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第19回書き出し祭り ピックアップ感想 ~完全ネタバレ編~

第19回書き出し祭りのトモユキセレクト、ピックアップ本文感想です。
完全ネタバレで書いてますので、先に本文読了推奨です。

同お祭りは、9/2(土) にタイトル、あらすじが公開。9/9(土)に本文が公開されています。
作者でも読者でも、各会場お気に入り3作品に投票できますので、是非読んで投票をよろしくお願いします! 〆切は9/30(土)!

投票は、全作品必ず読まなくても大丈夫です。気になったタイトル・あらすじだけ、特定の会場だけ、でも結構ですが、投票は各会場毎に1~3位の3作品を指定しなければいけませんのでそこはご留意下さい。
できれば、全作品目を通してもらえると嬉しいですね。

全ての作品は、下記「小説家になろう」URLにて公開されています。
各会場の「企画内容・応募要項について」の中に、投票場所もあります。

https://ncode.syosetu.com/s5759h/

そして、僕は全作品のタイあら感想を書いてます。
どの作品を読もうか悩んでる方、よろしければご参考まで。

ちなみに、今回のピックアップ感想で取り上げる作品は、各会場何作品まで、という制限は設けていません。ただ僕が個人的に「いいな」と思った作品を取り上げてます。
また、マシュマロで3作品ほど募集させて頂き、それも混ぜ混ぜしています。僕のピックアップ作品と被ってるのもあるかもしれませんが、そこは内緒で。
あと、しれっと僕の作品も入ってるかもしれません。なので、ここで取り上げられてる作品は僕のではない、とは限りませんのでご注意を。
書き出し祭りは、何より作者の匿名性が重要ですので。間接的にでも絞られないよう注意が必要なんですね。

では、前置きはこんなところで。
早速ピックアップ本文感想、いってみましょう!


第1会場

1-02 鏡映しの忌み子と、鰐の花婿

緊迫感溢れる冒頭は、豊玉姫が狐面の男達から逃げるシーンから。祠に隠れていると背後から獣の唸り声がして、振り向くと闇に飲み込まれる。
ここまでが一人称。区切り文字を入れた次からは、三人称一元視点になります。
ざっくりその後の展開は。
大学院生の犬成は、幼馴染の悠巳(ゆうみ)とそっくりな卯咲(うさ)と出会う。
冒頭の一人称のシーンを夢に見たという卯咲は、犬成にそれを告げると守ってくれるという。犬成は悠巳の行方不明を自身の責任とも考えていた。
二人で卯咲の家に帰ると、なんと家では火事があったようで。刑事さん曰く、家の中では狐面を被った男が死んでいたとの事。で、書き出し終了。

序盤から物語がぐんぐん動いて、読者を飽きさせてなるものかという作者の気概を感じます。謎がいくつも提示されており、それらを整理する前に火事が起きて、狐面の男が死んでいたというショッキングなラスト。
「冒頭で死体を転がせ」はミステリの鉄板ですが、やはりいい引きになってると思います。少し会話が不自然に思えない事もないですが、謎が謎を呼ぶ展開の伏線かもで、主人公達の今後の行動が気になる書き出しでした!

1-06 異世界転生して悪役令嬢になったけど、元人格がワガママ過ぎて破滅回避できません‼

鏡を見ると、愛は十歳くらいの美少女になっていた。「これが私?」少女漫画定番のセリフからスタート。どうやら異世界転生で悪役令嬢になったらしいし、これから破滅回避――と思いきや、元人格のアイリーンが傍若無人ぶりを発揮。どうやらこの身体には、2人の人格が入っちゃってるみたい!?
破滅が待ってると告げても、知ったこっちゃないと豪語するアイリーンは、真っ向から叩き潰してやると息巻く。2度目の人生どうすりゃいいのと愛は頭を抱えて、書き出し終了。

強烈にワガママっぽい性格のアイリーンと、常識人っぽい愛。その対比が序盤から描けていて素晴らしい。今後愛は、生粋の悪役令嬢アイリーンの振る舞いを、身体の中で声を上げるだけでどこまで制御できるのか。アイリーンの成長譚が物語の基礎と窺える、素敵な序盤でした。惜しむらくは第三者を登場させて、アイリーンの傍若無人っぷりに愛が少し自制させるシーンも描いてほしかった。すると次話への期待度がぐっと増す気がしました!

