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続・いつかヤングカンヌを獲る、まだ営業の君へ

お久しぶり、元気にしてましたか。
君にあてたnoteが、いつのまにやらいろんな人に読んでもらえて、たくさん嬉しいコメントを貰ったりしたよ。

仕事は順調だろうか。
いまはもうHDCAMより、オンライン送稿なんだってね。地方局までHDCAM抱えて新幹線に飛び乗ったりしなくて良くなったなんて、いい時代だなあ。

さて、こうしてまた君にnoteを渡すのは他でもなく、ようやくヤングカンヌの本戦が終わったからだ。結果はシルバー。うーん、勝ちきれなくてとても残念。

年齢制限的に、僕はもう二度とヤングカンヌに挑戦することは叶わない。だから君に託したい。メディア部門、日本初のゴールドをいつか君が獲る日のために、伝えられる限りのことを君に伝えさせてほしい。

もしもヤングカンヌってなんだったっけ、という感じだったら、またこのnoteの冒頭でも読んで思い出してね。

今回も冗長なnoteになりそうだけど、深夜帰宅のタクシーの暇つぶしにでも読んでくれたら嬉しいです。


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ということで、早速結論から。
僕が語れるのはオンライン開催という過去に類を見ない特殊条件を前提としてしまうけれど、ヤングカンヌ本戦で入賞するための必要条件はこのあたりだと考えている。
(いつかVR開催が当たり前になったら役立つはず!)

■事前準備
①時差に対応 & 制限時間を身体に覚えさせる

②モチベーションをあげる

過去の受賞作を他部門も含めて分析する

審査員を調べ尽くす

⑤集中できる環境を用意する

■本戦
①オリエン中に企画を考えはじめる

②地球の裏側に届く"一言"を考える

③企画被りを恐れない

④セクシーかどうか問う

こうしてみると事前準備の比重が高い。それもそのはず、事前準備の時間はたくさんあるが、本番は24時間しかないのだから。
ひとつひとつ、説明していきたいと思う。


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極東の日出ずる国の民として、まず不利なのが時差の問題だ。
ヤングカンヌはCentral European Summer Time、通称CEST時間ですべてが進行する。日本との時差はだいたい7時間なので、CESTで13時開始だと、日本では20時開始となる。これはかなりキツい。
1日過ごしてきて、まあまあ疲労もたまり、そろそろ寝ようと体が準備し始めるタイミングでオリエンが開始する。頭がフレッシュな時間帯に企画を考え始められる西経0°~100°付近の代表たち(=アジア・オセアニア以外)のほうが、当然有利だろう。

もちろん通常の現地開催であれば、何日か前から現地入りして時差慣れすれば対応しやすいだろうが、オンライン開催の場合はリアル昼夜逆転生活をしなければいけない。わりかし昼夜逆転しがちな広告業界とはいえ、完全な昼夜逆転はしていないので、時間感覚の調整が本当に大変だった。

ここに関しては本当に気合でどうにかするしかない。
強いて言えるアドバイスは、遮光カーテンのある部屋でめぐリズムをつけて頑張って寝るくらいだ。

一方で、全世界の代表共通のオリエンから提出までの24時間という制限は、対策のしようがある。

僕と相方は、本番前に3回、過去のヤングカンヌ本戦のお題に24時間で取り組むという、模擬戦を実施していた。
これは必ず実践してほしいことの一つで、国内予選が1週間近く時間をかけられるのに対し、本戦の24時間はすべての判断の遅れが致命傷になりかねない。

どのくらい環境・市場分析に時間をつかい、アイデア発想に取り組み、資料作りにどのくらいかかるか。これらを24時間で組み立てることを体に染み込ませるのは、必須だと思う。

ちなみに僕らの場合は時系列でいうと、

・情報収拾 兼 フラッシュアイデアづくり:2時間
・ディスカッション:1時間
・気分転換(散歩、食事):1時間
・再フラッシュアイデアづくり:2時間
・芽のありそうなアイデア選び:1時間
・アイデアの簡易資料化:2時間
(Problem, Strategy, Idea, Executionの4項目作成)
・気分転換(散歩、食事):1時間
・アイデアの欠点探し & 長所伸ばし:2時間
・睡眠:4時間
・アイデア決定:1時間
・資料作り:6時間

