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トキノツムギ

2   最初の存在

 最初の「何か」の中に最初に生まれた存在には明確に意識があったので、その何もない真っ暗な場所で途方に暮れた。自分はこの暗闇そのものなのだろうかと思ったり、ここで何をすれば良いのだろうと思ったり、どこかに移動した方が良いんじゃないかと思ったりしてみたが、しばらくすると存在は焦るのをやめた。そして何が自分なのかもわからないままに、ただ無為に浮かんで過ごしていた。

 しかししばらく経ったある時、存在は、自分の周りに増えていくものがあることに気づいた。ポツポツと、バラバラと、やがて真っ白になるほどに。
 その中で存在は、生まれて初めて自分の姿を確認することができた。何かが目の前と下方に4つ、その先に小さな同じようなものが5つずつ。
 存在は人間体なのであった。長い年月が経ったことを示すように、真っ白な髪の毛は身体を覆うほど長かった。
 自分の周りいっぱいになっていた星に囲まれた存在は、自分の体を確認できるとそれを動かす練習を始めた。そうすると、「自分の周りの星が増えている」のではなく、自分がどこかへ向かって運ばれていることに気づいたのだった。

 その強制的な旅は唐突に終わった。
星がなだれ込む場所に自身も巻き込まれ、光に飲まれることになるのだった。
 こんなに長い間いたのに、こんなに急に終わるのか。
自分だと思っていたものの全てが溶けていくのを感じながら、存在は初めて「恐怖」と名付けられるような感情を感じた。


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