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トキノツムギA面

30   パープルとリッジ②

 同い年で仲良くしていたアザレアのピンクが妙なことを言い出したのは13の時だった。
 さっき空が割れた。そこに男の子が現れて、私に外に出ろと言ったのだと。
パープルは、夢でも見たんじゃないかとピンクに言った。病気になったんじゃないかとも疑った。
 最初は相手にしていなかった同年代の少女たちも、その熱量にだんだん影響され、外に出たい子たちが増えて来た。やがて、年長者にバレないようにトリスに外の話を聞いたり、持って来てもらった本をこっそり回し読んでみたりして外の勉強を始めるものが出てきた。ピンクはその男の子を驚くほど詳細に覚えていて、密かにメッセンジャーと呼び、皆はそれを自由の象徴のように語った。
 パープルは正直気が進まなかった。ピンクはもちろん親友だし、応援したいし信じようと思う。でも、ここはこれで平和だ。敢えて環境を変える理由が見つからなかった。とは言えパープルもリッジとの出会いがあり、少しずつ皆と外の勉強を始めたりはしていた。その間、ピンクは長期間かけ、外に出る準備を慎重に整えていたようだった。
 少女たちは、メッセンジャーはその内私たちの目の前に現れて、私たちにも外に出ろと言うと信じていた。パープルも、それまで一緒に待つつもりでいた。
 ピンクが逃げる予定にしていた日の前日、男たちが来た。いつものように、子どもたちは、ガーデンと呼ばれる少し大きめの建物に集められ、皆と一緒に過ごすことを楽しんでいた。そして、明日ピンクをどうやって外に逃すかを相談していた。
 じゃあ寝ようかということになった頃、パープルは歯を磨きがてら布団が敷いてある広間から一旦廊下に出た。驚いたことに、そこにはマーガレットのホワイトがいた。
「シャーロット」
寄りかかっていた壁から身を起こし、ホワイトは驚いた表情でパープルの本名を呼んだ。
「声だけ聞きに来たのに、顔が見れるなんて奇跡」
そして、パープルと同じ目線になるようにしゃがむと言った。
「…ここ出るの?」
パープルはズバリと言われて息を呑んだが、ホワイトは微笑むとパープルの頭を撫でた。そして、言った。
「出なきゃだめだよ」
真剣な目でパープルを見ている。その瞳の色がパープルと同じ、珍しいシトリン色であることに初めて気がついた。
「知ってたの?」
恐る恐るの質問に、ホワイトは悪戯っぽく笑った。
「知ってるよ。私以外もみんな知ってる」
言葉を切り、また続けた。
「私たちは言うべきだった。君たちは正しい。私たちは…」
と、何かを言いかけようとして口をつぐんだが、代わりに言った。
「思い通りにならないものを脅したり罰したりするものは、どんなものでも間違ってる。いいかい、どんなものでもだ」
言い切って、ホワイトはしばらく俯いた。それから、大きく息をつき顔を上げ、輝くように笑った。
「シャーロット。自分が惨めじゃないところに行きなさい」
その時、外で男の声がした。ホワイトはビクっと振り向くと立ち上がった。
「私はエラ。覚えていてくれたら嬉しい。じゃあ」

 エラは闇に消え、男たちの声は聞こえなくなった。
パープルはその夜、ピンクと一緒に集落を出た。
その後も追手が全く来なかったのは、集落の皆が隠してくれたのだろう。
 2人はバートの母親に雇ってもらい、アゼリアのピンクは家庭を築いたが、ある日子どもと共に消えてしまった。

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