こんな感じのスケジュール感だった。合計23時間なのは、始めの1時間でオリエンがあったからだ(いや、オリエン抜きで24時間くれよ)

大切なポイントは、一番時間のかかる資料作りにどのくらい要するかを把握すること。僕らのチームはダブルコピーライターなので、とにかく資料作りに時間がかかってしまう。また僕が英語ができないため、英訳作業も発生する。これまで50回くらい相方とは国際コンペに挑戦してきたが、その修練の果てでもやはり6時間は必要だった。もちろんADやデザイナーのいるチームだったり、二人とも英語が達者なチームならこれより短くすることは可能だと思うが、資料を作っている最中に気づくことや、それを踏まえてアイデアの表現の仕方が変わることはよくある話なので、資料作りにかかる時間を前提に、スケジュールを組んだ方がいいと思う。

なかなか本番想定の練習というのは難しい、僕もぶっちゃけ練習のときはあまりやる気が出ずに、相方とスマブラに興じたり(ホントにめちゃくちゃやってた)お酒飲んだり(ホントにめちゃくちゃ飲んだ)していた。
そういったときに大切になるのが、モチベーションの管理だ。


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モチベーションのあげかたは人それぞれだと思うが、僕の場合はヤングカンヌ元日本代表の方に現地での体験を聞かせていただいた。
前回のnoteにも書いたが、僕は目的のためなら恥も外聞も捨て去るタイプの人間なので、図々しくも一度も話したことのない元代表の方がヤングカンヌについてツイートしているところに、突然リプライを送りつけた。

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急に話しかけてすみません、ではない。失礼すぎる。
驚くことに快く受けていただき、現地での体験談と実際に取り組んだ課題、さらには提出スライドとフィードバックまで共有いただいてしまった。
僕はこの経験が本戦での受賞に大きな影響を与えたと確信している。
オンラインでも現地開催でも、日本代表になってから本戦まではタイムラグがある。この間、高いモチベーションを保ちつづけるのは、なかなかに難しい。

そういったとき、現地での様子の追体験はとても役立つ。空港の写真、会場の写真、ホテルの写真、課題発表時の写真、食事の写真、どれもテンションが高まるのだが、ひときわ高揚したのが日本代表用のPCデスクの写真だ。

現地開催の場合は、各国に専用のデスクトップPCが割り当てられ、他国の体表たちとパーテーションで区切られた会議室でスライド制作を行うことになる。(らしい)
そのPCにはデカデカと日の丸が映し出されている。そう、僕らは国の代表なのだ。

僕の場合はオンライン開催だったので、無味な(そして若干おじさん臭い)我が家で、相方と二人で取り組んだ。しかし、国を代表して戦うイメージがあったおかげで、小さな机を日本代表の席に見立てて、矜持を保ちながら、モチベーション高く取り組むことができた。

一生でそうそうない、国を背負って戦うという経験は、正直イメージがつきづらい。身近に元代表がいるならその方に話を聞くもよし、そうでなければアタックしてみるもよし。少なくとも僕は今後の代表に話を聞きたいと言われたら、全力でなんでも話をしたいと思っている。

さぁ、モチベーションを高めたら、次に取り組むべきは傾向把握と対策だ。


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言うまでもないことだが、傾向と対策は本当に大切だ。
とくに本戦の場合、本当にこれヤングカンヌか?と疑いたくなるくらい、日本予選とは評価されるアイデアの傾向が違う(いや、もちろん本戦こそがヤングカンヌなのだが)

一言でいうなら、本戦は現業だ。国内予選は実現可能性よりもアイデアの鮮やかさが評価されがちだが、本戦は本当にワークするかどうかに評価基準が置かれている。というのも、ヤングカンヌはガチのクライアントワークとして、クライアントがオリエンをしてくるからだ。

評価自体にはクライアントは入らず、審査員だけで行われるものの、"フィジビリティ"を重めに見られるのは本戦ならではだと思う。具体例で語った方が早いのでいくつか過去のメディア部門の受賞作をもとに説明する。

2018年の課題は、児童労働の改善だった。
そしてGOLDはこのアイデア

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Linked inに本来働いてはいけないはずの子供たちのページを開設、子供たちを企業が雇い入れる形で、自社のロゴ入りの筆記用具などをプレゼントし、教育支援を行う。というアイデアだった。

