に仕立ててお届けすることになります。
 
さらに、お客様にこの商品やサービスが届くことによって、彼らにどんな新たな価値が生み出されるのかを描いていきます。
 
かつ、自分たちがその価値を誰よりも高くつくり出せるという根拠が必要です。それにはお客様を主役にした一連の物語りが、ロジックで裏付けされ展開していくのです。
 
右上はこのような基本方針を定める「戦略」の象限と呼びます。

3.アクション/しくみ

そして、戦略にもとづく商品・サービスを効果的にお客様に届けるためには、組織やチームの目標を明確にし、業務のオペレーションや、それにかかわる人や組織の動きの設計と検証が必要になります。
 
サプライチェーンの設定や技術的なツール、システムの導入などです。人の採用、育成、活用、評価のしかたなども含まれます。
 
これらはまず「アクション」として実行され、徐々に体系的に「しくみ」化されていくという流れになるので、右下を「アクション/しくみ」の象限と呼びます。

4.カルチャー

こうしてパーパス、戦略、アクション/しくみが、左上から時計回りに一周ぐるっと回って、結果として形成されるのが、その組織やチームに固有の「カルチャー」ということになります 。
 
左下を「カルチャー」の象限と呼びますが、指示命令的な色合いの強いマネジメントで回せば、そのようなカルチャーができますし 、メンバーの主体性を重視するマネジメントで回せば、自律分散的なカルチャーになっていきます。
 
ここでお伝えしたいのは、いきなり組織やチームのカルチャーをつくる、あるいは変えるということは難しく、カルチャーは事業や組織活動の動的なプロセスから結果として生まれるということです。
 
事業や組織が持続するということは、このサイクルがぐるぐる回っていることを意味します。ただ、同じようなところを回るより、回るたびにお客様や社会への価値提供が刷新され、スパイラルアップしたら、その分、自分たちの組織やチームも成長しており、持続可能性が増すとも言えます。

 ベンチャー企業でも、伝統的な大企業でも、あるいは個人事業的なものでも、あらゆる組織や事業が、このような流れで回っているのではないでしょうか。



このフレームはもう十数年使い続けていますが「ウチの組織にはあてはまらない」と言われたことは一度もありません。
 
問題は、組織や事業の多くが、この4つの象限を一連のまとまったつながりとして効果的に回せていないところにありそうです。
 
まず、あなたの事業や組織で、いま、どうなっているかを考えてみてください。あなたのチームでも、事業部でも、会社でも、どの範囲でも結構です。シンプルな切り口なので、ご自身で十分やっていただけると思います。
 
よく企業現場で耳にすることを【らしんばん】に入れ込んでいくとこんな感じになります。
 

 

大事なのは、この図は正しいかどうか?ではなくです。 

★なお、いまお伝えした【らしんばん】を5分動画で解説したものも掲示しておきますので、復習としてご覧ください。


■”あすbe”4つのワークブック公開!


それでは、最後に【らしんばん】の典型的な活用のしかたを、4つの象限ごとに設計したワークブックを公開する(ダウンロードいただけます!)ことでお示しします
 
これは長年にわたり、企業現場での実践をもとに改良を加えてきたものです。
 
実際に僕が支援先にてワークショップ(”あすbe”という組織開発のアクションラーニングプログラム)として使うときは、
 
対象層、対象人数、個人ワークとチームでの共有や対話のしかた、期間の設定など、実は考慮すべきポイントがたくさんあります。
 
でも、今回は、各象限についてどんな「問い」に答えを出していくとよいのかのご参考として活用いただくことに目的を絞りました
 
それでは、パーパス→戦略→アクション→カルチャーの順に4つのクエスト(Quest/探究)について、ワークブックとともにご覧いただきましょう。
 

1)パーパスクエスト

↓ WORKBOOKは以下からダウンロードできます。

 
「自分たちって結局、何者だっけ?」「そもそも何をしたいのだっけ?」という問いへの答えが、パーパスということになりますが
 
事業を通じて、誰の悩みや願いがどのように解決されるのかを、ユニークな文脈で解像度高く描くことが必要で、【未来創発キャンバス】というフレームを使います。
 

 
ちょっとした実践上のこだわりがありまして、順番を①から⑧まで見ていただくとおわかりのとおり「パーパス」を一番最後に置いています。
 
本来は最初にくるべきものなんですが、これを最初にやると、とてもふわっとしたどこにでもあるようなパーパスになりがちなんです。
 
そこで、①〜⑦を設定した上で、こういう絵姿を目指している私たちって何者だっけ?を定めると、ぐっと臨場感が増してくるのです。

2)戦略クエスト

↓ WORKBOOKは以下からダウンロードできます。


 日本企業において、「戦略」と呼ばれているもの(典型的には中期経営戦略など)が、本質的な意味での戦略になっていないことが少なくありません。
 
よい戦略は、十分な根拠に立脚したしっかりした基本構造とロジックを持っており、一貫した行動に直結するもの(by 戦略論の大家リチャード・P・ルメルト)なので
 
【未来創発キャンバス】で描いた世界を実現するためのシンプルかつ筋のよい戦略をストーリーとして【戦略生成キャンバス】で定めます。

一橋大学・楠木建先生の『ストーリーとしての競争戦略』を土台にさせていただいております。 

3)アクションクエスト

↓ WORKBOOKは以下からダウンロードできます。

 
研ぎ澄まされた戦略を立てた場合、それが日常業務との齟齬を生む可能性があります。このような状況では、日常の慣性によって新しい戦略の実行が遅れてしまうことが避けられません。
 
そこで、戦略を実行するための施策を包括的に作成するのではなく、短期間で質的なインパクトを得られるアクションに絞り込み、実践することをお勧めしています。これにより、日常業務との両立も可能になります。
 
この取り組みでは、【行動実験キャンバス】を活用します。このフレームは、従来の枠組みからあえて逸脱した高いレベルの目標を設定し、結果に臆することなくチャレンジできるように、人事評価に結び付けないことが多いです。

4)カルチャークエスト

↓ WORKBOOKは以下からダウンロードできます。

 
こうして、パーパスクエストからアクションクエストまでの一連の取り組みにより、【らしんばん】を迅速かつ効果的に回すことができます。
 
日常の活動ではなかなか経験する機会のない貴重な体験をしっかりとふりかえり、言語化し、それを持続的に発展させることができれば、組織のカルチャーづくりにつなげていける可能性が高まるというわけです。
 
ふりかえりのフレームとしては、組織行動学者のディヴィッド・コルブが提唱する「経験学習モデル」を活用します。

 各クエストのプログラムに取り組んでいるときは、やはり内容に集中することになりますが、「ふりかえり」の段階では、内容だけでなく、その体験をしたときの感想や気づきを把握し、次の1周に向けた準備を整えていきます。 

■おわりに


いかがでしたか?

『やさしく、ふかく、おもしろい組織開発新論』の実践論としての価値デザイン編
をお届けました

おもしろいな、なんか気になるなと感じた方、「スキ」や「ブックマーク」いただけるととてもうれしいです。また、お読みになったご感想など、メンション付きでコメントいただき、そこから意見交換していけたらと思います。

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