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トキノツムギA面

29   パープルとリッジ①

 パープルが選んだのは、長年近所に住んでいるリッジも気づいていなかった、新鮮な果物を使った軽食が出る喫茶店だった。メニューの名称を見ても何なのか想像がつかず、結果果物が売りのこの喫茶店でブラックコーヒーを頼んでしまった。店の人からすると来るなという感じだろう。
「…フルーツサンド一緒に食べます?」
おずおずといった感じでパープルが言う。
「サンドイッチにクリームと果物とか、意味わかんないんだけど」
とは言ったものの、自分では絶対に頼む勇気がないので一応一つもらってみた。
不味くはない。が、違和感が否めない。
「ほらあの、息子さん?若い子とか喜ぶと思いますけど」
 いやせめて歳が離れた兄弟とかだろ。何歳の時の子だよ。
思ったが、否定するのもめんどくさい気がして何気に聞き流す。
「で、何なの?それ食いに来たの?」
事情がわかるまではデューの名前も明かさないほうが良いのかなとは思ったが、そもそもあの名前は本名じゃないことを思い出し、続けた。
「デューに何かあるんでしょ」
リッジと目を合わさずに、パープルは黙々と食事を続ける。
「前、俺ん家来たよね」
食事の手が止まる。
「デューがいると思ったんだろ?何であの短期間に、俺が家に連れて帰ったのがわかった」
こちらを向かせようと、机を指で打った。
「いい加減にしろよ。こっちはこんだけ手の内晒してんだよ。何か言ったらどうなんだ」
パープルがこちらを見た。
「もちろん言いますよ。ただ、どこから話すか整理してるんです」
 その目は怒りではなく、戸惑いがあった。
 意識を開けばパープルを探ることはできただろう。だが、それはあまりに無遠慮だと思ってさすがにやめた。
 フルーツサンドを食べ、紅茶を飲み、一息ついたパープルは、やっと探るように話し始めた。
「名前を聞いた時点でお分かりでしょうが、私は集落の人間です。集落の人間は私の時代からメッセンジャーという存在を探していました。そして私は、デュー君がメッセンジャーだと思ってます」

 メイフラワーのパープルは、あの集落の仕組みをあまり良く知らなかった。
女性のみの集落で、女性たちは3歳くらいから40歳くらいまでの人間しかおらず、その女性たちは時々来る男性たちが連れて来て、連れて行った。パープルが集落にいたのは、3歳から15歳の間だ。年長の女性たちは週に1〜2度街に買い出しに行ったが、パープルは集落から出たことはなかった。学校で使う共通語と理系の教科書と、集落独自の文学や歴史書が置いてあった。肉や魚を食べることが禁止というわけではなかったが、動物を飼うのは禁止で、野菜や果物以外を買うために、街への買い出しが必要なのだった。
 幼い頃から、外は怖い所だと教わり続けた。皆の生活は不健全で行くと悪い病気が感染る、外の人間は残酷ですぐ殺されてしまうと言われ、病気がうつるのを防ぐためにはフードを被らなければならないと言われていた。
 集落には神樹あり、パープル達は神派だったので、管理者派の神事師であるトレスが来ることは、男達には内緒にしていた。トレス達が来るきっかけが何なのかはわからないが、話を聞いてもらわないと生きていけないような女性たちがいたことは確かだ。


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