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トキノツムギA面

20 リッジとバート③

 「……ダメですかね?なるべく長く息をして心臓を動かすための理由が欲しいと思うのは」
心の揺れが声に現れているのはわかったが、止めることが出来なかった。
「体が弱いって理由だけで、生きる以上のことを求めちゃダメなのかよ」
分かっている。バートが悪いんじゃない。それでも。
「俺ができると言ってできたら運が良かったって、出来なかったらほら言った通りだろって、そんな不当なことがあるかよ!」
言い終えたら目眩がした。倒れてるとこ見られて、ここでまた具合が悪くなると言ったこと全部に信用性がなくなるのに、何でこんな体なんだよ。

「そんなこと言わないよ」
さっきと同じ冷静さに優しさを含み、バートの声がした。
「リッジができるって言うんならできると思うよ。でも、1人で大丈夫なのかって言ったんだよ」
コップに入ったサングリアを一気飲みした後に見据えられた目線は怒っているほどに強くて、リッジの昂っていた気持ちがスッと醒める。
「さっきもだよ。何で俺の肩借りないの?何で全部1人でしようとすんの?1人で全部できると思うのは傲慢で、それ体が弱かろうが丈夫だろうが関係ないから」
 何で?
不意に時間が止まり、自分に問い直す。
 何でだろう。
誰かと一緒にやろうなんて思った時は、今まで一度もなかった。
「落ち着いた?」
もう一つのグラスにサングリアを注ぎ、リッジの方へ押しやりながらバートが言う。
さっきまでの自分が急に恥ずかしくなり、受け取った飲み物を何口か飲んで気持ちを立て直した。
「ガキくさい言いがかり付けてすいません。完全に八つ当たりだった」
もう今更だが、丁寧な口調には直して詫びる。
「いや全然。まだ俺よりだいぶ若いわけだし。やっと本当の顔見せてもらえたみたいで嬉しいし」
何ということもなさそうに笑っている。
「大人ですね」
苦笑いしながらリッジは言った。
「俺はきっとなれない」
自分の見かけが女性と見まごうくらい柔和である自覚はある。しかし性格はそれに見合うほどの可愛げがないので、期待を裏切られたように離れていく人間も少なくなかった。
「そのままでいいよ」
バートは続けた。
「すごく魅力的だと思うけど」


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