……いったん別の年も見てみよう

2017年のお題は、Concious Chooser(エシカルな意識のある人たち)に対してFireFoxへの好意形成だった。
ゴールドはこのアイデア。

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社会問題について検索履歴のある人たちに「健康的な社会を目指すなら、検索も健康的に」というメッセージのWEBターゲティング広告を打つ。
(FireFoxはデータトラッキングをしないことで、健全なインターネットを目指すという理念がある)

……僕はこの2つを見たとき、愕然とした。自分の考える"メディア部門らしい企画"の定義とあまりにかけ離れていたからだ。

ちなみに事前対策で2018年の児童労働改善に取り組んだとき、なんと相方は始めのフラッシュアイデア時点でGOLDと同じ企画を出していた。が、僕が秒でボツにしていた。余談だが、過去のヤングロータス国内予選で、広告業界にプレミアムフライデーを浸透させるというお題のとき、ショートリストにプレミアムフライデーが始まると街中の広告が低クオリティなものに変わるという企画があった。なんとこのときも相方はフラッシュアイデアで同じものを出していた。が、僕が秒でボツにしていた。

僕は脳みそが国内予選に特化してチューンナップされているので、見栄えがよくて(≒なにかを作ってメディア化する)、起こす変化を一言で言える企画が大好きだ。具体的にはこのあたり。

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2007年のコペンハーゲンで行われたJeepのプロモーション。どこにでも止められるということを、歪な駐車スペースというメディアを作り出している。(なんとこの施策、カンヌにエントリーしていたがなにも受賞していない)
ついでにもう一つ

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2016年にオーストラリアで実施された住宅街での車のスピードを落とさせるために、ゴミ箱に飛び出してくる子供のステッカーを貼るという施策。Media LionsでGOLDを受賞している。

僕はこういう鮮やかなアイデアで世界一を獲りたかった。
が、しかし、本戦は上述の通り、ターゲティング広告がGOLDを獲る世界だ。自分の理想を貫くか、はたまた迎合するのか。

即、迎合することにした。

だいぶ本題から逸れたが、他の部門も含めヤングカンヌの受賞作の傾向はこうだ
・「一言でアイデアを言いあらわせるか」
・「そのアイデアは世界中でできるか」
・「一ヶ月後にはできるのか」

この3つがクリアなものが獲っている。

このことに気づけたのは前述の元代表の方から、審査員からのフィードバックを聞けていたことが大きかったと思う。
審査員は多国籍かつ英語のレベルも違うため、よりわかりやすく、より共感でき、より実施のイメージがつきやすいものが、選出されやすい。

こうした気づきが、後ほど説明する本戦におけるアイデア方針の「世界の裏側にも届く"一言"」につながった。

ただしこの世界の裏側とは、審査員たちにとっての世界の裏側だ。そこで僕らは審査員について調べあげることにした。


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本番の2~3週間前には、オトナカンヌの審査員と、その中から誰がヤングカンヌ審査員になるかの情報が開示される。全部門分が一気に公開されるので、自分の部門の審査員をまずピックアップしてみよう。

さっそく審査員の名前と会社名でググってみる。さすがにカンヌの審査員になる人ともなると、だいたいどこかの企業のCxO層なので即ヒットする。LinkedInやインスタグラムなんかは最高の個人情報の宝庫なので、しっかりネトストしよう。

人種、性別、家族構成、生まれ育った地域、職歴、過去のインタビュー記事での発言。このあたりを把握していけば、審査員にとってのグローバル感が図れるのと、企画でのモチーフ選びで大外しは起きづらくなると思う。

具体的な話でいうと、2021年メディア部門の審査員は全部で6名。
所属企業の国籍はバラバラなものの、ほぼコケイジョンで(有色人種は1人だけだった)、女性ばかり(男性は1人だけ)、全員家族持ち、アウトドア好きが多い(サーフィンとかスポーツ観戦をインスタにあげていた)という結果だった。

この時点で仮説として
①子供から発信する系の企画は共感を得やすそう
②スポーツをつかった企画は理解が早そう
 (逆にゲームの世界で語るとかは難しいかも?)
③グローバルかどうかの判断はカルチャーレイヤーではなく、
 インフラレイヤーまでにしたほうが理解されやすそう
といったことを考えていた。

