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トキノツムギA面

14 バート家の不審者②

 今日お姉さん達は、何人かずつのグループいくつかになって出て行った。買い出しで街に出るときは1グループだけで行くので、とても珍しいことだ。
 子どもの間はフードだけ被れば良いのだが、成人した後は、外出時は頭上から足元まで黒い布で覆うという、全員共通の姿になる。よほど体格に特徴がなければ見分けがつかないが、金属やガラスの様々な装飾を髪に編み込む独特の髪型の、その飾りによってだけ、唯一個人が特定できた。
 フードの側面から、蔓にガラスの小花が散らされているスパイラル状の髪飾りが見えた。あれはシグネットと同じ家にいるお姉さんだ。成人すると元の名前を捨て、死ぬ時名前を戻す慣習に従い、サルビアのブルーと呼ばれている。
サルビアとは、集落に作られている住居それぞれにつけられている建物名の内の1つだ。他にアネモネとかポピーとかもあり、平屋1つに3人から5人住んでいて、住居名に色名を合わせ、名前として呼ばれるのであった。
 シグネットも後3〜4年もしたらサルビアの何とかと呼ばれる予定で、色はレッドやオレンジがいいなと思っているが、そこは住居最年長のお姉さんがつけてくれる物でワガママは言えない。
 サルビアのブルーの元に近寄ったシグネットは、こっそり聞いてみた。
「今日はたくさんのお姉さんが行くね。何かあるの?」
サルビアのブルーはシグネットの背の高さまでしゃがむと、こっそり言った。
「メッセンジャーを迎えに行くのよ」
そして、本当に嬉しそうにニッコリと笑った。
「メッセンジャーって!あの、良く話してくれた使者のこと!?」
興奮して大声になりかけたシグネットを、シッと抑えて、サルビアのブルーは頷いた。
 サルビア屋に飾ってある絵は、そのメッセンジャーを模ったものだと聞いている。黒髪でサラサラの象牙色の肌で、黒と濃紺の、光が当たると深いブルーになる瞳。男の子でも女の子でもないとお姉さん達は言っていたが、シグネットは男の子だと思っていた。何となく、目が強い気がしたからだ。
 お姉さん達が出かけてしまってからシグネットはしばらくは大人しく待ったが、絵を見ていると、どうしても本物を見たくなった。
 やっぱり連れて行ってもらおう!
集落を飛び出して、お姉さん達が行った方向に向かったはずだが、全く出会えそうな気配がない。
 迷子…?
 齢13にして迷子とか、恥ずかしくて認めたくない心と、諦めて周りの女性にここはどこか聞こうかという心とで葛藤している時、目の端にタクシーが横切った。そしてその中に、あの人形そっくりの少年がいたのだ。
 あれはきっとメッセンジャー!
 彼の向かう先にお姉さん達もいるのではないかと必死で行き先を追い、屋敷に着き、少年を発見したのがさっきだった。
 屋敷を追われ、屋台の陰にいる今、迷子には代わりなかったが、命が助かったと思えば道を聞く恥なんかどうでも良いと思えたシグネットは、素直に屋台のおばさんにここはどこかと聞くことができたのだった。

 

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