若手弁護士のキャリア考察その⑤〜テレビ局編〜

そしてテレビの世界へ

メールの送り主は在阪テレビ局で弁護士を募集しているというものでした。関西でメディア系の求人は珍しいこと、昔からテレビが好きで、特に子供の頃から好きだったアニメを制作している局だったこともあり、これは面白そうだなと感じました。また日弁連のサイトで検索してみたところ民放テレビ局で働く弁護士は関西で2人しかおらず、東京を含め全国で10名もいないという状況でした。これは転職の際に重視した①面白いと感じる業務②キャリアの希少性というものをみたすものだと感じ、この求人に応募することを決めました。
なお、テレビ局への転職について信頼できるエージェントに話したところ、あまりオススメはしないという回答でした。当時はyoutube等の動画配信が台頭し、いよいよテレビが斜陽産業となっていくと言われていた頃で、そのアドバイスは間違いはなかったと思います。
確かに、エージェントが薦めるFinTechやIT等は右肩上がりの業界ですが、そこを目指して大手事務所を含む多くの弁護士がしのぎを削っており、競争が激化することは避けられないと感じました。私は希少性というものがいずれ武器になると考えていました。

そして幸運にも内定をいただき、メーカーからテレビ局に転職することが決まりました。

新たな出会い

【令和】という元号が発表された日、テレビ局に入社しました。入社後2ヶ月間は、一回り近く年の離れた新入社員と一緒に中途採用組も研修を受けることになりました。年の離れた同期と仲良くなれるのか心配でしたが、ちょうど入社直後に選挙があり深夜2時頃まで一緒に開票所で取材のお手伝いをしたり、何年ぶりかわからない程久しぶりにカラオケでオールしたりで、結構打ち解けられたかなと思っています(なお最近Twitterでそれは年下側が気を遣っているだけだという投稿をみました)。
研修の2ヶ月間は、報道、制作、営業等のOJTを含め様々な経験をさせてもらい、司法修習の実務修習のようで非常に楽しかったです。中途採用でここまで研修に時間を割いてくれる企業は珍しいのではないかと思いますが、法務知財部に配属された後も他の部署に話しやすい同期がいることは、仕事をする上で非常に有難かったです。
また、愛社精神を育むという意味でも効果があったのかなと感じました。前職では中途採用組は初日に事務的な業務説明を受けて、2日目から法務部で普通に仕事をしていたので他部署に知り合いもおらず、結果的に【助っ人外国人】のような状態になっていた気がします。

テレビ局での業務

研修を終え法務知財部での業務を開始しました。テレビ業界に興味はあったものの知財関連は全くの素人だったため、必死で著作権法の書籍や会社に残された過去のセミナーの資料等を読み漁りました。契約審査についても、番組制作契約や映画の製作委員会への出資契約等、メーカー時代には扱わなかった契約類型も多く興味深いものでした。また、オブザーバー的に番組の監修にも携わることもでき、充実した1年目を過ごしていました。
ところがここで大きな転機が訪れます。そう新型コロナの発生です。法務知財部等の管理部門は可能な限り出社を控えテレワークということになり、週1.2回の出社という時期が続きました。世間でも巣篭もり需要ということで、Netflix等の配信事業者がますます勢いを増し、いよいよテレビは終わるのでは…という危機感をもつ者も増えていたように感じます。
その大きな流れの中で、法務知財部は同時配信を含めた配信事業やその他の二次利用ビジネスを支える重要な役割を果たすことになります。今後も予想される著作権法改正や著作権の集中管理制度に対しては、動向を把握して必要ことはパブコメで意見する等の対応が求められています。テレビ局はコンテンツの権利者でもあり、利用者でもあることから、ますます法務知財の重要性は高まることが予想されます。

今後のキャリア

さて、ここからは将来の話です。テレビ局での経験がどのように活かせるのか私なりに考えてみました。
まず、テレビはネットに抜かれて斜陽化したと巷では言われています。確かにそうかもしれません。しかし、テレビ局も同時配信や配信オリジナルコンテンツ等に力を入れており、将来的には放送と配信はボーダーレス化していくのではないかと感じています。さらに、テレビ局が有する過去のコンテンツの価値というのは侮れないと思います。過去のアニメやドラマは上手に二次利用すればまだまだ収益を生みますし、ここにNFTやメタバース等の技術を組み合わせれば新たなビジネスが生まれるかもしれません。
また、ネットの力が強まれば放送に準じた規制が必要だという声が高まることが予想されます。それが法規制なのか自主規制なのかはわかりませんが、放送番組のコンプライアンス基準の知見がネット配信でも必要となる可能性はあると思います。

実際、世界的な配信事業者やコンテンツメーカーから転職の話をされたこともあり(なお現状転職の予定はありません)、自分のキャリア選択は今のところ間違っていなかったのかなと感じています。10年後、20年後どうなっているかはわかりませんが…

終わりに


ロースクール時代からの友人に、テレビ局のインハウスに転職すると伝えた時、「ほんまコロコロやりたい事変わるな」と言われたことがありました。確かに、子供の頃からなりたいと思い続けて今もその仕事を続けている人は凄いと思います。もっとも、Mr.ChildrenのAnyという歌に以下のような歌詞があります。

「今僕のいる場所が 探してたのと違っても
間違いじゃない いつも答えは一つじゃない
何度も手を加えた 汚れた自画像にほら
また12色の心で 好きな背景を書きたして行く」

修習生や弁護士3年目まであたりは自分自身のキャリアに迷うことが多いのではないかと感じ、少しでも参考になればと自分のキャリアについて書いてみました。
私もそうでしたが、様々な制約で当初思い描いていたキャリアが叶わなかったとしても、その都度好きな背景を書き足して自分なりの答えを導けばいいのです。私もまだまだ自分自身の自画像を汚していこうと思っています。

当初の想定より長くなってしまいましたが、これで完結とします。少しでも参考になれば幸いです。

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