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難と呼ばれた彼女の話


以前看護師として、病院で働いていたことがある。

それよりももっと前のこと。
私が看護実習生だった頃の話。

難聴の患者さんがいて、

その人はスタッフからも同じ部屋の患者さんからも、
ちょっと「難ありの人だからあんまり近づかない方がいい」と言われていた。

あ〜そんな難しい人、
なんで私の担当なんだろ。。。

2週間、患者さんとのやりとりをレポートにしなければいけないし、
どうやって関わっていこうか。

なんて考えて憂鬱だった。


予想通り、
大きめの声でゆっくり話しかけても、
何も反応がない。

「どっかいけ」

そんな感じのことをたくさん言われた。

けどね、
なんかその人、すごく淋しそうに感じた。

距離をとりつつ、
同じ空間にいて、
何かできることを探しながら過ごした。

そうしてるうちに、
あったかい洗面器にお湯を入れて
マッサージしながら手を洗ったり、
足を洗わせてもらえるようになった。


体があったまると、
ポツリポツリ自身のことも話してくれるようになった。

そんな日々を繰り返して、
少しづつ私との距離が縮まっているのが嬉しくてたまらなかった。


同じ部屋の患者さんたちが
楽しそうに話しているのを見て、
そっと教えてくれた。


「耳が遠くなってきて、
聞き返すと「え?」とか「また?」って顔をされるから、聞き返すことをやめたら、聞こえないままその場にいることが嫌になった。
聞こえないふりをすることも多くなった。

もう何もかも面倒くさくなって、何も聞こえないふりして、人と関わらないようにしてきた。

ひどいこといっぱい言ってごめんね。

一対一だと聞こえる。
聞こえなくても、口の形とか見てたら
聞きたい人の声は聞こえる気がするんだよ。」



一緒に泣いた。
彼女と私のこころが溶け合ったみたいに
柔らかくて、温かい気持ちになった。


その後私は実習が終わり、その病院に行かなくなった。彼女とももちろん会っていない。
学校の先生を通じて、その彼女が周りの人とも笑顔で会話するようになったらしいと教えてもらった。


こーゆーのがあるから、
人がすきだ。

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