1-15 カノジョの前に妹とキスをした。

これは練習だよ、と妹の真保は姉のちとせに濃厚なキスをする。元々は、ちとせが恋人・凪とのキスが不安だと真保に相談した事から始まった、姉妹百合関係。実は凪も女性で、ちとせとはビアンカップルというわけだ。
妹とのキスに抵抗感があるちとせに練習だよと言い、恍惚とした表情で何度もキスする真保。流されつつも受け入れて、デートの時間になって出掛けていくちとせ。というところで終わりの第1話。えっちでした。

これはなんというか、いやらしいのにすがすがしいかも? ほぼ姉妹百合のキスシーンで構成されており、ここから先はあらすじ通り、ドロドロの背徳浮気百合が確定なのを窺わせる。そういうの好きな人だけ読んでって下さい! ていう作者の強い意図を感じます。ただ欲を言うなら、1話で恋人の凪も登場させてほしかった。妹を振り切りデートに出掛け待ち合わせ場所で笑顔で手を振る凪を見て、ちとせがどんな表情をするか、どんな気持ちなのかを描けると、背徳浮気百合の現場感が増し増しになると思いました!

1-21 悪魔72チュ~は世界を救う!

いきなり「吐けええ!」シーンから始まる。鳥のくちばしが喉に刺さるくらい突っ込まれ、なんでこんな目に合ってるかというと……から始まる冒頭。冒頭から、スゴイ勢いでスタートです。
サキュバスなのに男性と手を繋いだだけで食事を終えるライゼ。インキュバスのアーベンにお叱りを受ける。二人は大ジジババ様の元へ。そこでソロモン72柱の封印が解けた事、再度封印するためには二人の協力が必要な事、ライゼが72悪魔にチュ~しないといけない事が説明される。手始めに柱の一人、フェニックスの鳥が現れた。嫌がるライゼの頭を抑えつけるアーベン。ここで冒頭シーンに繋がっていく。

全編通して勢いが素晴らしい。コメディである事がよく分かる冒頭。
サキュバスのライゼは「可愛くある事」に全力でエッチが苦手。アーベンはそんなライゼにサキュバスらしさを求めるものの、扱いはかなりヒドイ。それにしても、72柱は悪魔なので性交は無理でもチューはOKという発想には恐れ入る。そりゃそうか、悪魔であっても捕食する口は必ずあるけど、あっちの方は……皆まで言うまい。
ただ、ライゼが72柱とチュ~する意識が低すぎる設定だと、今後の展開が不透明に思えます。一癖も二癖もある72柱たちを、どうライゼが(アーベンが?)攻略していくかが見所の物語だと思うけど、そこがちょっと想像しにくくなる。毎回アーベンが力ずくでキスさせようとするのも無理があるし、だからこそどうキスしていくのか、続きを読みたい気分にもなります。

第2会場

2-02 俺のターンはジ・エンド!?~乙女ゲームで俺だけデュアルシステムな件~

メタなモノローグから始まるコメディ作品。リンは一か月ぶりに男になって、カケラを集めなければならない。夜の学生寮の屋根に上り、NINJAスーツで探しに行く。
この世界はNPCがいて、決まりきった行動しかしないはずなのに悲鳴が聞こえた。イベント発生。重要キャラ・レナが八本足の怪物に襲われている。怪物の後頭部に刺さってるのはカケラ。窓ガラスを破って日本刀でしとめるリン。カケラは身体の中に入って、1/10のカウント。頭痛が酷くなり自室に急いで戻ると気絶。朝になると女の方のリンゼルになっていた。という書き出し。

毎日女性で、1か月に1回(しかも夜)だけ男になる主人公が、カケラを求めて怪物と戦う乙女ゲーが舞台。なかなかに要素満載で渋滞していますが、それを長文で説明するわけでもなく、ちゃんとエピソードで説明してるところに高い技量を感じます。R15クラスの主人公モノローグは好き嫌いが分かれるところですが、下ネタ作品として考えればいいツカミになってるかも。
でもストーリーの建付け的に、「女バージョン」「男バージョン」の話をリンクさせるの大変そうだなと思う次第。次話は「女バージョン」でしょうから、セットでの相乗効果がどんなものか、読んで見たいなと思いました!

2-05 勇者の魔力がゲロヤバイ!

