タイトル兵

折々の漢字――「ごんぎつね」の「兵」十について

先日、こんな記事を読みました。

「ごんぎつね」教科書に60年 古い掲載書、提供を
 国民的童話で知られる「ごんぎつね」が小学校の国語の教科書に載って60周年を迎えた。作者・新美南吉の出身地、愛知県半田市にある新美南吉記念館は7月から、南吉の作品が載った歴代の教科書を展示する特別展を開く。「古い教科書をぜひ譲ってほしい」と一般にも広く提供を呼びかけている。
 「ごんぎつね」は1956(昭和31)年度の大日本図書の小4の教科書に初めて登場した。その後も、主に小4用に掲載され続け、80年度以降は小4の全部の教科書に載っている。(朝日新聞デジタル

「ごんぎつね」についての記事。現在は、小4教科書の、下巻の最初のほうに掲載されることが多いかな、と思っています。30年以上も全社の教科書に掲載されているんですね。

朝日新聞デジタルでは、会員記事で続きが書かれているのですが、気になったのは次の部分。

 新美南吉記念館の学芸員・遠山光嗣(こうじ)さん(44)によると、教科書の「ごんぎつね」は必ずしも発表当初と同じではないという。
 小4の学習に適切な長さに削られたり、主人公の子ギツネ・ごんのいたずら相手である兵十の読み方が「ひょうじゅう」から「へいじゅう」になったりしている。61年度に一度だけ小3用に載った中教出版の教科書では、最後にごんが火縄銃で撃たれる場面で、弾が足に当たることになって致命傷を免れていた。「編集者は小3の子にとって、ごんが死ぬのは残酷だと考えたのでしょう。でも、物語の重要なテーマである不条理は伝わらなくなった」と遠山さん。「それぞれの時代に子どもたちへの様々な教育的配慮がなされ、その移り変わりも面白い」と話す。

「兵十の読み方が「ひょうじゅう」から「へいじゅう」になったりしている。」……?

確認のために現在の教科書を確認しましたが、読み方は「ひょうじゅう」でした。

調べてみると、一時期、「へいじゅう」という読み方だったこともあるようです。学習した年代によって、「へいじゅう」と「ひょうじゅう」に分かれてしまうんですね。

じゃあ、どうして一時期は「へいじゅう」だったのか。それはおそらく、小学校で学習する「兵」の読み方に関わっていると思います。

「兵」は常用漢字表には、「へい」と「ひょう」の読みが掲載されています。で、「兵」という漢字は小4で学習するのですが、そのときに習う読みは「へい」だけなのです。「ひょう」の読みは高校で学習します。

この記事時のタイトル画像で「兵」の学習学年や読みを載せていますが、「ひょう」は高校学習ということで、二重線をひいています(中学学習の場合は一重線にしています)。

つまり、「ごんぎつね」学習時には「ひょう」という読みはまだ習っていないので、小4での学習にふさわしい「へい」を使った名前に変えようという動きがあったのかもしれません。

それが「ひょう」に戻ったのは、「兵十」は固有名詞なのだから読み方を変えるのはどうか、ということがあったからなんでしょうか。

この名称変更の理由は推測なので、実際はわからないです。ただ、記事とは違い、現在は「ひょうじゅう」となっていることだけは確かです。

ところで、次期指導要領実施時には、都道府県名の漢字・読みを全て小学校で学習するため、「ひょう」の読みも小学校で扱うことになると思います(参考:都道府県名の漢字を小学校で習うことについて考える(2))。

私はいまだに「潟」や「媛」を小学校で学習することになじめずにいるのですが、「ひょう」の読みは抵抗なく受け入れられそうです。むしろ、高校で習う読みだったの!? ぐらいの勢いです。

恐らくそれは、「兵十」で「ひょう」の読み方に慣れているからかもしれないですね。

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