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暇を持て余し、山に登った話

コロナがやって来て僕の生活も大きく変わった。
毎日のようにやっていた残業もなくなり、平日休みが増えた。
最初の頃は部屋を片付けたり、録画した番組を観たりしていたのだが、いよいよやることが無くなってきた。暇を持て余した僕は山を登ることにした。

徒歩2分で山に入れる物件がそんなに多くないことは簡単に想像出来る。
しかし我がアパートは圧倒的に少ないであろう、徒歩2分で山に入れる物件だった。忙しかった頃は考えもしなっかた、山登りに挑戦した。

山の中は驚くほど静かで、鳥の泣き声しか聞こえなかった。
そんな中を黙々と歩いた。一言も発せず、ただただ歩いた。
山道には崖っぽい所もあり、足を滑らせて落っこちでもしたら、誰も助けに来てくれないだろうな。落ちてる途中にスマホもどっかに行ってしまって、飢えと寒さで静かに死んでいく自分を想像すると怖くなった
今日山に登ることは誰にも話していないし、会社も休みなので僕が会社に居なくても誰も気にかけない。そんな事を考えていたら悲しくなってきた(あと少し惨めにも思えてきた)。

しばらく歩くと反対から人が歩いてきた。
theハイキングみたいな格好をした、70代位の男性だ。
僕はといえばジーンズにロンTと、ちょっとコンビニにでも行くかのような格好だ。こんな格好で山に入ったら「山を舐めるな」とか怒られたりするのだろうか?とか考えていたら直ぐそこまで男性が近づいていた。
「山ですれ違う時は挨拶するのがマナー」と言うことを思い出し、ビビりながら「こんにちは」と挨拶した。小さな返事が帰ってきた。
怒られなかったことに一安心して、その後はすれ違う人皆んなに挨拶し山頂を目指した(割と警戒されている印象を受けたので、山にも自分の居場所は無いのかも知れないとか考えたりした)。

登り始めて40分ぐらいたっただろうか。何とか山頂にたどり着く。
ちょっとした達成感と、帰りは来た道だから迷うことはない。そんな安心感と共に山を下りることが出来た。

今までやってこなかった。山を登ると言う行為だが、いざやってみると日常では感じることの出来ない解放感と死んじゃうかも知れない恐怖を味わうことが出来た。この感覚のやばい版が海外の有名な山だったりすのだろうか。「もっと高い山に登りたい」とか、「雪山に登ってみたい」とか思ったりするのだろうか。
でも僕はこの裏山で満足してしまった。コンビニに行く様な格好で、ふらっと登れて、もう会わないかも知れない人達に挨拶するこの山で満足してしまった。
なので僕が山で死ぬことはないはずだ。

何か美味しいものでも食べます。