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トキノツムギA面

21  準備①

 玄関横にあったソファはダイニングテーブルの側面に移動させ、元々テーブルにあった椅子は台所側に2つ、両お誕生日席に1つづつと何とか収める。
 ソファをソファとして使うなら問題ないのだが、これは座席下に布団セットが入っており、背面を倒すとベッドになる形式だ。これからリッジの寝床になるらしいのだが、玄関ドアを開けると最初に目に入る位置にある。
「なんか落ち着かない配置なんだけど大丈夫?」
きっと寝込むことも多いだろうリッジを心配して言うと、数日かけてすっかり体調も戻ったリッジが髪を結び直しながら答える。
「年頃の少年に俺と一緒の部屋で寝ろっていうのもね。これから学校も行くだろうし、自分の部屋ある方がいいでしょ」
リッジはソファから玄関のほうを見ながら続けた。
「俺どこでも寝られるんでそれはいいとして、玄関まるっきり見えるのはちょっと落ち着かないかな。なんか衝立でも買うよ」
 数日間食料を届け続けたのですっかり打ち解けタメ口になってくれたリッジに嬉しい一方、仲の良い友人枠に収まりそうな流れはバート的には複雑なところだ。
 
「台所のとこに出してるドライバーとって」
跪いて布団出し入れ部分の蝶番を確認しているリッジに言われ、移動してそれらしいのを投げ渡す。振り返りもせず左手で取り、ペン回しのように回したリッジは一見して言った。
「マイナスドライバー?プラスが良かったのに。まあいけるけど」
「それ言って。ネジの頭とか見てないから」
不当に責められた気がしたので少し抵抗してみたが聞き流される。バートも決して穏やかで優しいと言えるほどの人間でもないのに、周りの人間のせいか温厚キャラが板につきつつある今日この頃だ。
リッジの来歴やらいろいろ聞く機会もあり、運動神経が良いことや喧嘩に強そうなこと、今まで1人でやって来ただけあり、何でも器用にできる人間であることを知った。しかし、この体力のなさについては移動生活で体を壊したとしか言わないので、そもそもそう丈夫でなかったところにそんな生活をした無理が祟ったのかなとか想像している。
「…まあこんなもんでいいか。どうせ俺しか寝ないし」
立ち上がると、ドライバーを弄びがら何となく全体像をチェックしているようだ。
うん、と納得するようにうなづくとバートを見た。
「で、何だっけ?デューをカフェバーで働かす話?」

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