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トキノツムギB面

6  ソーヤとライマ①

 また来たな。
 主人の背後に従者として立つライマは、ドアを開けて入って来た他の客とは種類の違う青年を見る。プラチナブロンドのストレートヘア、その下に見え隠れする青紫の涼しげな瞳。長めのTシャツの首元に、細いフレームのメガネを引っ掛けている。どうも学生のようで、こんなカジノバーに来るにはおよそふさわしくない人品だ。しかも、狙ったように危なそうな台にばかり飛び入りをする。

 ここは普通のカジノバーではない。必要とあらばどんなことでも揉み消すことができるような人たちが、他ではできないような話をするために来る場所なのだ。
 今日で何回目だろうか。高級なドレスやスーツに身を包んだ客の何人かが、カウンターに向かう青年の背を見送っている。
「赤ワインをボトルで」
 注文を聞き、今日も長時間いるんだなとライマは思った。
 
 女主人のボディーガード兼装飾品として来ていると思われているライマの1番大事な仕事は、生来持つ特殊能力を使うことだ。
 ライマは強い共感能力を持っていて、相手の喜びや悲しみ、動揺や焦りなどをはっきり感じ取ることができる。
 背中が開いたドレスを着ている女主人の、長いネックレスが垂れたその背中はきれいに伸び、何の感情の揺らぎも感じない。もとより、ゲームをしているという体で秘密裏に交渉を進めるのが主だ。勝っても負けても困らないくらいの金を持っている人種が来ているのもあり、勝敗はそこまで重要ではない。とりあえず今は仕事がなさそうなので、ライマは赤ワイン片手に卓にやって来た青年に目をやった。
 
 丸い机に4人が、それぞれ向かい合って座っている。絵か数字を定められたセットに揃えてゆく単純なカードゲームで、最初の手札はゲーム参加者自身が一回ごとに交代しながら配る。何枚づつ配るかは、1から4までの数字があるサイコロを振って決める。
 その後、またサイコロの目に従った枚数を残ったカードから取って行くのだが、その際のカードは上から取らなくても良いことになっている。
 最後まで誰もセットを作れなければカードをシャッフルし、また始める。サイコロはかなり丸みを帯びた三角錐なので、転がり落ちないように端が高くなっている卓の角や端をうまいこと使うと、ある程度好きな数字を出せたりもする。青年はライマの斜向かいに立ちしばらく卓上のゲームの進展を眺めていたが、自分の前の男性がカード配布の担当になった時に、身をかがめ、少し長い耳打ちをした。


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