くじらとチョコレート
はじめて弾き語りのライブにいった
ちいさなライブハウスはまるでチョコレート色の水槽だった
水族館の大きな水槽のように深く暗い地下室はしずかな熱でみちている
水槽に赤ワインを数滴垂らしたみたいな色あいで 灯りが照らすのはくじら、
チョコレート色の水槽の中を泳いでいた
深海魚のかたちをしてくじらをみていた
くじらはあまりに大きいので 眼の前にあらわれると太陽も星も月も隠れてしまう
光は閉ざされて真っ暗だ
くじらの澄んだ瞳に映る光をたよりに泳ぐ
うつくしいものだけを映しだす瞳はとても眩しくて
その眩しさに目がくらんだとき、くじらは言う
夢はいつか消えるから大丈夫
そこにいて、と言うから
わたしたちはようやく安心して地下室から地上に出る
また深海魚のかたちになって 地下室におりてこれば 水槽にもぐれば
くじらは漂っているだろう
うつくしさをその瞳に宿して