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トキノツムギ

1  「それ」と「何か」のこと

 例えば人間で言うと、体の内側と外側が裏返しになったような感覚だろうか。仮に内側と外側と言っておくなら、「それ」に外がある感覚はある。が、「それ」に見えるのは内側だけだった。内側はただ永久に、何もない空間なのだった。
 しかし「それ」は真に何も知らなかった。だから知りたいとも寂しいとも思わなかったし、ウトウトと眠るように過ごしていたので時間の感覚もなかった。
 たまには起きていてたまには眠っていたのだろうが、何も見えないので時間が経っているのか経っていないのかもわからなかったし、それに対して何の感情も湧かなかった。

 ある日、どういった偶然なのだろうか。内に何かが生まれた。「それ」はいつもと違うことを感じ、ウトウトとただ眠ることができなくなった。「それ」と「何か」はしばらく共存し、「それ」は初めて、見ること、自分ではないものがあること、気になるということを知った。そして安心してまたウトウトと眠った。
 「それ」がまた目覚めた時、「何か」はやや大きくなっていた。そして目覚める度に大きくなることを何回か繰り返し、やがて2つになった。そうやって何かが増え、時に勝手に消えていくのを見ている内に、「それ」は時間が経つということを知った。
 
 感情を知り、時間を知った「それ」はある日思った。
「何か」の中にも、好きなものと嫌いなものがある。どうせ増え続けるなら好きなものだけを残そう。
 そして「それ」は、好きなものを増やし、嫌いなものは潰すようになった。

あたかもコピーをして残すように。
あるいは、害虫を潰すように。

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