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トキノツムギA面

26  街へ②

 デューを先に行かせたリッジは、横目で背後を見た。
 人がついて来てる。
街の案内がてら買い物に出かけたが、まさか人が釣れるとは思わなかった。
 尾行の相手は概ね予想できたので、どこまでついて来るかなと人に紛れてデパート内に入り少し意識を開く。店内の客の情報がわっと入り目が眩む心地がするが、その間を縫って1人の情報を引っ掛ける。
 やっぱり。
以前、家宅侵入して来た内の一人、あの女性だ。
 優しそうだったし危険なことはしそうにないけど。
思いながら意識を閉じると、デューが心配そうに見上げている。
「何か顔色悪いけど大丈夫?」
今大丈夫になった瞬間だったのだが、尾行する女性が気になったので答えた。
「ちょっと人に酔ったかも。少し休んでから行くから、6階の家具あるとこで先に衝立見てて」
かなり促されたデューが渋々エレベーターに乗ったのを見送りドアが完全に閉まったのを見計らうと、リッジは客に紛れつつ移動した。デパート入口が見える商品棚の陰に行くと、少し違和感のある動きをしている女性がすぐに発見できた。
 あれか。
目星をつけた女性が前を過ぎるのを確認すると自分が尾行する側になり、女性が物陰に入った所で背後から声をかける。
「何であの子追うの?」
首筋に当てられた物の感触に女性の体が強ばる。そこからゆっくり振り返っていたが、はたと動きが止まった。そして、驚いた表情で呟いた。
「あなた、神事師様の従者の……」
驚いたのはリッジも同じだ。
「……何で俺の事」
暫し無言の時間が過ぎ、先に口を開いたのは女性だった。
「私はメイフラワーのパープル。いや、意外だったけどあなたなら逆に安心かもしれません。あの、日を改めて、お話する時間をとっていただけませんか?」
 メイフラワーのパープル?じゃ、あの集落の女性か。
その女性が普通のスーツを着て街中にいる。それだけで何かワケありなのがわかる。
リッジは相手の首筋に当てていたボールペンをクルリと手の中に収めた。
「……わかった。1週間後」
1週間後にデューは高校の見学に行く。それについて行くが、顔を出すのは最初だけで大丈夫だろう。その後にデパートで話を聞き、終わった後にデューを迎えに行くことは十分可能だ。
「10時に開店したら、ここで」
メイフラワーのパープルは、頷くとデパートを出て行った。
その背中を見送ったリッジは、装飾が美しいペンを宝石店のショーウィンド上に元のように置き直し、6階に向かった。

 体弱いって言ってたもんな。人が多かったり長く歩いたりすると具合悪くなんのかな。ってそんな歩いてないけど一週間近く寝込んで病み上がりだし。大丈夫かな。
 先に6階に派遣されたデューだったが、中々上がって来ないリッジにやきもきしながら待っていた。衝立を見ておけと言われたが、こんな状態で落ち着いて見ていられるわけがない。
下に戻ると入れ違いになるかもとは思ったが
 やっぱり気になるし戻ろう!
決心してエレベーターに乗ろうとした時、ちょうど上って来たエレベーターからリッジが降りて来た。
「どう?何かいいのあった?」
ポケットに手を突っ込み足取りも軽やかに近づいて来るが。
「いや、あんなので上に上がらされて集中して見れないし」
リッジは心底驚いた目でデューを見たが、そんなに驚く方が驚きだ。
「普通心配するでしょ。具合悪い人置いて来るなんてすっごい後味悪いよ」
ふっと笑い出したリッジの笑い声がだんだん大きくなったが、何とか抑え込むように笑いを収め、言った。
「ごめん。そうだな。俺が悪かった。人と一緒にいる生活なんてしばらくしてなかったから」
デューの頭をくしゃっと撫で、微笑んだ。
「気をつける」
 ああ、こういうことか。
その時、デューは思った。
この人とこれから一緒に生活するというのはこういうことか。
手探りで始めようとしていたものに、一気に目鼻がついた気がした。
カイと一緒にいた時の、保護されて全部教えてもらうような、親子や師弟のような感じではなく、何られながら支え合いながら生活するような。
 親のような兄と一緒にいる感じ?
初対面なのに、不思議なほど心が寄っていくのが分かった。

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