結果としてこの③がかなり功を奏した。審査員も人の子なので、その判断は引き出しの中でしかできないはずだ。ならその引き出しがどんなものなのか、逆に見定めておいたほうがいい。
なんてカッコつけておきながら、最後は「審査員のみなさまお願いします〜!!GOLDください!!」しか思っていなかったが、プレゼンではじめましてのタイミングで相手の情報を握れていると、すこし落ち着けるので、審査員の情報はしっかり頭にいれておくのがオススメだ。(審査員は高圧的な雰囲気を醸してくるので、娘にデレデレしてる写真とか先に見ておくとむしろ和む)

いよいよ本番間近となってきたら、環境の用意に取り掛かろう。


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前回のnoteにも登場した、ヤングカンヌの生き字引、谷脇さん・関谷さんペアに話を聞く機会があったとき(素敵な時間だった!)こんなアドバイスをいただいた。
「カンヌ会場近くはうるさいから、集中できる宿をAirbnbとかでとったほうがいい。デカい机もあったほうがいい」
前半部分は悲しいことに懸念がなかったが、デカい机は盲点だった。
ので、即amazonで机を購入した。

本番直前まで、ホテルを取るか、自宅でやるかは非常に迷っていた。
最終的に、これまでの練習環境に近いことや国内予選のときのゲン担ぎで我が家でやることになった。ここに関してはペアによって、ベストパフォーマンスを発揮しやすい場所でいいと思う。
本番開始直後、相方から「他部門の日本代表の子、会社のお金でホテルスイートだってさ」と遠い目で言われたとき、高めたはずのモチベーションが即凍結されかかったが、結果としては慣れた環境でやってよかったと思っている。
僕は料理がいちばんの気分転換になるのと、相方は空腹が苦手なので、2日分の食材を事前に買い込み、いつでもご飯が作れるようにしていた。
企画あるあるだが、真面目にアイデアを考えているときほど、いいアイデアは出ないし、イライラもしてくる。それなら作業の合間に美味しいごはんでも食べて、笑いながら企画の話をできたほうがよっぽど建設的なはずだ。

食・住環境を整え、いよいよ本番3時間前というタイミングで、僕らは近所のマッサージに行き、身体も心もほぐしてもらった。そうしてあらゆる事前準備を終えて迎えたオリエン直前は、緊張はなく、ただただ楽しみな気持ちでいっぱいだった。

きっとなんの準備をしたかよりも、やれることはすべてやったという心構えで臨めたのがよかったのだと思う。いよいよ24時間勝負。本番での対策の話に移ろう。


本戦①

オリエンは各国代表が一堂に会して行われる。これは今後も現地開催、オンライン開催どちらでも変わらないだろう。そのときの様子がこちら。

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一番左上にいるのがカンヌライオンズ事務局の進行役ローラさん。登場するたび「みんなとこうして会えるなんて、アメイジングな体験!」「輝かしい舞台に携われて光栄!」など、仰々しい言い方(いや英語としては普通なのか?)をする人で面白かった。
ちなみにその二つ右隣も事務局のエロイズさん。僕らのプレゼンのときの進行役でもあり、左腕にクソデカタトゥーが入っているクールビューティーだった。

続々と集まる各国の代表者たち、英語母国者たちが闊達に挨拶をしているなか、ふんふんと相槌を打ってみせるが、いかんせん英語のできない僕には1mmも話がわからない。相方に何言ってるの?と聞く様子がビデオで流れるのも癪なので、雰囲気にあわせていた。

予定時刻を5分ほど過ぎてから、今回のクライアントであるOne Young Worldのスタッフから、オリエンが開始された。
One Young Worldとは、世界中の社会貢献活動を行う若者をつなぐ組織だ。詳しくはこちら。

この団体が発行する、Annual Impact Reportという活動報告書が、せっかくつくってホームページに置いているのに14,000人にしか読まれていない。もっと世界の若者に読んで欲しいからどうにかしてよ、というお題だった。

