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トキノツムギA面

11 リッジの過去

 特徴的な白い縁取りがある黒いマントを羽織り、姉が前を行く。
元々稲穂色の豊かなカーリヘアだったものを男性と同じほどの短さのショートヘアにし、動物や植物など、地上のあらゆるものが世界樹を囲っている図柄をトライバル調に刺繍したナップサックを背負っている。
 この刺繍は地上の何を縫い込んでも良いが、姉は必ず人間の象徴を入れていた。
 頭と手足が見て取れるその刺繍は他の刺繍より美しくはないので入れない者もいたが、リッジはしばらく見ていると姉の動き方に応じて手足が動いたり首を傾げたりして見えるような、味があるそれが好きだった。
 
 姉は巡回神事者で、定住せずあらゆる場所を徒歩で行った。リッジは神事者ではなかったが、たった二人の家族の、しかも姉の方が世界中を回っているのをどこかで定住して待っているのも微妙な気がしたし、女性が一人で野宿しながら行くのも危険な気がして、姉がこの仕事を始めた時点から常に一緒に回っていた。神事者は刃物や武器を持てない。また、暴力を振るえない。宿に泊まる時以外は半分寝て半分起きた状態で見張って一夜を過ごし、森で野生動物を追い払い、泥棒を退け、徒党を組む野盗と武器を使い戦った。これだけ全国を回る女性の巡回神事者はおそらく姉だけで、これもリッジが付いて来てくれるおかげだと姉は喜んだ。リッジの目からも、姉は数多くの女性を救ったと思う。

 リッジが連戦連勝だったのは、そんな日々で腕っぷしが磨かれたからだけじゃない。生まれつき持っていた能力、場所と相手の情報が流れ込んで来る能力のおかげもあった。少し意識を開きながら歩いていると、危険なものが近づいてくるのがわかる。立ち合うと、相手の情報がわかる。時には話し合いで解決できることもある。地の利を使える。とにかく、自分の方が相手より情報量が多いのは圧倒的に得だった。
 能力の使い方も、相手を倒すごとに練られていった。ただ開くだけでは、どうでも良い情報も入って来るのだが、争いなら弱点を、話し合いなら相手との妥協点を、ピンポイントで得ることができるまでになった。

 リッジは、ベッドの中で目を開けた。
居間に気配がある。体力が落ちている時に少しキツいかと思ったが、意識を僅かに開いた。
  

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