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営業マンよキャプテンたれ! ~ 我々はいかにしてチームのパフォーマンスを高めることができるのか ~ (日本広告業協会 第26回懸賞論文 入選作〔1997年〕)


1.はじめに~本稿の目指すもの 

 広告会社の営業マンに、得意先から「1ヵ月後、競合プレゼンに参加せよ」との依頼があったとする。その際、まず彼がなすべきことはプレゼンのための「チーム」の編成であろう。彼は、以前からの担当スタッフを中心 に、そのスキルやスケジュールを勘案し、「チーム」のスタッフィングを行うだろう。
 さて、多くの広告会社で、日常的・慣習的 に「チーム」という言葉が使われていることと思う。そして、営業マンはその「チーム」において主に、舵取り役、進行役、根回し役、連絡係、出納係などの役割を務めている。
 本稿で私は、こうした役割を担う営業マン が、自分の属する「チーム」のパフォーマンスを高めるために何をなすべきかを、論じてみたい。「チーム」の理想を探れば、論は企業の組織構造や人事・評価制度の改革にまで 及ぶはずだ。しかし本稿では敢えて、一般的な広告会社の組織構造においても可能な、現実的な対応策を考察し、提言を行ってみたい。

2.広告会社における「チーム」の現在 


●我々の「チーム」は本当に「チーム」か? 
 本論の前に、経営学者やコンサルタントが定義づける「チーム」と、広告会社の日常的な「チーム」との差異を明らかにしておこう。
 まず、経営学者P.F.ドラッカーの言はこうだ。「現代の組織は、知識専門家による組織である。したがってそれは、同等の者、同僚、僚友による組織である。(中略)上司と部下の組織ではない。(*1)」と。このあと文章は「それ(=現代の組織)はチームである」と続く。また、マッキンゼー社のディレクターは著書の中で「チームとは、共通の目的、達成目標、アプローチに合意しその達成を誓い、互いに責任を分担する補完的なスキルを持つ少数の人たちを言う。(*2)」と定義づける。
 翻って、我々の「チーム」はどうだろう。最も広義 の「チーム」はひとつの得意先の担当者全員をさす場合だ。この場合は集団の通称として「チーム」という言葉あてているだけであり、本稿では論ずる対象にしな い。ここで対象にする「チーム」は、競合プレゼ ンの勝利やキャンペーン成功などの具体な目的を持った「チーム」である。
 この場合の「チーム」は知識専門家の集団である(例えばSPやデザインの専門家)。また、各自に職制上の肩書はあっても明確なヒエラルキーが存在しない点で「上司と部下の組織」ではない(例えばチームの一員であるマーケの部長が、コピーライターを指揮、監督することは、普通はない)。共通の目的や達成目標も存在する。こうした表層的レベルから見るなら、我々の「チーム」もドラッカーやマッキンゼー社の定義する「チーム」の要件を満たしているようにも見える。

●我々のチームを阻害する構造的要因
 しかし、我々のチームは、本当にハイパフォーマンスなチームとして機能しているだろうか。この問いには、いくつかの要因をもって、NOと答えざるを得ない。それは、個々人のスキルやモチベーションに責任が帰せられる問題ではなく、多分に我々のチームの構造的、根源的な問題だ。以下に我々のチームのパフォーマンスを阻害していると思われる要因を列記してみよう。

〔広告会社におけるチームの阻害要因〕
①複数チームの「掛け持ち」が多い

 チームのメンバーは、たいてい専任ではなく複数のチームの業務を同時並行的に兼務している。このため、ひとつのチームへのロイヤリティは低下せざるを得ない。
②いつもの得意先の仕事なので新鮮味が少ない
 チームの業務は多くの場合、各メンバーが長期継続して担当している得意先の業務である。そのため業務がある種のルーティン化してしまい、モラールの低下を招く。
③上司の目が届かないので手抜きが可能
 メンバー各個は、自分の所属する職種部門の上司の管理・考課下にあり、(露骨な表現だが)チーム内でいかに手を抜いても、上司への報告の時点で自分の担当するアウトプットさえ最終的に取り繕えば、ゴマカシがきく。
④期間が短くメンバー間の関係が未成熟
 チームの活動期間が短い場合が多く、このためコラボレーション=協創(*3)に必要な人間関係が未成熟であり、建設的な対立や相互批評がなされず、協創が成果を生み出せない。
⑤日本文化特有の暗黙のヒエラルキー
 日本企業(日本文化)に根強く残る「先輩・後輩」文化により、チーム内に無用な暗黙のヒエラルキーが現出してしまう。これにより、特にヒエラルキー下位のメンバーの自由な思考や創造が阻害されてしまう。