ここで大切なのが、やるべきことが見えてきたら、その場でブレストを始めてしまったほうがいい。というのも、Q&Aを即レスしてくれるのはこのタイミングだけで、これより後は参加者専用Slackでいちいち質問し、その回答を待たなければいけないからだ。

バキバキ余談だが、この参加者専用Slackでは全部門の全世界の参加者が自己紹介をするスレッドがある。

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僕は侍の自負を示すために侍のGifを投稿したが、日本代表勢からすらノータッチだった。

さて、このオリエン時のQ&Aはかなり積極性に差が出る。一言も発さない国もあれば、ロシアの青年は1人で5回も質問をしていた。だがその姿勢が正しいと思う。自分のなかにある仮説を突き進めるために、不安要素をここで排除したほうが絶対にいい。

僕はその場で「レポートなんて宿題みたいで読みたくないからNetflixで映像化すればいいんじゃ?」「意識高い子はエシカルなモノ選びがちだから、パタゴニアの服のタグとかオーガニック食品の原材料のとこにレポートくっつけたら読むかな?」といったフラッシュアイデアを考えていた。

アイデアを考えると疑問が浮かんできた
①ホームページにくる人を増やしたいのか、それとも閲読数を増やしたいのか。
②そもそも今回はレポートを読ませたいのか、それとも若者たちの活動を知って欲しいのか。
②寄付はどの程度重視するのか(団体は寄付も募っていた)
このあたりをクリアにしたく、早速相方に質問を頼んだ。
結果として、
①ホームページにこなくていいからレポートの閲読数を増やしたい
②活動を知らせるよりレポートを読んで欲しい
③寄付はそこまで重視しない
ということだった。
しっかり聞きたいことを聞けたと思ったのだが、この回答に縛られ過ぎたことと、逆に忘れていたことがあり、それが結果としてGOLDに一歩及ばなかった原因になったのかなと思っている。
それはまた後述するとして、オリエンをふんふん聞いて、はい考え始めようではもったいない。よいQ&Aを行うためにもその場でアイデアは出せるだけ出してしまい、アイデアを補強するための質問につなげるのが吉だと思う。

オリエンが終わり、提出まで残り23時間。さっさくアイデアを考え始めることにした。


本戦②

これは事前準備の「過去の受賞作を他部門も含めて分析する」「審査員を調べ尽くす」の2つを踏まえて、そう考えました。というだけの話なので、あまり語ることはないのだが、アイデアを考えるとき、僕はこのアスキーアートを頭のなかに召喚していた。

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元のAAの趣旨とはズレるが、自分の考えたアイデアが日本や先進国の一部でしか通じないものになっていないかどうかのチェックとして、このライオンに意見を聞いていた。

僕「ImpactReportに出てくるすごい若者たちがApexのレジェンドとして登場するとかどうかな!」
ライオン「お前それサバンナでも同じ事言えんの?」
僕「……言えません」

こんな要領で、よりグローバルでよりシンプルなアイデアを引き出すためにひたすらライオンと脳内で会話した。

僕らは最終的に今回の課題に対し「レポートをAmazon kindleで無料の電子書籍として出してレビューランキング1位かっさらおうぜ!」というアイデアで挑んだ。
相方とこのアイデアに決めるかどうか話し合っているとき、僕の脳内のライオンは頷いていた。Amazonというサバンナのライオンすら知ってるワールドワイドなインフラのランキングを乗っ取るという話は、きっと地球の裏側の人にも通じそうだな、という直感があったからだ。

こうして企画も決まっていざスライドを作り始めよう!と思うといくつか不安が浮かんでくる。これ本当にワークするのかな、ターゲットの接点として適切なんだろうか。ひとつひとつ丁寧に考えていきブラッシュアップしていくなかで大きく2つの懸念事項がうまれた。
ひとつはシンプル過ぎて企画が他国の代表と被っている可能性
もうひとつは企画書上の画が地味すぎるという問題だった。


本戦③

前回のnote(国内予選対策)では企画被りを避けたほうがいいと言っていたが、本戦においてはまったく気にしなくていい。そもそも100や200も参加チームのいる国内予選と違って、本戦はせいぜい40カ国くらいしかいないので被るリスクが低く、たとえ被ったとしても施策やスライドデザインを詰めるほうに時間を割いた方が勝率が上がるからだ。

