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あの日追えなかった背中

これは「エフォートレス思考」という
一冊の本を巡る私だけの話である。

この本との出会いは去年の9月。
エリアマネージャーになったその月に
初めて臨んだ本部会議でのことだった。
会議の前泊で、初対面の先輩と相部屋をした。

前例のない形で昇進したことに有頂天になり、
自分の仕事の目的は何か、
それを達成するための手段は何か、
何一つ答えを持っていなかった私は
この先輩との出会いで大きく変えられた。

社会人になってから出会った先輩で
初めて「この先輩の足元にも及んでない」と
嫉妬することすらできない、
諦念を与えてくれた先輩である。
思考の深さ、言語化の早さ、
具体と抽象の出し入れなど、
全てが雲の上の存在のようだった。

そんな先輩とのべ5時間の対話をする中で、
読書にまつわる話が出てきた。
そこで推薦していただいた未読本が
「エフォートレス思考」だった。
本部からの帰路で書店に訪れ、
立ち読みをしてみたが、
噛み砕ききれない内容が多かった。
結局購入をあきらめて、7ヶ月が経った。

先週の土曜日、来月の準備ということで
2年分のエリア実績と睨めっこをしていると、
5月の数字は極端な動きをすると気がついた。
褒められる気満々で担当の上長に報告すると
「今から対策しても遅いです。
今対策できるのは9月の数字だよ」
と即答された。悔しかった。
と同時に、好奇心が湧き上がった。

「學びて思はざれば則ち罔(くら)し。
思ひて學ばざれば則ち殆(あやう)し」

論語

上記は私が好きな論語の教えである。
知識を得るだけでは力にならず、
自分で考えるだけでも独善に陥るため、
多くの知識を得ていくことと、
自分なりに落とし込んで考えることの
バランスを取らないといけないという考えだ。

最近は歴史上の偉人の失敗や成功から
リーダーシップや具体策づくりを学んでいた。
そして過去のエリアの数字を見て
きっと来るであろう未来への打ち手を
先回りして考えるようにしていた。
しかし、今の自分が見ていたのは
変えられない未来だったということである。
隕石が近づいてくると知ってから
火星への移住の準備を始めるようなもので、
手遅れだったのである。

経営者として結果を残すには、
まだ勉強しないといけない考え方があると
まざまざと突きつけられた。

そこで蘇った記憶があの日の先輩である。
あの人の背中の眩しさから、
目を背けてはいけないと思った。
そしてエフォートレス思考を読み抜いた。
「今の俺には何が足りないんだ」と。

本書の主張は意外なことだった。
一言で「無駄に頑張るな」ということ。
最もシンプルで、最も簡単で、
最も価値のある課題を解決することを
本書では推奨をしている。

印象的だったのは、本が散乱して
家が片付かない女性のエピソードである。
彼女は本棚を買えばいいと分かっていたが
どういうわけか購入に踏み切れていない。
専門家が聞くと彼女が本棚を買わない理由は、
家に合う本棚のサイズが分からないからだった。
彼女が求めていたものは本棚ではなく、
メジャーだったのである。
それに気がつくことが1人ではできなかった。

問題の発端がどこにあるのかを
正確に理解することが重要なのだ。

このエピソードと同時に先輩の姿がよぎる。
目の前のことに対して、多角的な発想を持ち、
誰でもできるように簡単な言葉で伝えていた。

本書の主張はもう一つある。
「足りないものではなくあるものを見よう」
先輩と何が違うのか考えていたが、
先輩が私を褒めてくれたことがある。
「相手の話を吸収して、自分の言葉に
噛み砕いて伝えるのが異常に上手いね」と。

楽しいことばかりじゃないかもしれないけど、
尊敬する先輩の足跡を少しでも踏んで歩き、
新しい知見や出会いを吸収し、
その先で幸せにできる誰かがいるなら、
喜んでこの道を歩き続けていきたい。




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