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トキノツムギA面

13  バート家の不審者①

 誰かいる。
眠っている少年から目を上げて、カイは何気に窓の外を確認した。人が動いた気配がする。
 ここにこのままいて、何もわからないハウスキーパーのフリをしておいても良いのだが、こんな距離感で気づかれるなんてちょっとしたコソドロ感半端ない。
 再犯に来られても面倒だから脅しとくか。
 用事がある感じで部屋を出て、1部屋またいだ客間の窓からそっと庭に降りる。
目の前に黒いフードを被った小柄の人物がいて、見るからにキョドっている。
 なんと分かりやすく怪しい…。
もっと堂々とした感じで入り、見つかったら間違えましたと頭下げて出るくらいの方が良いのではないかと思う。別に今日決行しなくても、屋敷は何時でもここにある訳だし。
 中を覗いてカイがいないのを確認しているようなので、その背中に静かにソムリエナイフの柄を突きつけて耳元で言った。
「家に何か用?」
驚いて飛び上がるなんてマンガの世界だけだと思っていたが、それが正に目の前で繰り広げられた後、侵入者が振り返った。
見ると小学生か中学生くらいの子どもで、申し訳ないほど怯えている。
つい吹き出しそうになったのを何とか不敵な笑みに変え、そのまま続ける。
「この後どうされたい?」
割と穏やかに言ったのが逆に堪えたらしく、なんと尻もちをつき、震えて動けなくなってしまった。手のひらにソムリエナイフを収めながら、内心
 うわ、やりすぎた。
と思うカイだったが、ここでキャラを変える訳にもいかず、子どもに怒鳴る。
「早くここから出る!」
 不法侵入者の命なんて物ともしない感じを出しつつ急いで逃してやるという優しさを見せ、もはやキャラ崩壊しているのだが、子どもは振り返りもせず逃げて行った。
 その後ろ姿が見えなくなると我慢の限界が来た。吹き出し、しゃがんで笑い続けていたが、やがて笑いが収まったカイはソムリエナイフを弄びながら呟いた。
「脅しすぎたかなー」
子どもに好かれそうな要素はあまりないカイなのだが、子どもは好きなのだ。

 なんかヤバいのいた!
命からがら屋敷の外にでたフードの少女シグネットは、小学生とか思われてたがギリ中学生年代だ。
 屋敷からだいぶ離れたところに来てもまだ恐ろしくて、建物と屋台の影から、今曲がって来た道をチラ見する。
良かった、来てない。
ホッと一息ついたところで
 それにしても、なんて綺麗な男の子だろう。
と、眠っていた少年を思い出す。
お姉さん達が飾っている絵と同じ顔だ。
 けどさ。
と、さっきの男を思い出す。
 あいつは人相悪かったよね!私に突きつけてたの、あれ銃?
手のひらに収まるくらいの銃なんて見たことない。あの人はきっとあらゆる悪いことをする悪者だ。何か悪いことに協力させようと、少年を連れて来たに違いないのだ。
 あんな所からは少年を助けてあげないといけないよ。
うんうんと1人納得する。
だいたい、お姉さん達はいつも言っているのだ。
「世の中は怖い人ばかり。だからシグはまだここから出たらダメよ」
 自分達で土地を開墾しながら、女性ばかりで自給自足で暮らしている、たまにたくさんの男の人達がやって来てお姉さん達がもてなす。子どもが生まれたら、男の子はその男性達が連れて行き、女の子だとここで皆で育てる。そんな特殊な集落に、シグネットは住んでいた。

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