他に考えていたアイデアで
・レポートに登場する若者はいつか国を背負うので、国の通貨の偉人が若者にかわってしまうキャンペーン
・レポートに広告枠をつけて読むだけで社会貢献(寄付)ができるレポートにする
・Tinderにレポートに登場する若者を登場させて、より若者の詳細なプロフィールを知れる場所としてレポートを勧める
・レポートに載っている若者と同じ名前のアカウントに「あなたレポートに載ってるよ」というツイートを送りつける
などがあったが、ひとつも被らなかった。(なんと通貨の企画はPR部門のBRONZE受賞作が同じアイデアだった!が、別部門なのでノーカウント)

施策内容を詰めるのは当然として、スライドを詰めた方がいい理由は他国がわりとスライドづくりが適当なので、少し力を入れると抜け出しやすいからだ。実際の他国代表のスライドがこちら。

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これはナイジェリア代表が実際にプレゼンしているときの様子。実は審査員は事前に企画書を読んでおらず、プレゼン時が企画の初見となる。審査員たちがナイジェリアの企画書を見辛そうにしている様子がカメラ映像から伝わってきていた。

なのでアイデアを考えるときは前項の「地球の裏側に届く"一言"になっているかどうか」を中心に考え、企画被りは恐れず、早めにスライドづくりに着手したほうがいい。

……というのは結果論で、実際は意図してそういった進行をしたわけではなかった。むしろ僕は最後の最後までアイデアにいくつかの不安を抱えながらスライドをつくっていた。
いまでもあともう15分だけでも別の企画を考えていたなら、GOLDを獲れるアイデアが出ていたんじゃないかと思うときがある。一方で入賞を狙うなら、良いと思ったアイデアと心中する覚悟でしっかり詰めたほうが、勝率が上がるのも自身の結果から感じている。

じゃあGOLDを獲れるアイデアとはなんだったのか。結果発表後に審査員からその答えを教えてもらった。


本戦④

突然審査員に某環境大臣が現れたわけではない。今回はオンライン実施だったこともあり、10分間のdebliefの会が催された。「セクシーかどうか」は審査員の口から直接僕たちが聞いたGOLDを授賞できなかった理由だ。

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これがdebliefの様子。審査員は計6名だったが、うち1人が1チームへのフィードバックを担当するシステムのようだった。僕らを担当してくれていたベンジャミン(中国のメディアエージェンシーのCEO)は、プレゼン中は怖そうな人だったがとてもにこやかに話してくれた(事前のネトストでいい人そうなのは知っていたが)
フィードバックの内容はこんな感じだった。

ベンジャミン:元気〜?
相方&僕:元気です〜
ベンジャミン:ええやんけ。まず初めに言いたいんやけど、君らとオーストラリア(優勝チーム)はホンマに微差やったで
相方&僕:マジすか〜
ベンジャミン:僅差すぎてGOLD決めんのガチ揉めたわ〜
(突然のベンジャミン家呼び鈴)
ベンジャミン:ごめん!ちょい抜けるで!……夕飯届いたわ!そんで審査の話に戻すんやけど、ワイは君らの企画マジで好きやったで。うちの奧さんにも企画書見せたらこれめっちゃええやん言うとったしな。実際審査のときもオーストラリアと君らにだけフルスコア(10点)付けてん。Amazon kindleにレポート出す、めちゃグローバルやん。レビューいっぱいつけてランキング1位とる?ブリリアントエレガントやんけ
相方:ありがとうございます
僕:ありがとうございます(なに言ってんのかわからんけど真似しとこ) 
ベンジャミン:てかむしろなんで今までやってないねん!とまで思った!実現可能性含めてグッドアイデアやったな〜。24時間でようやったで!
相方:そんな褒めてもらえて嬉しいっす〜。ちな質問いいですか?いちばんGOLDとSILVERを分けた要因ってなんすか?
ベンジャミン:あ〜…そうな〜…ん〜……たぶんやけど企画書がよりセクシーやったな〜。(オーストラリアは)グラフィカルでデザインに優れとった
相方&僕:あ〜…
ベンジャミン:使ってる技術とか実現性は大差なかったんやけどな〜、あっちはスマートスピーカー、こっちは電子書籍で……てか君らもオーディブル入れりゃ良かったのに、バラクオバマが読みますとかあったらそれで聴くやん。そしたらGOLDやったのになあ
僕:(うわ〜、オーディブルもamazon UIの画像加工する前は残ってたのに、わざわざ寄付に変えなきゃ良かった〜。てか2019年のヤングカンヌでもスマートスピーカーの企画でGOLD出てるのにまた選ぶか普通?まあでも審査員違うわけだし過去のなんて見てないよな…うわ〜……)
ベンジャミン:二人ともまたチャレンジできるん?歳いくつ?
相方:僕らラストチャレンジの30歳なんすよ〜
ベンジャミン:そら残念やな〜、でも誇ってええで!ワイは四十路やけどカンヌ獲ったことないしな(爆笑)
僕:(マジかよ)
相方:もちろん嬉しいですけど、もう少しやれたかな〜みたいな後悔はありますねぇ、てか最後にもう一個だけ質問いいすか?審査員同士で話し合った時の一番大きなトピックってなんだったんすか?
ベンジャミン:やっぱり世界中でワークするかどうか、ここについての議論が多かったな〜
相方:なるほど〜、いろいろ話聞かせてくれてありがとうございました!
僕:(ひたすら相槌)
ベンジャミン:話せて楽しかったで!ワイはアイデアとしてはJAPAN最推し勢だったんやで!……信じて!?ほなまた!おおきに!
相方&僕:ありがとうございました!

