見出し画像

トキノツムギA面

22  準備②

 リッジの職人のような手捌きを見るのに集中していてだいぶ忘れていたが、ソファベッド調整前にそんな話をしていたのだった。
「16って言ってたし働くのは大丈夫でしょ。まあ時々でいいんだよ。なんなら最初だけでもいいし。あの容姿は逸材だから、店にいるだけでも人入るかなと思って」
少し考えるように、ドライバーの持ち手をテーブルにコンコンと当てていたが、
「ちょっとわかんないな」と、バートを見た。
「正直、デューとどういう距離感になるか未定なとこあるでしょ。多分、親みたいにはなれないと思うんだよね。年が離れたイトコかよく言って兄貴くらいかなと。まあ、手に職つけた方が良いとは思うから何かやった方がいいとは思うんだけど。デューがここに俺とずっといるのがしんどいなら学校とバイトとあって家にいないって手もアリだろうし、そこまででもなくて学校だけで大変ってことなら無理かもだし」
そういう状況も想定しての、デューを引き取る覚悟というのが何なのか、バートには不思議だ。
「こういう聞き方どうかと思うけどさ、何でそこまでしてデューを引き取るわけ?」
何かキツい言葉が返って来るかと待っていると、意外に重いトーンでリッジは答えた。
「一つは、俺との関係がどうであろうと、今までの生活より絶対こっちの方がマシってこと。もう一つは」
と言葉を切ってから、やや久しい間があって、続けた。
「…最初に会った時、こうしなきゃいけないって、何か思ったんだよ」
いや、わかんないな。
ふっと表情が消え、リッジはつぶやいた。
「こんな体だからさ、心と体が割と遠いんだよね。自分の体を自分のもんじゃないみたいに監視しながら生活しなきゃいけないとこあるでしょ。これ以上やったら動けなくなるとか、今から調子悪くなりそうだとか。これは病院が必要とかさ。それが、デューと会った時、心と体と頭と体温があって、これが自分だみたいなね。やっと1人になった気がしたんだよ」
そしてバートを見ると、言った。
「…もしかして、自分のためなのかもしれない。って今思った。なんかそれ最低だな」
そういうのもアリなんじゃない?
と、言おうとした言葉をバートは飲み込んだ。
そんな生ぬるい言葉はかけられないような表情を、リッジはしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?