転生した勇者と敵ハボックとの戦い。勇者は次々と宝玉を解放し、召喚術でハボックを倒そうとする。
一方、天上界では神様たちが大慌て。勇者の召喚術で誰が出ていくかで大揉め。そんな中「竜鱗の神ヴァルフレア」がご指名となり、漆黒の渦に飲み込まれていく。
勇者は召喚したヴァルフレアにブレスを吐かせるが、どうみてもゲロ。それでもハボックたちを燃やし尽くし、ヴァルフレアは天上界へ帰っていく。
天上界では帰還した彼の介抱にてんてこまい。どうやら勇者は魂がハボックに汚染され、その魔力がゲロ吐くほどの劇物と化してしまった模様。
これからもゲロヤバな召喚術に耐えて勇者をサポートしていく天上界なのだが……。という第1話。

ストーリーの建付けが明確で、対比を上手く表現できてるゲロヤバ物語。シリアス(地上)→コミカル(天上)→シリアス→コミカルの勢いが笑いを誘うが、これずっと同じ構図だとさすがに飽きられるので、2話以降どうするんだろう? とちょっと心配になる。まあ書き出し祭りで次話の心配は野暮というもの。分かりやすくコメディに振った書き出しだなと思いました!
少しだけ意見を述べさせてもらうなら、あらすじでこの展開は読めてしまうので、ちょっとだけ読者を裏切る仕掛けは欲しかったなと。意外な展開がちらりとでも見えたりしたら、2話以降の期待度は相当違うと思います!

2-23 魔女を脱がせてはならぬ

とにかく、魔女の黒いローブは脱がせてならないと、再三再四注意される冒頭からスタート。主人公エドは、手つかずの木の実や野草を取りに「魔女の住処」とされる山の麓に向かう。しばらく進むと森の妖精と見間違うほどの美少女と黒猫に出会う。
食べ物を採取しに来ただけだというと、少女は籠に集めた木の実等を置いた。自分が去ったら持っていけという。しかしそこにイノシシが出てきてエドを襲う。美少女はエドを助けるために割って入る。意識を失う直前にエドが見たのは、彼女のローブの下に隠された美しい魔法だった。というお話。

良質なボーイミーツガール。ありがちと言えばそうだけど、いつの時代も冒険の始まりを予感させる王道展開は出会い。書き出し祭りに持ってこい!
魔女は全ての災厄の原因とされていて、特にローブ下にある魔法は世界も滅ぼすという設定。「脱がせる」、「ローブの下」という単語に、男なら誰しもぐへへな展開を感じ取るものの、本編ではエッチ要素皆無。すみません魂汚れきってて。でも2話以降にそういう展開を期待せざるをえませんので、よろしくです!
個人的には「魔女脱がすまじ」の説明パートが冗長だったと思いました。その文章をボーイミーツガールにもっと振ってあげたらバランスよく、また読者が読みたいシーンをぶ厚くできると思いました! 多分2話以降に二人のシーンはいっぱい書かれるのでしょうけど、できれば書き出しでもう少し読みたい。特にローブの下に何があるのか、ぐへへなところを!

2-25 人喰らう婆、不死の狂女に出遭うこと。

時代劇。人を喰らう婆のところに、一人の若い女が出向く「おまえ、人を喰らうというのは本当か?」
老婆は訝しむが、自殺志願者なのかその場で自害したので老婆は食べた。しかし翌日、その女が現れる「ちゃんと残さず食ったか?、私は不死だ」と。
それは七日も続き、何度食べきっても女は必ず蘇る。これ以上は時間の無駄だと女が去ろうとすると、老婆は追いすがる。しかし老婆はやせ細り、飢餓状態になっていた。喰った女が復活する事により、喰った事にならない状態となっていたのだろう。
若い女は「ラクダが竜を食えるはずもない」と言い残し、去っていく。

一話完結かと思わせる、昔話的書き出し。人喰い婆が女を喰う、というシーンがグロくない程度の描写で収まってる事もあり、何度も蘇る女と今度こそ喰いきってやるという老婆がコミカルな関係に思えてくる。
オチは前述通りだけど、ならばなぜわざわざ老婆に自分を喰わせたのか。本当に不死の女は死にたいと思っているのか。女が蘇った時点で腹が満腹になってないと、老婆はなぜ気付かなかったか、などの疑問点は残る。残るが、その昔話風筆致に圧倒されて、些細な事が気にならなかった。読ませる力のある作品だと思う。
それにしてもこの作品は、2話以降どうなっていくのか。不死女の目的、行動原理に興味が尽きない。その辺りが匂わせ程度にも描かれていたら、一話完結感も薄れ次話への期待感もぐっと増すように思いました!

