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トキノツムギB面

17 グリフィス①

 基本的には個室兼診療室にいるグリフィスだが、用事がなくても行く唯一の場所がある。それは大抵ライマがいるキッチン横の使用人室だ。個室があるにも関わらず、すぐに飲み物や食べ物が持って来れるので良いという理由でライマがほぼ私室化している。まあ、この屋敷には料理人というものはいないので、基本誰も使っていないから何も問題ないのだが。最も早い時期に拾われたグリフィスとライマは戦争孤児でもあり、兄弟のように育った仲でもある。

 時間ができたので一緒にコーヒーでも飲もうかと使用人室に向かっていると、通りすがりのリアンの客室が沸いている。
 どうやら屋敷の他の者も休憩できる時間帯らしく、ほとんどがリアンの部屋に集まっていた。
「じゃあじゃあ、私の結婚は?」
受け入れている家族の、小学生の娘が言っている。
「ちょっと待って。……うん、すっごい早いかすっごい遅いかだね。悪い男に引っかかんないようにね」
 家庭として受け入れているのは母子家庭ばかりなので、屋敷の構成員は女性が多い。
「私、今好きな人がいるんですけど、その人とどうですか?」
などと、看護師のリンも聞いている。
「……あー、身近な人だね。相性良さそう。お互い引きがちだから、もう少し話しかけてみたら?あ、これあげるよ」

 この屋敷は広い。ひと所にここまで人が集まることはないのだが、こうしてみると人員は結構多い。こんなに賑やかだったことは今まであるだろうか。
 その人垣の中からリアンが顔を覗かせ、グリフィスを見つけた。軽く手を振り、近づいて来る。リアンが居なくなった机では、女性陣が占い道具をこねくり回しているが。
「いいの?あれ」
無愛想なグリフィスにも、リアンは愛想良く笑いかける。
「ああ、全然。占い道具なら売るほどあるし」
 占い師だからね。
と心の中でグリフィスが突っ込んでいると、コソッとリアンが聞いてきた。
「アイリス大丈夫?」
「……うん。別に何も。何か?」
というか、そこまで気にかけてなかったが答えると、少し躊躇ってから、言いにくそうに続けた。
「あいつ、俺がこんなんなって気にしてると思うから、大丈夫かなと思って」
特に変な感じもなかったし、もう大丈夫な気はするが。
思いながらグリフィスは答えた。
「わかった。声かけてみる」
あ!
踵を返したグリフィスを、リアンの声が止める。
「俺が言ったって言わないでよ絶対!」
そんな無茶なとグリフィスは思う。俺が自然に気づいた感じにどうやってしろと。
 思ったが、グリフィスに目をやっただけで何も言わずにその場を去った。
にしても、明後日には2人は寮に帰るだろう。今日明日しか声をかける機会がないじゃないか。
 考えていると向かっていたキッチンのドアが開いていて、ラッキーなことに中にライマとアイリスがいる。ナフキンとカトラリーを出し、並べ方など話しているようだ。
 ドア枠を軽くノックすると、2人がこちらを向いた。こちらに来ようとするライマを留め、中に入る。
「何してんの?」
「正式なテーブルセッティングと、給仕の仕方を習ってる」
と、ライマはそれらを指さし確認しながら答える。
「アイリスに?」
指さし確認を一緒に見ていたアイリスが、流れ落ちるプラチナブロンドの隙間から横目で見上げるようにグリフィスに目をやる。
「元々執事してて。ソーヤ様から、執事として成長できるようにライマを教えてくれって言われたもんでね」
その色気にそぐわない口調でアイリスが答える。
「え?執事だったの?」
夜の仕事でもしてたのかと思った、との言葉は飲み込みそれだけ言う。
「そんな意外?これでも割とベテランだったんだけど。髪整えてちゃんとした服着たらそれなりに見えるよ」
 見えるかな……
とためつすがめつ見たグリフィスだったが、結果、容姿が良ければ何でも似合うんだろうと適当に結論づけ、本題に戻る。
「ちょっと用あるから、これ終わったら来て」
アイリスはライマを振り返る。
ライマが頷き、アイリスが言った。
「全然。今からでも。リアンのこと?」
それには答えず、こっちへと手だけで招くとアイリスがついてきた。

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