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トキノツムギA面

31   高校とバイト①

 昼休憩に迎えに行くと、デューが学校の正面玄関から明るい表情で出てきた。
「結構良い感触だった?」
言うと、堰を切ったように話しだす。
「ここ私立なんだね。勉強できるヤツもいればスポーツで全国狙ってるヤツとかもいるし、附属大学が芸術系って珍しくない?いろんなクラスがあって面白かったよ」
 デューの言う通り、この高校の特徴は、附属大学が芸術系であることだ。そのため高校としては珍しいミュージカル科などもある。クラスは将来目指すもので分けられており、スポーツや芸術だけでなく家政や商業、普通科ももちろんある。
「1年なら、音楽以外ならどのクラスでも入れそうだけど、どこ行く?」
芸術系はないな、とデューは笑った。
「商業か家政」
「何で?普通科はないの?」
リッジの返答にデューは不思議そうに答える。
「資格は重くないって言ったのリッジじゃん」
高卒資格のことで手に職系ではなかったのだが。
「そりゃそうだけど家政って。資格なら美術でもデザイン系とかあるじゃん」
まあね、とデューは歩きながら入学用資料を繰っている。
 聞こえてないだろうなと思いつつ、危ないよ、と声だけはかけ、ぼんやりと歩いているとパープルとの会話が蘇って来た。
 メッセンジャーなるものは、パープルにとってはピンクと繋がるものとして、集落の女性たちにとっては革命の象徴として大事な存在で、「らしきもの」がいることを確認するだけでも違うのだろう。しかし、いかに似てるからといってデューとメッセンジャーがイコールというのは無理すぎる。
 とりあえずデューがここの生活に慣れる時間が欲しかったので、関わるのはしばらく待って欲しいという約束をして別れたのがさっきだ。正直、問題を先送りしただけで何も解決していない。
 横ではパタリとパンフレットを閉じながら、「決めた」と言っているデューがいる。
「商業科にする」
「いいんじゃない」
ほぼ女子しかいないだろう家政科よりだいぶ良さそうだ。
「勉強になりそうだからバートんとこのバイトもしようかな」
話しながら歩いていたら、ちょうどバートの店の前だった。
店内にバートもいる。ベストタイミングだ。
「じゃ、ついでに顔出して行こうか」
「え、今!?」
以前聞いたようなやりとりをしながら、2人は店内に入った。

 「うわ、急にどうしたの」
 案の定バートも驚いているが、入ろうと言った当の本人はほぼ仕上がった店内を見回すのに忙しいらしく、何の返答もしない。
 仕方なくデューが答えた。
「そこの高校の商業科に入ることにしたんだよ。で、勉強のためにここのバイトもしてみようかなと」
 ついにリッジは店内を歩き出し、もうこの会話に帰って来そうになかった。
「え、本当?助かるよ。まだ店員の募集もかけてないんだけど、それなら思ったより早く開店できそうだな」
 週に何日とか何時からとかいう話になり、学校のスケジュールを確認するために近くのテーブルに座る。こここそ保護者同席のとこだろと心中デューは思ったが、諦めてバートと2人で決めることにした。

 

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