第3会場

3-14 後宮のお茶汲み係

後宮にお茶汲み係として採用された15歳の少年・玄成。皇帝が才ある者を傍に仕えさせる役職が、いわゆるお茶汲み係なのだが、玄成は特に文武に秀でたところもなく、本当に茶を美味しく淹れる技量のみでなったようだ。
そんな玄成が皇帝の私室に入る時に呼び止めたのが、妓楼生まれ妓楼育ちの15歳・鈴溟(りんめい)。年に似合わず「後宮の遣り手婆」と噂される彼女は、子を宿しそうな女性を予想する術に長け、皇帝の子を宿しそうな女性を閨に通す役割。先日、宮女の死体が井戸から上がったとの事で、新参の玄成にも一声かけた模様。宮女は他殺か自殺かも分からないとの事。
男色を勘ぐる鈴溟を背に、玄成は皇帝の私室へと入っていく。で書き出し終わり。

いわゆるロリババアな鈴溟と、お茶汲みしか脳のない少年玄成。書き出しでは、井戸に女が落ちて死んだ伝聞が噂として出たくらいで、事件らしい事件は起こらなかった。しかしお茶汲み係という役職を、読者に飽きさせない筆致で説明しているところは、技量の高さが感じられた。また、ロリババア鈴溟のキャラクターもオリジナリティが高い。その言動はまさに遣り手婆で、可愛らしい少女(であろう)見た目とのギャップが凄く高い。この二人がバディを組んで、井戸落下女事件の真相を解き明かしていくのだろうと期待する。
反面、玄成のお茶汲み係以外の能力が一切語られなかったのが気になった。彼にはヒーローたる資質があるはずで、それが少しでも垣間見れば、より一層次話が楽しみになるんじゃないかなと思いました!

3-20 夢入り少年は夢喰いバクの夢を見る

主人公・絃(いと)は人の見てる夢に入ってしまう体質。ある日クラスメイト女子の夢に入ると、夢の主を食べてる化物に出会う。見つかった絃も食べられそうになったところで目が覚める。
翌日、学校で夢の主のクラスメイト女子を見ると、ピンピンしてる。すると麦と名乗る女子生徒が絃に話しかけてきた。
麦曰く、自分は悪夢を喰らう事ができる体質だという。しかし人の夢に自力で入る事ができないらしい。だから絃の協力が必要だという。見返りは、麦の夢に入る体質を喰らう事。これで安眠が約束されるそうだ。
麦はその提案を受け入れて……で第1話が終わりました。

文章力が高く、とても読みやすい印象を持ちました。ストーリーの建付けも興味深いもので、悪夢を喰らう少女と、人の夢に入り込んでしまう少年の話。関連性があるようでないような、そこに興味を惹かれました。
その反面、麦の行動原理・目的が全く見えてこない事と、絃も人の夢に入ってしまう体質を、慣れて「またか」と思ってる事が気になります。このままだと、絃は麦に協力する動機が薄いように感じてしまいます。
この辺り、第2話からじょじょに明らかになっていくのでしょうけど、書き出しでもそれら片鱗が見えていると、次話への期待がより膨らむのではないかと思いました!

3-23 遠ざかっていく花言葉が僕を呼ぶ

佳澄さんはいつもアルストロメリアの匂いがする。から始まる本文(二行目だけど)僕=主人公は、佳澄さんの公認ストーカーのようだ。酔った彼女を迎えに行く役を仰せつかっている。ストーカーなので彼女の持ち物を奪ったり部屋を盗撮してるみたいだけど、彼女自身を襲う事はない。ストーキングはガーデニングと一緒だという。佳澄さんはストーカー賢者と言っていた。
泥酔した佳澄さんを家に送り届けた翌日、佳澄さんは無断欠勤した。スマホGPSにも反応がない。彼女宅に行くとリビングで男が死んでいる。昨日の合コン相手だった。部屋にしかけた盗聴器も全部外されている。
と思ったら、スマホに佳澄さんから5回コール後切断。これは迎えに来ての合図。早く迎えに行かないとな、で、主人公は佳澄さんの部屋を後にした。
と、ここまでが第1話。

