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トキノツムギA面

23  帰宅①

 カイとそれに連れられたデューはリッジの部屋前にいた。
一階エントランスの呼び鈴には誰も出なかったが、バートが来ているのは知っていたので、聞いた号室前まで来たのだったが、玄関ドアには隙間があり、明らかに開いている。
 つか、鍵!
カイはそこが気になっていたので気づかなかったが、
「なんか喧嘩…してる?」
とデューが言われ、聞き耳を立ててみた。

 「大の大人がまさか枕直撃させて来ると思わなかったわ。マジ地味に痛い」
知らない声だ。多分リッジという男だと思う。
「いや見えるでしょ、この距離でこの大きさのもの。取ると思って投げるよね。さっきのドライバーの技なんだったわけ?」
返答する声は確かにバートだ。
「いや近すぎて逆に見えないわ。つか、手渡し距離でしょどう見ても。こんなんぶつけられて下手するとムチウチだから」
「え、これでムチウチとか首弱すぎでしょ」
「何首弱いって。まず謝れよ」
実にくだらない争いをしている。
 デュー連れてくるって言ってんのに何やってんだよ。
少し開いたドアを強めにノックしてみたが全く反応がないので、思い切り息を吸い込んでカイは怒鳴った。
「ちゃんと迎えろ!」
はたと声が止まり、枕を持ったリッジと掛け布団を持ったバートがこちらを向く。合わせたような動作でお互い手のものを机やベッドに置き、何事もなかったようにリッジが言った。
「いらっしゃい。そのマットのとこで靴脱いで、置いてあるスリッパ履いてもらえれば」

 カイは自分のスリッパを出すついでにデューにも出し、表情を伺ってみた。
呆れていたらどうしようかと思ったが、意外にも表情はさっきより明るい。
人懐こくて素直な性格とは言え、家の前に来るまでは少し緊張感も見えたが、それはすっかり消えている。
 デューとリッジは意外と相性いいかもな。
最年長の目で2人を見てみて、内心カイは思った。
そして改めてリッジを見る。
 話には聞いてたけどキレーな男だなぁ。
思ったが、品定めするようにカイを見る視線は鋭い。だいぶ気が強そうではあるが、そこがバートの好みに合いそうだった。

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