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医学部生のお金事情。お医者さんの実体験をもとに。

「頭良いんだね」「お金持ちなんだね」

医学部と名乗ると、まず言われる常套句であり、親戚のおばさま方からの「私が病気になったらタダで見てね」という決まり文句と並んで、医者になるまでの間に耳タコになる台詞です。

こんなくだらない言葉に持ち上げられ、学生のうちから「頭がよくお金持ちのお医者さん」気分になり調子に乗ってしまう学生も少なくないわけですが、そもそも医学部に行く人間の頭が良いとか、お金持ちだとか、本当なのでしょうか。

まぁ、結論から言ってしまうと驚くほど事実ではありません。

プライドの高いお医者様方の琴線に触れ炎上しないよう一応言っておくと、中にはもちろんお育ちがよく頭脳が明晰な方もいるわけですが、世間が思うほどパーフェクトヒューマンは多くありません。

ただ、私は二つの火種を同時に燃やして大炎上したいわけでもないので医者の「頭の良さ」というもののくだらなさに関してはまたどこかで語ることとして、本日は後者、お金持ちが多いのか。そして医者というのはお金持ちでないとなれないのか、というところに関して考えていきたいと思うわけです。

私立大学医学部の何千万という学費の高さは様々なところで散々語り尽くされており、また奨学金を借りたって気楽にいける場所ではないので今回は国公立の大学の医学部に絞って話をしていこうと思います。というか、私の実体験を振り返りながらの話になるので多くは私が卒業した、東北の遥かなる大地に小さくそびえ立つ秋田大学の話になることでしょう。

なかなか医学生のお金事情を実名で大学名まで出して語っている人も多くはないかと思いますので、地方医学部への進学を検討中の方やその保護者の方々には少し、そのリアルをのぞいてもらえるいい機会になるかなと思っています。

私が受験をしたのはもう13年も前になるので、まだセンター試験があった頃、そして今ほどネットで受験の情報も得られなかった頃です。

上司から「僕たちが受けたときはセンター試験なんてなかったからねぇ」と言われて「おじさんだなぁ」と思って育ってきた私が、「僕たちが受けたときは共通テストなんてなかったからねぇ」と言うおじさん世代になってしまった、時の流れの残酷さを噛み締めながら少し振り返ってみます。

当時、地方の医学部を受験すると言った私は、多くの人から反対されました。
「地方卒だと卒業後に医局の問題とかで就職が不利になるらしい」「受験も地元の子が優遇されるらしい」「一人暮らしはお金がかかる、専門書もすごく高いらしい」。私を地方に出したくない親族や、地元の有名大学への進学率を上げたい教師達から多くの嘘かほんとかわからないアドバイスをもらいましたが、当時はそれを確かめる術もありませんでした。これだけ多くのネガティブな情報を入れられると、18歳の素直な少年少女はそれだけで地方医学部への進学を諦めてもおかしくありません。

しかし、私の著書を読んでくださっている方は知っているでしょうが、如何せん私は心臓に障害があり、いつまで生きられるかもわからないのにそんな何年も先のことを考えてられるか、と思っていたので1年でも早く医者になれるよう、受かる可能性が一番高いと考えていた秋田大学を断固として受験しました。

結果としてなんとか合格した訳ですが、さて、合格したらしたで、こないだまで反対していた人間達から掌を返したように「医学部に行けば家庭教師のバイトでウハウハらしい」、「医学部は他の学部からモテまくりらしい」なんて希望を持たせる話が次々投げかけられたわけです。まぁ少なくとも後者に関しては、今現在独身の私をみて貰えば事実だったかどうか察していただけるでしょう。

ここまでの流れをみるだけでもお分かりなように世の中には医学部に行ったことのない人による医学部についての話が溢れすぎています。ドラマ一つとってもそうですが、みんな白い巨塔に始まり、金と権力が集まりそうな話をするのが大好きなのです。よく週刊誌のライターさんが言っていますが結局どんな崇高なネット記事よりもアクセスが多いのは金の話とゴシップなのです。

さて、先ほども言ったように「金持ちじゃないと医者になれないのか」という話を結論から言ってしまえばもちろんそうではありません。しかし、残念ながら金持ちの方が圧倒的になりやすいのも事実です。

受験に必要な学力を身につける学校や塾の費用を賄えるや学費が払えるかどうかということはよく議論されますが、忘れられがちな点としてチャンスの数があります。

医学部受験において、金持ちとそうではない人間では、同じ学力を持っていたとしてもそもそもチャンスの数が何十倍も違います。多くの人は国公立の医学部を前期後期受けるだけでも現地までの旅費や受験料に頭を抱え、なんとか2回試験を受けるわけですが、それを横目に、全国各地の私立医学部を受けまくり、全落ちしても浪人し高い予備校に通い何年もかけて何十回も受験する人がいます。

そもそも落ちた時に浪人するお金もないので確実に大学に受かるため医学部を諦め他の学部に進学するしかない人はチャンスすら与えられません。

運転免許の試験に落ち続け、何十回目かの試験でようやく受かった芸能人のニュースに「恐ろしい」「そんな人間に免許を与えていいのか」とコメントしている人が多くいましたが、医学部のこういった事情には誰も何も言わないのは不思議なものです。入学後の進級や国家試験において同じようなことがあり、その度にお金の話もついて回るわけが、それこそそうやって何年もかけて受かった方々の琴線に触れ炎上しそうなので今回は掘り下げずにいきたいなと思っています。

さてでは、なんとか医学部に入れた場合、実際に地方で医学部生として生活すると卒業までどのくらいのお金がかかるのか。私が6年間どんな生活をしていたのかを通し見ていきましょう。

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