非常に面白いというか、オリジナリティある設定だと思いました。公認ストーカー。ストーキングとガーデニングは一緒。理解できるようでできない、微妙な立場。それを佳澄さんが容認してるところが斬新過ぎる関係だ。しかもストーカー行為はガッツリ盗聴器や監視カメラ、GPSを利用し、合コンの様子を盗聴し後でそれを聴いたりと、かなりの本格派。
あと、主人公の名前が出てこない事も気になった。これも何か意味があるのかもしれないが、できれば出した方がいいと思う。こうして感想書く時も、主人公の名前が無いと書きにくいし、後から思い出しにくい。
佳澄さんとの連絡専用スマホが五回連続で鳴って切れたなら、非常時だし掛け直せば? と思わないでもないけど、非通知だったのかな?
サスペンス調ストーリーだけに、第1話だけで謎がてんこ盛りだが、二人の奇抜な関係性だけで次の話が読みたくなる書き出しでした!

第4会場

4-03 南無・ロック

タカネが交番で警官と話す場面からスタート。事情徴収を受ける事で主人公の身の上を説明する手法、嫌いじゃない。どうやら引っ越してきたアパートが大家さんのせいで鍵が閉まったままとなり、財布と貴重品も盗られた模様。
元々主人公は不幸体質のようで、一念発起都会に出てきたのに失敗続き。
交番を飛び出しギターと数珠を手にぼけっとしていると、南無・ロックのベーシスト・ギョクロに話しかけられる。サポートギターしろと。
ここで第1話終了となりました。

構成も文章もとても上手い。主人公タカネの説明に事情徴収シーンを持ってくるところなんかは、映画の始まりのように感じる。不幸体質のタカネちゃんは読者の同情を誘うキャラだし、がんばってほしいなと思う。さらにギョクロもザ・バンドマンなアウトロー雰囲気だし、この二人の間に恋愛感情が一切なさそうなのもよい。硬派なロックバンド・ストーリーが期待できる。
ただ書き出しとして、あらすじ以上の驚きがなかった。できれば少しでもいいからタカネのギターの才能なり、音楽的なセンスを感じさせるシーンが欲しかった。読者ターゲットは音楽好き、バンド好きになるだろうから、そこに刺さる何かが書き出しにあると、もっと良かったと思いました!

4-05 イリヤの遺言

三十歳の姉は、結婚したくて仕方ない。免許センターで知り合った彼氏イリヤは、イケメン高身長高収入で性格も優しい。これは結婚するっきゃない。おまけに父はステージ3のガン患者。「孫が見たい」と言われれば、これはもう待ったなし。
と、弟で医者の諒くんと話してると「そいつは結婚詐欺だ」と断言される。
理由を聞くと、免許センターの更新は誕生日一か月前後しかできないのに、イリヤの誕生日を祝ったのは、その期限が過ぎて半年くらい経ってから。誕生日をウソを吐く奴なんて、結婚詐欺師以外ありえない。との事。
ぐうの音も出ない姉だが、この際詐欺師でもいいと開き直る! 姉の発言を聞き、諒は計画を立てる「じゃ、逆にイリヤに結婚詐欺を仕掛けよう!」
相手はお金が目的、こっちは戸籍が目的。金持ちに見せかけて5年も結婚すりゃ、親も満足子供も産めて姉も満足、イリヤはほとんど金が入らず不満足。
でもイリヤは、訴えようにも訴えられない。結婚詐欺の目的が婚姻届けなら、詐欺として被害を証明する事は不可能。
よし、計画を実行に移そう! で書き出し終わり。

これは面白い。詐欺師を見破る理由として、免許センターの更新が誕生日前後1か月しかできないというシステムを使うのは、フットワーク軽い謎解きとして書き出し向き。軽い、上手い、安いで説得力が高い。
更に結婚詐欺師に逆に詐欺を仕掛ける、しかも詐欺の対象は婚姻届というところも斬新です。そもそもそれは結婚詐欺なのか? という疑問は残るにしろ、金持ちを装うのは結婚詐欺師にとって詐欺同然。痛快な意趣返しが期待できます。
そんな中、タイトルがイリヤの遺言という事なので、なんだかんだ幸せな結婚生活を送ったイリヤが死んだ時、実は全部気付いてたよみたいな話で終わるのでしょう。分かります。これはもうハピエン確定事項。
書き出し1話で軽い謎解きもしちゃう、ミステリ金字塔の匂いがプンプンしてきますね!
一つだけ気になった点は、姉の名前が一切出ない事。これも何かの伏線かもしれませんが、さすがに読者も気づくので、主人公の名前は書いた方がいいのではないかと思いました!

