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トキノツムギB面

7  店の外の出来事①

 特に良い話は聞けなかったな。
思いながら店を出て通りを歩いていたアイリスは、背中に視線を感じた。
振り向くが、夜中なのもあり、まばらな人通りにこちらを見ているような人物もいない。
 気持ち悪い。念のためにまこう。
寮までつけられて、リアンを巻き込むわけにはいかない。
アイリスは、歩みを止めず同じペースで進みながら、人影に隠れるように動いた一瞬、向かっていた道の一本前の横道に入った。

 まかれた!
ほんの数秒、歩行者と姿が重なった瞬間目の前青年は消えていた。尾行しろと任されたのに、これではソーヤに申し訳が立たない。青年が何か被害に遭い、私が行けば良かったと後悔をさせるのは、ライマが最も避けたいところだ。
 本当にいらないことをする。
 小さく舌打ちをしながらも表面上は何気なく装い、青年が身を隠せそうな場所を探す。大通りまでに、この通りには、横道が2本通っている。そのどれかに入ったのだろうと予想されるが、選択肢は左右に2つずつ。1つ1つ当たっていくのに時間がかかるのが心配だった。

 一方、寮ではリアンが窓を開け、外を見ていた。
 遅いな…
いつももう帰って来る朝4時を回っているのに、アイリスが帰って来ていない。
アイリスのベッドには本が雑多に置かれ、一冊は読んでいたページを下にうつ伏せてある。何事も折り目正しいアイリスは、今日はこれで読書をやめるという時には全て片付け机に置く。これは、まだ今日中に続きを読むということだと思うのだ。
 占いの時に使う、石が入った小さな黒ビロードの袋を手に取り、少し振ると手に石を出す。金の筋が入った透明な石と紫の石が出て、リアンはそれを見つめると手の平に握る。
 何かあったのかもしれない。
 リアンはアイリスを探しに行くことにした。

 着替えるのは面倒なので、手近にあったフード付きマントを普段着上に羽織る。
 アイリスと同じ手段で出るしかないので、窓を閉める代わりにカーテンを引き、降りるために窓の桟を跨ぐようにして座ると2階とはいえ意外と高い。そして下の植え込みは暗く細く、それを囲む塀上のフェンスは尖った装飾に縁取られている。
 いや結構怖いな。
 これを数秒で難なく降りているアイリスはかなりすごいのかもしれない。
 フェンスの装飾に刺されて死ぬとか絶対に避けたい最期だ。とは言え、植え込みで怪我をしたくもないので慎重に経路を検討する。
 寮の外壁は古い煉瓦で、壁面には凹凸が割とある。足が届きそうな辺りに何とか足場にできそうな大きさの出っぱりがあるので、そこに足をかければもう片足をフェンスに置けるだろう。

 覚悟を決めて桟に手をかけ、後ろ向きに飛び降りる。少しぶら下がって足場を探すと、小さな足場では体重を支えきれずこのままではすぐ落ちそうだ。
 桟から手を離すときっと落下する。その勢いでフェンスに飛び移り、そのまま道路に飛び降りるしかない。
 マントが装飾に引っかかった時は頭から落ちるかと肝を冷やしたが、幸い少し破れるぐらいで済んだ。何とか無事に道路に至った時には気力の半分くらい使い切った気がしたが、朝6時に寮の門が開くまでは中に戻る手段がないこともあり、そのまま、アイリスが消えた方向に向かった。
 


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