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トキノツムギA面

18 リッジとバート①

 頭いて…
頭の奥に塊のような重い痛みがある。
時計を見るともはや夕方で、このままでは丸一日飲み食いせず過ごすことになる。それは自分にとって割とダメージになることを経験則で知っているので、食べるよりは寝ていたいが、自分を励まして何か腹に入れることにした。起き上がると痛みの塊が頭の中を圧迫するようだが、それよりも立ち上がるのも辛いこのダルさを何とかしてほしい。
 家具と壁を支えに居間に出ると、思いがけない人物がいた。
 「うわ、そんな具合悪いのに出て来なくても」
ダイニングテーブル端にかなりの量の食べ物を寄せて置き、携帯画面を見ているバートがいる。
 ちょっと状況が理解できない…
思ったが考えてもわからないので、肩を貸しに来ようとしたバートを止めてダイニングテーブルの斜向かいに座った。
 いやそうか、いつもなら床で目が覚めるはずがベッドにいたのはバートに運ばれたのか。
 そんな姿を見られた屈辱に苛立つ気持ちは抑え込み、折り目正しく言った。
「…ご迷惑をおかけしたみたいですいません。…何か、あの子か仕事で問題があったでしょうか?」
何故か不思議そうな目でリッジを見たバートは、ふっと吹き出すように笑った。
「やっぱり結構気が強いよね、リッジ」
リッジの返答は待たず、机端の食糧に目をやりながら続ける。
「家の者が、人預けるなんて余程具合悪いんじゃないかって、これ。食べれる?」
椅子から腰を浮かし、中身を机に並べ直した。
 卵とハムチーズの一口サンドイッチ、二色ゼリー、ミルクアイスに装飾切りをされた果物もろもろ等。出して並べているだけなのに、飾り気のないダイニングテーブルが一気に豪華になるレベルだ。最後に白ワインのサングリアが出て来て、これを自家製で作る人間が本当にいたのかとびっくりする。
「すごい料理上手な奥様ですね…」
半ば呆れてつぶやくと、
「まあプロだからね」と返答が返ってきた。
これだけ用意してくれたことに対して感謝なり敬意なりが全くない言いようだ。姉と共に女性達の元を回って来たリッジは、女性を、ましてや妻を大切にできないような男は最も嫌いな部類の人間だった。
「ああ、わかった。いや違う」
リッジの心の声に応えるようにバートは慌てて言った。
「ごめん、紛らわしかった。ウチにハウスキーパーがいて、その男が作ったの。全然、恋人でも結婚相手でもないから」


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