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トキノツムギA面

9  カイとバート

 ベッドに少年、部屋中央に小さな丸テーブル。その上に無精髭男が用意したとも思えない非の打ち所のないアフタヌーンティーセットがある。
 お菓子やサンドイッチが盛られるアンティークな3段のお皿を挟み、それに全くそぐわないバートとカイが向かい合っていた。
「そろそろ俺が人攫って来たみたいな目で見るのやめてくれませんか。今全部話したよね」
「は?今の話のどこに納得ポイントが?」
間髪入れずの返答だ。
「商売相手が具合悪くて世話できなさそうだから?その商売相手すら何者かわからない謎少年を何も聞かずに連れてきた?」
端々に嫌味が乗っかる言葉に加えて
「意味わかんねー。ほんっと意味わかんねえ」
と、はあっとわざとらしくため息までついてくる。
 そんな何回も言わなくてもと思う一方、意味わかんないの意味は確かにバートにもわかる。考えれば考えるほど、自分でも意味がわからないと思う。
 
 飲み食いする音だけが聞こえる沈黙の時間が過ぎた後、唐突にカイは言った。「…もういいよ、今更どうにもなんないし。俺この子見とくからお前看病にでも行けば?その人お前なんかに頼むくらい具合悪いんでしょ」
 しかもお前なんかって…と地味にショックを受けながら聞いていたバートは、急な提案にカイを見る。
「いいから。どうせそいつのこと好きなんでしょ」
そして続けられた言葉に思わず、持っていたカップを異様な勢いで机に置いた。
「…なんで?」
 死ぬほど似合わないパステルカラーのマカロンを口に放り込んでからカイは言った。
「いつもと違うことすんのは、いつもと違うからだろ」
口の端についたマカロンの粉を親指で拭い、そのままペロリと舐める。
「まあ、お前のことならお前よりよく知ってるよ」
ニヤリと笑った。

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