 以上、①から④までは広告会社の企業構造や受注業務の性質自体に拠る要因、⑤は日本文化の根幹に拠るものであり、いずれも改善、解消は容易ではない。

3.広告会社におけるチームの理想

●一般的なチームの3類型
 さて、広く知られているようにドラッカーはその著書でチームを3つの類型に分類して(*4) いる。1つは野球型チーム。これは選手のポジションが固定しており、各個は自分のポジションを確実に守ればよい。突出したエースがいれば勝利も可能だが、個の総和を超えたインパクトを生み出すのは難しい。2つ目はサッカー型チーム。これはオーケストラ型とも言われる。個々のポジションはあるが、メンバーはチームとして一体で動く。各々の分担については連携、調整しつつ業務を進める。ただしドラッカーは、このチームでは監督(指揮者)とその提示する戦略(譜面)が必要である、と言う。3つ目はテニスのダブルス型チーム。メンバーの役割は固定しておらず「優先すべき」ポジションのみがある。互いの領域をカバーしあい、強みと弱みを調整しあう(チームは2人とは限らない)。

●パフォーマンス向上のキー=キャプテン
 3つの類型の中では、我々のチームの業務内容から、あるいはIMCなどの観点からも、「サッカー型チーム」が適当だと言って良いと思う。しかしドラッカーによれば、このチームには監督の指揮が必須である。そして、ここ で注意したいのは、監督とはチームの外部者と位置付けられる点だ(前出のようにドラッカー自身が「チームとは上司と部下の組織ではない」と明言している)。我々のチームに準えるならば、監督は、実働メンバー以外の部長職以上の人間ということになろうか。彼は高い能力を持つ経験豊かな人間であるが「プレイヤー」の立場にはない。得意先との間で日々繰り返される細かな意思決定の現場には立ち会えないし、メンバーと行動を共にし、現場の感覚を共有しつつ、彼らを掌握・指揮することは、困難と言って良い。
 そこで注目すべきは、チームの内部にあって、監督とは別の位置でチームを統率、牽引する人間=キャプテンである。私は、サッカー型チームのパフォーマンスを高め、進化させるキーとして、キャプテンに注目したい。

●理想モデルとしての「ラグビー型チーム」
 ここで、キャプテンに重きを置くスポーツの好例としてラグビーを取り上げてみよう。周知のように、ラグビーのゲームでは監督は観客席に座り、チームはキャプテンによって指揮される。ラグビー界では「キャプテンとしての能力」を意味する「キャプテンシー」というタームが広く流通しているが、この事実は、この競技が他に比してキャプテンの存在を重んじている証左ともなろう。
 更に、私にとって幸運なことに、ラグビーチームは、キャプテン重視の特徴の他にも、広告会社の理想的チームにふさわしい特質を多く有している。そこで私は、新たなチーム類型として「ラグビー型チーム」を提唱してみたい。以下、その主な特質を揚げてみよう。

〔ラグビー型チームの特質〕

①大きく異なるスキルを持つ者により機能する
ラグビーのチームでは、ある者にはスクラムを押すパワーを、ある者には体躯が小さくても俊敏さとパス能力を、などとポジションに応じて求められるスキルが大きく異なる。また、プレースキッカーなど、特定の技能に特化したスペシャリストが強く求められる。
②意志統一が極めて重視される
ラグビーはサッカーのようにポジションに攻撃防御の区別はなく、大きくスキルの異なる15人全員で攻め、全員で守る。だからこそ、パフォーマンスを高めるためには、チームが意志統一され一体として動くことが、極めて重要な条件となる。
③キャプテンシーが重要な機能となる
そして、その様々なスキルを有するメンバーの意志を統一し指揮するのがキャプテンであり、彼のキャプテンシーである。また、重要な局面での意思決定を迅速に行うこともその主要な任務である(例えば、相手の反則に際して、ゴールキックを狙うか、そのまま攻めるかを、選択する)。キャプテンシーが、 チームの成果を大きく左右する要因となる。
以上の3点を要約すれば、理想としての「ラグビー型チーム」とは、「様々に異なるスキルの持ち主の意志を統一し、一体として機能させることによって高いパフォーマンスを生み出すチーム。しかも、チーム内部にあって優秀な統率者として機能するプレイヤーを持つチーム」として定義づけられる。言うまでもなく、チーム内部で統率者として機能するプレイヤーとは、キャプテンである。