だいぶ意訳だけどこんな感じだったはずだ。悔しさは残るものの、こうして生まれも育ちも人種も違う人に、これだけ褒めてもらえたのは初めての経験だったので、正直めちゃくちゃ嬉しかった。
このやり取りのまえに見せておくべきだったが、僕らの企画書はこれ。

そして優勝国のオーストラリアの企画書(1枚サマリー)はこれだった。
(提出の際、10枚以内のスライドに加え、1枚サマリーの提出も必要だった)

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見てわかる通りオーストラリアのほうがスライドの作りがセクシーだ。ざっくりアイデアを説明すると「Wake Me Up To A Better World」とスマートスピーカーに語りかけると、朝のアラーム代わりに1分間のソーシャルグッドな話を聞けてインスピレーションやモチベーションを得られる。という企画だった。
僕は多弁な敗将なので、好き放題言わせてもらうが、そんなことするいい子ちゃん世の中にいるのか?と思った。しかもレポート一回も出てこないやんけ。
とはいえそこに対する疑念度合いは審査員によって違ったのだろうし、逆に万人が見てわかるビジュアルとしての魅力度、すなわちセクシーさが勝敗を分けたというのは納得のいく話だった。
散々ヤングカンヌの国内予選と本戦は審査基準が違うと話してきたが、結局最後の最後は企画書のビジュアル勝負だった。すなわち企画を考え、選ぶ段階から、ビジュアル映えするかどうかを考え抜いておくべきだったのだ。あー悔しい。もしも僕がもっとデザインの勉強をしていれば、あと少しでもIllustlator, Photoshopのスキルを上げておけば……後悔しても、すべては後の祭り(ほんとに広告祭じゃん…)なのだけれど。
「この企画はセクシーになりうるのか」これから先、僕はこの言葉を自問しつづけていくのだと思う。


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こうして僕の苦節7年に及ぶヤングカンヌへの挑戦は、ビジュアル負けして惜しくもシルバー、という形で幕を閉じた。ただ、元営業のふたりがコンビを組み、部署異動を経てダブルコピーライター体制で挑んだ結果としては最良の結果だったのかもしれない。いやそんなことないな、やっぱりもう少し企画考えてれば……まあいいや。世界2位なのだ、たとえ30歳以下限定で2022年までの1年間限定の称号という、運転免許でいうAT限定眼鏡等並みの条件付きではあるが、僕らは世界で2番目のコンビとなった。さらに誇張するなら、ヤングカンヌ本戦において、メディア部門は日本勢最後の未受賞部門だったので、部門初受賞という快挙でもあった。日本代表として故郷にメダルを持ち帰れたことがとても誇らしい。

