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トキノツムギA面

24  帰宅②

  一通り自己紹介が終わるとリッジはお茶の用意のためにキッチンへ立ち、家事に興味があるデューが手伝いに行く。テーブルにバートと2人で残されたので何となく並んで座りながらカイはこっそり聞いてみた。
「あんだけここ通ってたんだから、なんか進展あった?」
「リッジ具合悪かったから、どうもこうもないよね。見ての通りタメ口になったから、仲良くなったと言えなくはない」
仲良くなっている感じは確かにあるが。
「そのまま親友になる流れだったら、逆に告白とかできなくてヤバくないか?」
バートは軽いため息をついた。
「…なんかだんだん、それでも良い気がして来るよね。割と今充実感あるわ」
 おお、珍しい。
カイは思い、思わず心の声が漏れてしまった。
「手が早いイメージあったけど、やけにプラトニックじゃん」
「いや、声でかい!」
そっちこそヒソヒソ声にしてはデカいボリュームだろと言いたいレベルでバートが止めるので、少し面白くなってきた。
「さっきのは喧嘩?」
「…なんとなく元気なく見えたんで構ってみた結果だよね」
キッチンのリッジをぼんやり見つめながらバートが言っている。
「へえ。お前が。そんなことするんだ」
バートの基本姿勢は当たり障りなくスマートな交流関係だ。それを生かして好感度70くらいの感じで付き合いつつ関係を深める機会を伺えば無難なのに、それをわざわざ。
「いいんじゃないかな」
ニヤニヤしながら呟いたカイを不審げに見ていたバートだったが、思い出したように言った。
「デューここに連れて来て良かったの?一緒に作業するの楽しそうだったけど」
落ち着いた性格で感情の振り幅がそう大きくはないカイだが、見たことのないような笑顔を何度もデューに見せていた。カイはデューと離れるのが辛いんじゃないかと思ったりはしていたのだ。
「…うん。そうだな。息子といたら今こんな感じだったのかなと思ったりはしたね」
さらっと言われた言葉をちょっと考えて、バートは恐る恐る聞いてみた。
「ちょっと待って。カイ子どもいる?」
とても意外そうにカイは言った。
「いるよ。メイさんに聞いてない?…そうか。まあ確かに、他人からは言いにくいか」
そこでまで言った時、あれ?と言ったような表情で、カイはバートを見た。
「お前、俺の経歴とかどんだけ聞いてんの?」
なーんにも聞いていません。という表情をしていたのがわかったのだろう。カイは呆れたように言った。
「何それ。よくそれで俺雇ったね。こんな容貌の男、怪しさしかないでしょ」
自分の容姿の評価にかなり自覚的なのは偉いが、メイさんの紹介というだけで、バートには特に疑う余地はなかったのだ。
「こんな感じで改めて自己紹介することになるとは思わなかったわ。俺、国境村の出身なのよ。そこで砦守ってたんだけど、この国で知り合った女と暮らすことにして傭兵に転職してね。何ヶ月か遠征してはここに帰って来る生活してたんだけど、ある日帰ったら嫁が子ども連れて消えてた。そんな感じ」
いやそんな、世間話風に重い話されても。
「衝撃的すぎて返答しようもないわ。何か聞いてごめん」
素直な感想を述べると、カイは笑いながら言った。
「まあ、昔の話だし全然。そんで嫁と知り合いだったメイさんがお前んとこ紹介してくれて今に至ると」

 あの時、親友のメイですらアザレアの行方は知らなかった。
「俺が生まれたとこでは旦那が数ヶ月とか数年とか帰って来ないこと普通だったから、わかんなかったんだよな。誰もいないとこで1人で家守るって孤独だったんだろうな。今は多分、毎日家族一緒にいられるような家庭作って幸せにしてるんじゃないかな。…あいつにとって良かったと思うよ」
どこかで見かけても絶対に声をかけまいと思っている。自分は、誰かを幸せにしたり守ったりすることは、多分できない人間なのだとカイは思う。

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