4.チームキャプテンとしての営業マン

●キャプテンシーのスペシャリストたれ!
 さて、では我々のチームにおいて、キャプ テンの役割は誰が担うべきか。一番年長の者か、チーム内で一番統率力に優れた者か。否、これはやはり営業マンが担うべきものだ。なぜなら、意思決定のキーとなる得意先の情報に最も近い場所にいるのは彼なのだから。しかし逆に言えば、彼がキャプテンであるためには当然、業務全般に亘る知識と高度なキャプテンシーが求められる。つまり、営業マンは、広告全般のゼネラリストであると同時に、キャプテンシーのスペシャリストでなくては ならないのだ。
●キーポイントは、意志統一と意思決定
 そして、キャプテンの任務として重要なのは、まずチームの意志統一である。我々のチームのメンバーは、先に挙げたいくつかの構造的要因により、必ずしも高いモラールを維持しえない。目標達成に向かってこれを維持し、統一の戦略にそってメンバーを動かすのが、キャプテンの任務となる。
 更に、業務における意思決定も重要となる。得意先との折衝の中で次々と現れる意思決定事項の、的確かつ迅な処理が求められる(無論、任すべき意思決定をスタッフに任すことも 肝要だが)。
 仮に、重要な専門的スキルが彼に不足している場合も、スタッフからそのスキルを持つ副キャプテンを任命し、補佐させる構造とすればよい。重要なのは、意志統一と意思決定を行う存在としてのキャプテンである。

5.現実レベルで可能なチーム改革の具体案

●3つの方向からの具体的プラン提言
 営業マン自身のキャプテンシー向上は基本的には個の努力に委ねられるべき課題である。しかし、そのキャプテンシーを阻害しない環境の整備は、チーム改革案の大きなポイントとして位置づけたい。それによってチームが意志統一され、高いパフォーマンスが生起されると思う。加えて、先にチームの構造的阻害要因として挙げた、チームへのロイヤリティ低下、業務へのモラール低下の、各々の対応策も提示する。いずれも、大規模な組織改革を経ずに可能な、現実的対応策の範囲で立案を試みている。以下、列記しよう。

〔チーム改革の現実的な具体案〕
①キャプテンシーを阻害しない環境の整備
★「チームキャプテン制度」の確立
役職者により、目標達成のために結成され るチームの意義と、その構造(統率者、意思決定者としてのキャプテン制度)を明文化し、メンバーに徹底する。
★役職者によるキャプテンの任命、権限付与
チームの正副キャプテンを、正式にメンバーの前で任命し、必要な意思決定権を与える。
②チームへのロイヤリティ低下の回避
★チーム参加を最重要業務として再定義
曖昧だったチームの定義を、重要なプロジェクトのみに適用されるワークグループとして再定義し、役職者名でメンバーに徹底する。
★「チームシート」の作成、各部署への掲出
チームの目的と全メンバーの氏名、役割を記した「チームシート」を作成し、メンバーへ配布。またそれを各部署へ掲示し、チームへの広範な認知を得る。
★インパクトのあるチーム名の付与
名称を付すことで、チームを実体化、具象化する。(チーム名にウイットがあり、インパクトのあるものでなくては効果が薄い)
③メンバーのモラール低下の回避
★チームの成果に応じた特別ボーナス支給
チームの成果に応じて会社から特別ボーナ スを支給する。個人への支給ではなくチームへの支給でも良い。1人あたり1万円程度の金券などで充分だろう。
★メンバー相互評価制度の確立
チーム業務終了後、メンバー全員がチームの業績に対する評価レポートを書く。誰が貢献したか、誰が非協力的だったかを自戒も含めてレポート。全員分をまとめ、各職種部署の役職者へ提出し、考課資料の一つとする。

6.おわりに

 上記が、私の提示するチーム改革案であるが、具体案を提示することは、私にとってリスキーでもある。「前提部分は良いが、具体案になると急速にパワーを失う企画書」は、 どなたも見覚えがあるだろう。拙論がその轍を避け得ているかどうかは、評者の判断に委ねるしかない。
 しかし、リスク回避のために言うのではないのだが、上で提示した具体案以上に、何よりも重要なのは、営業マンがキャプテンシーのスペシャリストたることだ。まず、その強い意志を、あるいは意気を持つことである。統率者がかわったことで劇的にパフォーマンスを向上させたチームは、スポーツ界にもビ ジネス界にも、決して少なくないのだから。

〔引用〕
*1 「未来への決断」P.F.ドラッカー, ダイヤモンド社、P.104 
*2「高業績チームの知恵」 J.R.カッツェンバック, D.K.スミス,  ダイヤモンド社、P.55 
*3 『協創』の語は「組織とグループウェア(第2章<組織一グループ>関係論序説)」金井壽宏+岡田啓司,  NTT出版 P.91に拠る
 *4 「ポスト資本主義社会」P.F.ドラッカー, ダイヤモンド社 P.156~163

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