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未だに保護シールを剥がせていないところに、自分の性格を感じる。(相方はシールを剥がしてデスクのライトに無造作にかけてあった)
ちなみにメダルは受賞から2ヶ月後くらいに届いた。「DHLでメダル届けるよ!」という連絡がカンヌ事務局から来てからは、追跡番号を毎日入力して、毎日ニヤニヤしていた。(メダルが世界の空港をトランジットしているのを見たときに、本当に世界と戦っていたことをいまさら実感した)
こんなもの後生大事にする必要もないくらい、これからはオトナカンヌでドロフィーをたくさん貰えるように頑張らねば。

ヤングカンヌで世界のクリエイターたちとバトるときに大切そうな9つの話はこれで全部です。君が国内予選を勝ち抜き、本戦までの間で対策をどうしようかと迷ったときの一助になれたなら、こんなに嬉しいことはない。ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。

最後に受賞のイメージをつけてモチベーションを上げてもらうための、メダリスト発表までの流れを紹介して、この長いnoteを終わりにします。

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課題提出から約1週間後、全部門参加者がzoomで一堂に会し、部門別のWinners Announcementが行われる。総勢450人強が固唾を飲んで結果を見守るのはオンラインとはいえ、とても緊張感があった。

各部門とも発表の流れは一緒で、

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まずショートリストが発表され(スロベニア代表がわちゃわちゃしているのは、メディア部門の前に発表されたデジタル部門でゴールドを獲っていたからだ。世界中に喜びの舞が配信されていた)

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次にメダリスト(BRONZE→SILVER→GOLD)の発表となる。僕は確実にショートリストには残っている自信があったので、ショートリスト発表までは平静を保てたのだが、BRONZE発表以降は呼ばれないように全力で祈っていた。結果SILVERで「JAPAN」とアナウンスされたとき、あまりの悔しさに世界中の前で天を仰いでしまった。(上の画像はまさにその瞬間だ)

悔しすぎてそのあと会社の多目的トイレに駆け込み、涙をぼたぼたと垂らして泣いた。床を汚す涙の跡を見て、ふと、右も左もわからない新人営業だったころも、仕事で悔しいことがあるたびにここで泣いていたなぁ、と懐かしい気持ちになった。さめざめとトイレで泣くスーツを着た昔の自分を思い出し、なんだか笑えてきて情緒を取り戻した。いい年して目を真っ赤にして戻ってきた僕に、とくに触れないでいてくれた相方の優しさがまた目にしみた。

その夜は、ひさびさに外で相方とお酒を飲んだ。会社の下の芝生に座りこみ、ビール片手に7年間ずっとありがとうという気持ちを伝えた。めちゃくちゃ虫に刺されたので、もう二度とやらないと思う。

この7年で僕はすっかりおじさんになった。SNSにあがる友人たちの充実した生活を傍目に、生活の大半を事例収集や企画作業に充てた。土日も正月も関係なかった。友達は減ったし、恋人とも別れた。同級生から結婚や出産の連絡をもらうたび、いつまでこんなことにうつつを抜かしていられるのだろうと憂慮した。これだけの時間をかけてきて、なんの成果も出なかったら僕の20代はなんだったんだろうと。

不安になるたびバカらしくて考えるのをやめた。別に結果なんて出なくてもいいのだ。広告の仕事をつづけるなら、確実にこの挑戦は仕事の糧になる。たとえ僕があのまま営業にいても、まだストプラだったとしてもだ。世の中の様々な課題に取り組み、自分の知らなかった問題や実情を知り、解決の方法を本気で考えてみる。これは広告の仕事に関わるすべての人にとって、有用な思考プロセスのはずだ。

加えて言うなれば、たかだかコンペで賞を獲るより、クライアントや社会のためになる結果を残して、それが評価されて取れる賞のほうがよっぽど価値が高い。そもそも30歳までに獲れなかったなら、仕事で獲ればいいだけの話なんだから。

そういう建前のもと、僕から君にお願いしたい。日本勢初のメディア部門GOLDを、僕らの代わりに獲ってきてください。アイデアコンペには攻略法が必ずあります。正しい対策を、時間をかけてやればきっと世界一を獲れるはずです。それに挑み、もがき続けた時間は、人生の走馬灯に入り込むくらい素敵な体験だったと、僕は確信を持っています。

いつかヤングカンヌで世界一を獲る君へ。このnoteを渡します。




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