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トキノツムギB面

13  モリビト①

 男は管理者から名前をもらったようだ。
“あなたのことをマルクと言ってましたよ“
 呼んでくださいと言ったのはこういうことらしい。パンを齧る男の向かいで、ピアスから顕現した子どもが言う。
 5歳〜6歳くらいで黄金の髪と金の瞳を持っていて、肌もパール状に光っている。どう見ても人間ではない容姿だが、マルクはもうこれくらいでは驚かなくなっていた。
 目覚めて数日経つのだが、記憶を無くしているからというのでは納得できないくらい、この世界に違和感があり過ぎる。管理者がいて、騎士がいて、山の頂上には選ばれた人間しか入れなくて、ピアスには管理者の手足という精霊っぽいものが宿る。そして聖域がありマルクにしか見えない管理者が浮かんでいるとは。
 そういう言い伝えもある、ではなく、リアルに目の前にそれが起こるこの世界は一体何なんだ。超能力とか個人に属することならまだ受け入れる余地もあったが、世界全体がこうだというのが、ちょっともうよく分からない。記憶を無くしていることが二の次になるくらいにはいっぱいいっぱいだが、それでもとにかく、まずはここで生きていかなければどうにもならない。マルクはとりあえず、一旦考えることを止めにしたのだ。

 だがしかし
“マルクと呼ばれると言うことは管理者様とモリビト契約をしたということです“
と、さも当然のように言われた一言は流石に聞き流せなかった。
相当聞きたくなかったが、これはもう聞くしかない。
「名前は良いとして、その…モリビトって何ですかね」
〝ここでは宗派が神派と管理者派に大きく2つに分かれてまして、その管理者派のトップです。数十年から数百年の間に不規則に現れ、それぞれに特徴的な不思議な力を持ってます。あ、因みに、このテントのどこかにモリビトの象徴であるマントもあるはずです〟
 …ちょっと待て。ここのこと何も知らないのにいきなりなんかのトップか…?
と言う心の叫びは当然聞こえたようで、子どもは淡々と答えた。
〝まあ仕方ないですよね。管理者様が見えてしまいますし。不思議な力も…あると思いますよ、多分〟
「いや、ないですけど?…ていうか、自分も「多分」とか言ってるじゃん」
目を逸らし、子どもはすっとピアスの中に戻る。
 …うわ、都合悪いと逃げやがる。
マルクは、はあっとため息をついて呟いた。
「管理者のとこに行こうかな…」


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