4-09 書き出し祭りの魔物、かく語りき

9/30、書き出し祭りの魔物がお前(読者?)の後ろで拍手喝采するシーンから始まる。惨敗に終わった今回だが、まさかのタイトル被り。おまけに提出タイミングも被って連番になっている。更に総合優勝は、被った相手側。煽りに煽る魔物だが、「お前」に声は届いていない模様。
最終的に「お前」が出した結論は「パンチが足りない」
奇抜なアイディアを次々出す「お前」だが、そう簡単に書けはしない。最後に見つけたアイディアが……。というメタ話な第1話。

これはなんというか、内輪ネタです。小説の書き出しとして見れば……って見れませんけど、強引に見てみると感想は、2話目以降がきつそうだなと。
それでもいいところを挙げていけば、なんだかんだこの魔物、フレンドリーなんですよね。「お前」を応援してくれてるわけで、爆死の結果が出てバカにする事はあっても、それでも前向きに次回の対策を立てる「お前」に寄り添うスタイル。魔物の声が「お前」に届く事はないという哀愁付き。
ある意味、こういうメタ作品がどこまで得票数を確保するのか。それすらもこの物語が長編小説化した時にラストシーンに描かれそうで、それはそれで良質なループモノになるかもしれない。
とにかく、とても興味深い作品でした!

4-20 都道府県獣

富士山五合基地から飛び出した戦闘機。相手は県獣ギフ。全長31km、高さ13.70mの蛙の化け物だ。
日本は富士山だけが取り残され、後は全て都道府県獣となってしまった世界線。外国からの援助を頼りに決戦を挑む日本軍。俺こと主人公は、ギフの口の中に飛び込み潜入成功。化物の中は町になっていた。いきなり前提が変わって、始まる「はたらく細胞」みたいな世界線。助けてくれた女の人に、ギフの名産養老サイダーやらを振る舞われるが、知事の元に案内される事に。
主人公の目的は、県獣の心臓部である県庁(コア)、そこにいる知事を討伐する事だった。というトンデモ話で第1話終了。

これはアイディア賞。発想は素晴らしいが……2話以降このインパクトに耐えられるか不安になってくる。ちなみに、岐阜県の広さは10000平方㎞強らしい。県獣ギフは13.70 x 31kmと、わりかし小さい。あと、県境と書いてバリアと読ませるセンスに脱帽する。
県獣の体内に入ると、いきなり働く細胞が始まるのも斬新だった。おまけに知事を倒さなければならないってのも、いきなり怪獣戦からスケールダウンする感じがたまらない。終始アイディアに驚かされっぱなしだった。
それにしても、この物語も主人公や、助けてくれた女の人などの固有名詞がほとんど出てこない。廃藩置県もあらすじだけで、本文に出てこなかった。2話目以降の期待はこういった伏線回収がどうなされていくかもあると思うので、書き出し祭り特化型でも、少しだけでも触れて欲しかったように思いました。

終わりに

以上僕が気に入った、気になった、そして感想依頼もらった作品の好き勝手感想でした。
あまり指摘入れないつもりでしたが、「入れてる/入れてない」で募集かピックアップかが分かれてもしまうのも申し訳なく、各作品少しだけ言及させて頂きました。

今回初めて書き出し祭りに参加して、思うところは、女性作者が多いなという事。特に感想書いたりしてくれるのも女性が多く、必然女性向け作品は強いのではないかなと感じました。
そうはいっても、投票の男女比でいえば男性の方が多いかもしれませんし、最終的な結果にどれくらい反映されるかは分かりませんけどね。

九月の三連休は書き出し祭り作品を読む事と、感想書く事で手一杯になってしまいました。でもその分気付きも多く、自作への感想も色々もらえてる事もあって、有意義な三連休を過ごせてるのかもしれません。

書き出しって、本当に難しい。
だからこそ、そこに思いを馳せる事は作者として大事で、他の人の書き出しをたくさん読む事も勉強になります。
第19回書き出し祭りは、9/30までです。皆さんもぜひ一度、たくさんの書き出しを読んで見て、自作の書き出しを見直してみてはいかがでしょうか。

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