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トキノツムギA面

15 カイとデュー①

一応屋敷の周りをグルッと確認したカイが少年の部屋に戻ると、甘い香りが部屋に漂っていた。
 香水…ぽくはないか。
大体、男2人の家にこんな甘い香りの香水はなかったはずだ。
不思議に思いながらベッドに向かうと、少年の目がぼんやりと開いている。
「あれ、起きた?ホント良く寝たね」
声をかけると、ガバッと起きた。
途端、フルーツのような甘い香りがむせるほどに漂う。
目が眩むような気がして、それを振り払うように尋ねた。
「何その香り。香水?」
「香り?」
しかし少年が不思議そうに答えた時には、もう香りは消えていた。
「確かに」
カイも不思議に思いながら呟き、ついでに起き上がった少年に聞いた。
「腹減ってない?とりあえず何か食う?」
聞かれた少年はその言葉で空腹であったことに気づいたようで、どことなく気合いが入った感じで頷いた。

 昼に食べようと思っていた、 バートに持たせた1口サンドイッチの残りやらゼリーやら果物やらがちょうどある。適当に盛り付け持って行き、部屋にある小さな丸テーブルに置く。ちょうど頃合になった紅茶をカップに注いでいるのを、少年は感動の面差しで見ている。
「盛り付けとか紅茶の入れ方とか凄いですね」
言いながらも一生懸命食べているが、その食べ方は上品でパンくずをこぼしもしない。
「食べ方上品だな」
言った時、手を止めてカイの顔を見る。
続く言葉がありそうだと待っていたが、そのまま少年は食事に戻った。
 今何か言いたそげだったけど?
思ったものの、特に追求するのはやめた。
 考えてみれば、カイは少年のことを全く知らない。バートが帰って来たところで、 バートもろくに知らないだろう。そんな状況なのに何を話せば良いのだろうか。
 この少年をどうするのかは、元々少年を保護していた人物に委ねるしかない。
「お前、名前は?」
とりあえず、不便なのでそれだけは聞く。
「…デュー・リクルと呼ばれてました」
 アルコールの雫?
自分の名前なのに本人すら曖昧な感じだしその名前が本名とも思えなかったが、デュー自体は、ごくおとなしく好感の持てる少年だ。
「じゃ、デューでいい?」
デューは背景に王宮の一室が見えそうな仕草で紅茶を飲みながら頷く。
「お前を連れて来たのはウチの主人で、その主人はまた別の人からお前を預かって来てんだよ。なんで、俺は何もわからないんだけど、まあここは安全なところではあるから主人帰って来るまで待ってて。家の敷地内だったら何しててもいいから」
 掃除や庭の手入れ、夕ご飯の準備や洗濯アイロンがけなど、バートが帰って来るまでにやっておかなければならない仕事がある。

 

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