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トキノツムギB面

14  モリビト②

 外へ出ると、ランプがついていたテントの中に比べ果てしなく真っ暗で、夜空だけが薄白く見えるほどの星の量だ。じんわりと聞こえる虫や鳥の声を聞きながら空を見上げていると、それだけで少し落ち着いた。
〝私は管理者様と共に、何人ものモリビトの出現を見て来ました。街に住んでいた方が山に来て急になることもあれば、別の国から旅に来た方がなったこともある。この山でひっそりと暮らした方も、街で暮らした方もいる。名乗った方もいれば、名乗らなかった方もいます。モリビトとは管理者様が選ぶ、管理者様と繋がる者。だから本当は、宗派のトップになったり、不思議な力を使ったりしなくても良いのです。歴代のモリビトの方々でも、本当に何か力を持っていたのかどうか最後までわからなかった方もいます〟
でも、と、子どもは言葉を切った。
〝モリビトの存在は、人々の希望になる〟
話を聞いている内に、目が暗闇に慣れて来た。
管理者と呼ばれるもの。
マルクにも、あれが悪いものではないのは十分にわかったのだ。
「行くか」
呟いた瞬間、土の香りを含んだ風が暗闇を切った。

 目を開けると、目の前に管理者があった。
中の糸には不規則に柔らかい銀の光が走り、対して包む球体は規則的にほんのりと光る。よく見ると七色くらいかなというくらいの淡い色調で、時には上部から水が落ちるように、時には下部から水がせり上がるように全体を光らせ、それは波が寄せたり返したりするようにも見えた。
 敷き詰めてある白い石や周りの土地、木々は、光が当たると脈打っているかに明るくなったり暗くなったりし、自分がその中にいると、1つの生物の中に共に生きているように感じられる。昼間見た時は不自然で無機質に思えたが、なるほど、確かにこれは生物なのだ。
 マルクは中央にある築山に近づき、それを背に白い土地に座ってみた。光のせいなのか、頭上や背中が程よく暖かくて、体の強張りが溶けていくようだ。
 不意に、胸に熱い固まりが生まれた。それは冷たく込み上げて来て、喉の空気を口へ逃す。それが、自分の嗚咽の声だと、涙が流れてからマルクは知った。
とめどなく流れるのが何の涙か、マルクにも良くわからない。
 けれど、管理者に選ばれた者として、この生命の1部として。誰かの役に立てるのなら、そうしなければならないような気がした。


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